学校の部活動で「規則を破った」「試合に負けた」などを理由に、顧問の教員が生徒に丸刈りを強要することがあります。過去には、教員が無理やりバリカンで生徒の頭髪を丸刈りにした事例もありますが、こうした行為は法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。
Q.学校の部活動で顧問の教員が生徒に丸刈りを強要したり、無理やり丸刈りにしたりした場合、法的責任を問われる可能性はありますか。
佐藤さん「生徒の意思に反して丸刈りを強要した場合、刑事上、民事上の責任を問われる可能性があるでしょう。特に民事上、違法になる可能性が高く、損害賠償請求の対象になります。また、無理やりバリカンで生徒の頭髪を丸刈りにしたような場合、暴行罪に問われることがあります。
丸刈りの強要が『体罰』に該当する可能性もあります。体罰は、学校教育法11条により禁じられていますが、体罰かどうかは、生徒の年齢、健康、心身の発達状況、行為が行われた場所的および時間的環境、懲戒の態様などの諸条件を総合的に考え、客観的に判断されます。
そして、『殴る、蹴るなどの身体に対する侵害』と評価されれば、直ちに体罰に該当することになります。丸刈りの強要については、『身体に対する侵害』の面があり、人格侵害に当たる行為とも考えられ、『体罰』と評価されるケースが多いように思います。
『部活動は特別。勝つためにはどんな厳しい指導も許される』といった誤った考えが、いまだに根強く残っているようですが、部活動においても体罰が許されないことは当然です。
文科省は『体罰の禁止および児童生徒理解に基づく指導の徹底について』という通知の中で、部活動について、『成績や結果を残すことのみに固執せず、教育活動として逸脱することなく適切に実施されなければならない』こと、『指導と称し、部活動顧問の独善的な目的を持って、特定の生徒たちに対して、執拗(しつよう)かつ過度に肉体的・精神的負荷を与える指導は教育的指導とは言えない』ことを明示しています」
Q.法的責任を負う可能性があるにもかかわらず、学校での丸刈り強要の事例が、なかなかなくならないのはなぜなのでしょうか。考えられる原因について、教えてください。
佐藤さん「指導者自身も丸刈りを強要されたり、体罰を受けたりした経験があり、そうした経験を肯定的に捉えることで、自分の指導を正当化していることが考えられます。
また、学校や部活動という比較的閉じた世界の中で、指導する側とされる側という力関係が前提にあり、『指導者の言うことがすべてである』という誤った価値観に支配されている面もあるでしょう。
こうした負の連鎖が起こるのは、指導者に、科学的根拠や合理的理由に基づいて指導する意識や能力がないためともいえます。指導者が自らの指導力不足を認識し、指導力の向上に努めることが大切なように思います」
Q.生徒が教員に無理やり髪を切られた判例はありますか。
佐藤さん「山梨市内の中学校で2016年6月、当時中学2年の女子生徒が、校内で教員に工作用のはさみで髪を切られる事案がありました。その後、女子生徒は精神的苦痛を負ったなどとして、市に770万円の損害賠償を求める訴訟を起こしました。裁判所は2021年11月、教員が女子生徒の髪を切ったことの違法性を認め、市に11万円の支払いを命じました。
この裁判で、女子生徒は髪を切ることに『同意していない』と主張していましたが、その点は認められませんでした。しかし、理容師の資格もない教師が工作用のはさみでカットしたことは不適切であり、事前にヘアカットの当否について保護者に確認せずにカットしたことも職務上の義務を怠っており、違法と評価されました」