高齢の親に仕送りをしている家庭は少なくありません。特に単身高齢者では、年金収入だけでは生活費が不足するケースも多くあります。総務省『家計調査(2024年)』によれば、高齢単身無職世帯の平均消費支出は月約14.9万円ですが、住環境や健康状態、地域条件によって必要額には大きな差が生じます。家族が補填していても、家計の実態が共有されないまま支援が続くこともあり、親子双方にとって見えにくい負担となる場合があります。
都内で会社員として働く健一さん(仮名・52歳)は、地方に住む母・和子さん(仮名・82歳)に毎月24万円を仕送りしていました。母の年金は月約8万円。夫を早くに亡くし、長年一人暮らしです。
「生活が苦しい」
そう言われたのが仕送り開始のきっかけでした。
「足りないなら出そうと思いました。母ですから」
当初は月10万円でしたが、医療費や生活費の増加を理由に増額。現在は24万円になっていました。それでも母は「今月も足りないの」と言います。
ある日、健一さんは帰省します。玄関を開けた瞬間、違和感がありました。物が溢れていたのです。
未開封の宅配箱、同じ洗剤のストック、衣類の袋、健康食品の箱───。居間には段ボールが積まれていました。
「何これ…」
思わず声が出たといいます。冷蔵庫にも同じ食材が複数。賞味期限切れも多くありました。
「使い切れない量でした」
健一さんは母に聞きます。
「これ、全部買ったの?」
母は答えました。
「必要なのよ」「安かったから」「まとめて買う方が得でしょ」
生活費の内訳を確認すると、支出構造が見えてきました。
宅配・通信販売:約10万円
健康食品:約5万円
食費:約5万円
光熱費:約2万円
医療費:約2万円
その他:約4~5万円
合計:約28~30万円
収入(年金+仕送り)は32万円。数字上は不足していませんでした。
問題は生活費不足ではなく、購買行動でした。和子さんは外出が減り、日常の多くを家で過ごしています。
「テレビで見たら欲しくなるのよ」
通販番組やカタログを見て購入。届くと満足し、使い切れないまま次を注文する。そうした循環が起きていました。
「お金がないんじゃなくて、支出の流れが見えていないようでした」
高齢単身世帯では、支出の実態が本人以外に把握されにくい構造があります。とくに通信販売やサブスクリプション型サービスは家族から見えにくく、積み重なると家計を大きく圧迫することがあります。
金融庁『高齢社会における金融サービスのあり方(報告書)』でも、加齢に伴う購買判断や資産管理能力の変化により、不要契約や過剰購入が生じやすいリスクが指摘されています。
和子さんは「たくさんあると安心なの」と言います。物の蓄積は本人にとって心理的な安心感につながっていました。しかしその消費内容は、実際の生活必要量とは乖離していました。
親の生活支援は、金額を補うだけでは解決しない場合があります。家計構造と消費習慣、そして心理的要因が重なり合うためです。
仕送りは生活を支える力になりますが、支出の流れそのものを変えるわけではありません。親の家計には外から見えにくい構造があり、「足りない」という言葉の意味さえ、支える側と食い違うことがあります。
健一さんは段ボールの山を見ながら思いました。
「母は、お金に困っていたわけじゃなかったんだな」