韓国ソウルで154人が死亡した事故で、現場の警備担当はわずか32人だったことが分かり、安全対策の問題点が浮き彫りになってきた。
こうした中、亡くなった2人の日本人女性の家族が10月31日、ソウルに向かった。
ハロウィン前の週末で賑わう繁華街・梨泰院で大勢の人が折り重なるように倒れ、154人が死亡した事故。日本人2人が犠牲となった。
犠牲となった、北海道根室市出身の冨川芽生さん(26)。
芽生さんは2022年6月から半年間の予定でソウルに留学し、現地の語学学校に通っていたという。
31日朝、韓国に向かうため、自宅を出た芽生さんの父の歩さんは、「早く娘に会いたいです。最後まで大丈夫だと思ってたんですけど。前日も『友達と遊びに行く』という話しか聞いてませんでしたから、こんなことになると思っていませんでした」と涙ながらに語った。
事故の後、芽生さんの携帯電話を鳴らしてもつながらず、何度目かで韓国の警察官が出たという。
「僕は日本語でしゃべっていますから、イングリッシュ、イングリッシュって言葉が通じなかったです。それですぐあちこち連絡を取って、外務省の方に調べてもらえるように。最終的に指紋で、指紋が一致しましたと」
歩さんは、事故の約3時間前にやり取りした芽生さんとの最後のLINEを明かした。
「今日は同じクラスのフランス人に会う」
「まさか現場にいると思いませんでしたからね。もう韓国大好きで行ったものですから、十分楽しんでいました」と悲痛にくれた。
芽生さんの専門学校時代の同級生も「将来は韓国に留学したいっていうふうに言っていて、それが今年かなったっていう。卒業後も本当にいろんなことにチャレンジしていて、本当にすごいなって思って応援していたので」と悔しさをにじませた。
また、日本人で犠牲となったもう一人の小槌杏さん(18)。埼玉県出身で冨川さんと同じく留学中だったという。
杏さんの祖父は、「ほんとに突然のことで、言葉もないんだけど、ただ悲しいだけなんで、当たり前のかわいい子だったんで…」と取材に応じた。
31日、亡くなった2人の家族は、韓国へと向かった。
冨川芽生さんの父親の歩さんは北海道・新千歳空港で、「『気をつけなさいよ』って連絡しようと思ってたけど、まさかね(事故)現場に娘が行っているとは…。まず会いたいです」と集まった報道陣の取材に答え、午後4時前、仁川国際空港へ向け飛び立った。
また、小槌 杏さんの家族は、韓国の金浦空港に到着し、午後5時ごろ杏さんが搬送された病院に向かった。
事故が起きた梨泰院は大ヒットした韓国ドラマ「梨泰院クラス」の舞台となった街で、観光客にも人気のエリアだった。
29日の夜はハロウィンイベントやパーティーなどが開かれ、多くの人が集まっていた。
大勢の人が折り重なるように倒れ、亡くなったとみられている今回の事故。
一部の地元メディアでは「立っている状態で押しつぶされ、圧迫死した」「立ったまま気を失った人がいた」などの証言も報じられている。
滋賀医科大学社会医学講座の一杉正仁教授は、「非常にまれだが、限られたスペースに想像を絶するほどの人が集中した場合、密着した上に、さらに後ろから押されることで、胸部が圧迫され、立ったまま呼吸ができない状態が続き、死に至るケースが、理論的には起きてもおかしくない」と指摘する。
一方、事故をめぐり警察や行政の安全対策が不十分だったとの指摘が相次いでいる。
3年ぶりに行動制限のないハロウィーンを迎え、事故当日に梨泰院周辺には10万人を超える人々が集まるとされていた。
ところが、現場で警備を担当した警察官はわずか32人。コロナ禍以前より少なく、規制線なども設置されていなかったことが分かった。
さらに、ソウル市などがハロウィーンイベントは主催者のいない“自発的な集まり”との理由で、安全対策を立てていなかったことも明らかになった。
韓国メディアは「事故は防げた」などと批判を強めている。
(「イット!」10月31日放送より)