「寒さが厳しくなり、頻尿を感じる人が多いようです。
寒さと頻尿の関連を示す決定的な研究論文はありませんが、尾骨と恥骨の間にある骨盤底筋が寒さで緊張して膀胱に圧がかかること、暖かい季節のように余分な水分を汗で排出しないことなどから、冬は『過活動膀胱』になりやすいと考えられています」
こう語るのは、米国・ボストン在住の内科医・大西睦子さんだ。じつはこの過活動膀胱症状のある人の半数が、尿失禁、すなわち尿漏れの症状を伴うという研究結果があるのだ。
「尿失禁には、トイレに間に合わないときに起こる切迫性尿失禁、おなかに力を入れたときに起こる腹圧性尿失禁、双方の症状を併せ持った混合性尿失禁などがあります」(大西さん、以下同)
筑波大学人間総合科学研究科の研究グループが、20歳から64歳の日本在住女性を対象にした調査では、平均年齢43・4歳の女性における尿失禁有病率は25.5%。
’02年の国の疫学調査では、女性の切迫性尿失禁は377万人、腹圧性尿失禁は461万人にものぼっている。尿漏れに悩む女性は多いのだ。
「つい“年のせい”だと考えてしまいがちですが、生活習慣の見直しで発症を予防できる可能性に言及した論文があります」
それが’23年3月、更年期障害学会の医学誌で発表された、イェール大学医学部のリンゲル・ナンシー博士らの研究だという。
「米政府からの資金援助を受けて行われた大規模調査です。ここでは、カロリーゼロ、糖質オフなどの清涼飲料水やアルコール飲料に用いられる人工甘味料を摂取する頻度と、女性の尿失禁症状が強まる関連性について報告されています。
女性を対象としたのは、男性に比べて尿失禁患者が多いためでしょう。アメリカでも、尿漏れは多くの女性が抱える悩みです」
全米の40の臨床センターで登録された50~79歳の閉経後の女性で、3年後の追跡調査で人工甘味料の消費量を推定する質問票に記入した8万388人を対象としている。
「ダイエット飲料(ソーダやフルーツドリンク)などを、どのくらい飲んでいるか(約350mmリットルが1回分の目安)を調べたところ、飲用したことがない、もしくは飲用が週1回未満の女性に比べて、1日1回以上飲むという女性は混合性尿失禁を報告する確率が10%高いという結果でした」
論文では、その要因を「人工甘味料などのいくつかの食品や飲料は、膀胱や下部尿路に悪影響を及ぼすと考えられる」と考察されている。
「動物実験ですが、人工甘味料は膀胱排尿筋の収縮を促進することを示す研究結果もあります。“カロリーゼロだから太らない”と、つい安心して人工甘味料入り飲料を摂取しがちですが、尿漏れリスクにかかわる可能性もあるので、少量にとどめておくほうが無難のようです」
人工甘味料を使用していても、健康的には甘くない面もあることを心得ておきたい。