糖尿病を発症した人が注意しなければならないのは合併症。なかには命のリスクにつながるものもあり、治療を成功させるには合併症を徹底的に予防することが欠かせません。糖尿病の合併症はどう予防すべきなのか、「吉田内科クリニック」の吉田先生に教えていただきました。

監修医師:吉田 光範(吉田内科クリニック)
京都府立医科大学卒業。その後、京都市立病院放射線科、明石市立市民病院消化器内科、兵庫県立尼崎病院(現・尼崎総合医療センター )内科・東洋医学科医長、兵庫県立東洋医学研究所医長、米国ペンシルベニア大学ウイスター研究所研究員で経験を積む。1992年、兵庫県芦屋市に「吉田内科クリニック」を開院。日本内科学会認定内科医、日本東洋医学会漢方専門医、日本医学放射線学会放射線診断専門医、日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医。
編集部
「糖尿病は合併症が怖い」という話を耳にします。具体的には、どういった合併症があるのでしょうか?
吉田先生
糖尿病の三大合併症は、「糖尿病性神経障害」「糖尿病網膜症」「糖尿病性腎症」です。その中でも糖尿病性腎症は、最近大きな問題とされています。糖尿病のために腎臓の機能が低下する状態で「慢性腎臓病(CKD)」と言われ、そのまま進行すると人工透析が必要になることもあるからです。
編集部
ほかにもありますか?
吉田先生
さらに糖尿病による合併症で注意したいのは、「動脈硬化」の進行です。動脈硬化とは文字通り、動脈が厚くなったり、硬くなったりして弾力性が失われた状態のことを言います。動脈硬化が心臓の血管で起きれば、狭心症や心筋梗塞などの心臓血管障害、脳内の血管で起きれば脳出血や脳梗塞などの脳血管障害となり、突然死につながったり、重篤な後遺症を残したりするので注意が必要です。
編集部
なぜ、糖尿病になると動脈硬化が起きるのですか?
吉田先生
血糖値が乱高下することによって血管が傷ついたり、詰まったりして動脈硬化が起きやすくなるのです。また、糖尿病が発症する背景には肥満のほか、「インスリン抵抗性」があります。これは血糖値を下げる役割のあるインスリンという物質の効きが悪くなることを指し、インスリン抵抗性があると高血圧症や脂質代謝異常の悪化を引き起こし、動脈硬化をさらに悪化させることになるのです。
編集部
糖尿病の合併症は、どのようにして防げばいいのでしょうか?
吉田先生
食後の異常な血糖の上昇を防止して、血糖値の乱高下を防ぐことが最も重要です。正しい血糖コントロールは、糖尿病の人が合併症を起こさないようにするためにも、また、すでに合併症を発症している人が悪化させないためにも最も大切なことです。
編集部
具体的に、どのようにして血糖コントロールをおこなえばいいのですか?
吉田先生
食事と運動がカギを握っています。一番気をつけなければいけないのは、炭水化物(糖質)を食べ過ぎないということです。特に白米やパン、白砂糖など、過度に精製された炭水化物を過剰に摂取することは、即血糖値の乱高下につながります。
編集部
そのほかにも、気をつけることはありますか?
吉田先生
例えば、「ゆっくりよく噛んで食べる」「1日3食規則正しく食べる」「食事は腹八分目にする」などを日常的に継続することが重要です。
編集部
気をつけるべきポイントがたくさんあるのですね。
吉田先生
それから、味付けの濃いものや食塩の過剰摂取は高血圧にもつながり、動脈硬化のリスクを高めます。こうした食品も摂り過ぎないように気をつけましょう。
編集部
味付けを薄くしたり、塩分を取りすぎたりしないためには、どうしたらいいのでしょうか?
吉田先生
普段、私は「ご飯とおかずを一緒に食べず、懐石料理やコース料理のように食事をする」ということを患者さんによく話しています。例えば、懐石料理であれば、つきだし、汁物、天ぷら、刺身などがきて、最後に締めのご飯が運ばれてきます。自宅で食事をするときにもこうしたスタイルを真似すれば、自然とおかずの味付けが薄味になり、食塩の摂取、糖分の摂取も減ります。また、締めに至るまでにお腹がいっぱいになり、ご飯の摂取量が減るというメリットもあります。家庭でもこのような食事法を意識するといいと思います。
編集部
糖尿病の治療には糖質制限が重要と聞きます。上手に続けるポイントはありますか?
吉田先生
糖質制限を続ける一例として、「小腹が空いたときに炭水化物以外のものを間食すること」が挙げられます。例えば、私がいつも手元に置いているのは、ナッツ類や、ゆで卵、チーズです。これらはほとんど糖質がゼロなので、どれだけ食べても血糖値が乱高下することはありません。また、食事の20~30分前に間食しておくと空腹感が少なくなるので、食欲のコントロールがしやすく、食べ過ぎを防ぐこともできます。
編集部
運動療法では、どのようなことに気をつければいいでしょうか?
吉田先生
糖尿病の運動療法としては、中等度の強度(ややきついと感じるくらい)の有酸素運動が勧められています。さらに、筋肉量を増やしたり筋肉を増強したりする効果のある筋トレ(レジスタンス運動)も推奨されています。有酸素運動あるいは筋トレを単独でおこなうよりも2つを組み合わせておこなう方が、糖尿病の改善効果が高いことが研究によって判明しました。
編集部
なぜ、運動が必要なのですか?
吉田先生
有酸素運動で筋肉への血流量が増加したり、筋トレで筋肉が増えたりすると、血液中のブドウ糖が細胞の中へ取り込まれる量が増え、インスリンの効果が高まって血糖値が落ち着きやすくなるからです。また、有酸素運動をすると内臓の脂肪細胞が小さくなって肥満が改善されますが、肥満が改善されるとインスリンの効きがよくなることも研究により明らかになっています。ただし、血糖コントロールの状態が悪い場合や合併症が進行しているときには、運動をおこなうと危険なこともあります。必ず医師の指示に従いましょう。
編集部
食事療法と運動療法をおこなっても効果が不十分な場合には、薬物療法が必要なのですね。
吉田先生
はい。糖尿病の薬物療法では、薬によって血糖をコントロールすることで糖尿病の改善を目指します。薬剤にはインスリンの分泌を促す薬や、インスリンの効きをよくする薬、尿中に糖を排出し血糖値の上昇を抑える薬など、様々な種類があります。特にここ数年、糖尿病の薬物療法は劇的に進化しており、大きな効果が見込めるようになっています。
編集部
様々な薬剤から、自分に合ったものを使用するのですね。
吉田先生
そうですね。基本的には症状に応じて治療薬を選択しますが、血糖コントロールが不良のときなどには、注射によってインスリンを補う治療法もあります。いずれにしても、糖尿病の治療は根気良く、通院を続けることが必要です。特に自覚症状がないからといって自己判断で通院を中断することなく、必ず医師の指示に従って通院を継続するようにしましょう。
編集部
食事と運動が大切で、それでも不足する場合は薬物療法という考えなのですね。
吉田先生
基本的にはそうなりますが、体調管理も大事な要素です。睡眠不足になると血糖値があっという間に上がることがわかっています。また、肉体的・精神的負担も血糖値に大きく影響します。こうしたことに気をつけながら食事や運動を見直すことが必要です。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
吉田先生
糖尿病の治療には食事療法や運動療法、薬物療法など様々ありますが、大事なのは「血糖の乱高下を防ぐ」ということです。血糖値の乱高下を防ぐには食事が重要です。食事療法を実践するにあたって、「食事を最終目標にしない」ことをいつも患者さんにお話ししています。食事を最終目標にすると、とことん満足がいくまで食べたくなりますが、例えば「食後に散歩をする」「趣味の楽器演奏をする」「物づくりをする」「本を読む」「映画を観る」などを決めておくと、眠たくなったり、やる気がなくなったりしないように自然と食事をコントロールするようになります。さらに、「三度の食事よりも好きなことを作る」のが理想です。食べることで人生を誤魔化さず、正しい食習慣を身につけて健康的な幸せな生活を送ってほしいと思います。
糖尿病の治療は、一朝一夕で効果が出るものではありません。長期的な視点で取り組むことが大切とのことでした。医師との二人三脚で、確実に継続するようにしましょう。

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