消費税のインボイス(適格請求書)制度開始が10月1日に迫る中、これまで納税を免除されてきた小規模事業主らの対応は割れている。
制度は複数税率の下での適正な納税確保が目的だが、負担増への懸念は強く、免税事業者の登録申請は財務省が見込む約160万業者の6割程度。専門家は「制度の浸透や理解促進に向けた、きめ細かい対応が欠かせない」と指摘する。
制度では、売り手が買い手に正確な適用税率や消費税額を伝えるため、一定要件を満たしたインボイスと呼ばれる請求書をやり取りする。
前提に「仕入れ税額控除」と呼ばれる仕組みがある。事業者は買い手から受け取った消費税から、仕入れの際に払った消費税を差し引いて納税する。この差し引きが仕入れ税額控除にあたる。
10月以降は原則、仕入れ先からインボイスの交付を受けないと控除できなくなる。制度への登録は任意だが、インボイスを発行できるのは、消費税の納税義務がある「課税事業者」のみ。納税義務が免除されている年間売上高1千万円以下の「免税事業者」は課税事業者に転換するか、免税事業者を維持するか選択を迫られている。
国税庁によると、今年8月末時点で課税事業者の登録申請は約95%に達した一方、免税事業者の申請は財務省が見込む約160万業者の約64%で開きがある。政府は免税事業者の懸念を受け、登録した場合は3年間、納税額を「売上時に受け取った消費税の2割」とする特例を導入。開始から6年間、インボイスがなくても一定の仕入れ税額控除(最大8割)を認める経過措置も設けた。
神戸市兵庫区の酒販売会社社長、寺村仁均(まさなお)さん(60)はすでにインボイス登録を済ませた。取引先には、お歳暮やお中元に際して酒を購入する企業や個人が多く、領収書などの発行を求められるというのが理由だ。
寺村さんは、制度開始後の税務処理の細部について確認が難しいとして「売上管理システムを一新し、会計士も呼んで準備を進めているが、見落としがないか不安は尽きない」と語った。
一方、約30社と取引関係がある大阪府のフリーライター、山本佳弥さん(45)は「経過措置がある間は登録しない」と決めている。
取引先から今夏、登録状況や意思を確認するアンケートが届き、ある社からは「免税事業者のままだと消費税分を含めずに支払う」との通知を受けた。独占禁止法に抵触する恐れがあると説明し、企業側が消費税分を肩代わりする方法に落ち着いたが「企業側も制度を十分理解していない。10月以降、混乱やトラブルが続発するのでは」と不安を隠さない。
税法に詳しい青山学院大の三木義一名誉教授は、制度導入は不可欠だとしつつ「導入後の影響は不透明な部分が多く、動向を注視する必要がある」と指摘。制度への理解も追いついておらず「浸透を図るためには継続的な啓発が重要だ」と述べた。