石破総理は「日本の財政状況はギリシャよりもよろしくない」と国会で発言したことを、私は辞任に追い込まれた江藤農水相の「コメを買ったことがない」発言とは比べものにならない問題発言だとし、その論拠として日本政府の資産を時価評価すると、日銀や社会保障基金を連結対象にしなくても日本政府は今なお債務超過に陥ってはいないこと、さらに社会保障基金や日銀まで連結評価すれば、日本政府の債務が全く問題にならないことを、5月23日公開の「日本の財政、じつは48兆円の『資産超過』だった…!石破総理『ギリシャ以下』発言のトンデモ度を証明する『驚きの試算内容』」で具体的に指摘した。
この問題を今回は前回とはまた違う視点から考えてみたい。
まず各国の財政状況の評価するのに使うものにCDS(クレジットデフォルトスワップ=国債が破綻した際の債務不履行リスクの保険商品)というものがある。これによって考えてみよう。
日本国債の5年もののCDSの水準は、石破発言がある直前の段階では17.96だったが、石破発言後に22.90にまで、一気に5ポイント近く上昇した。
5月28日段階では石破発言直後よりは幾分下がって21.39となったが、これは日本国債が5年以内にデフォルトする可能性が0.36%あることを示している。
ちなみに先進7カ国で最もデフォルトの確率が低いとされているドイツでも0.20%の債務不履行リスクがあるとされている。だから先進国の中でもずば抜けて財政が健全だとされるドイツと比べても、日本の債務不履行リスクが2倍以上になっているわけではない。石破発言がある前は、日本の破綻確率は0.30%にとどまっており、ドイツと比べても破綻リスクは1.5倍程度だったのだ。
ドイツの次に低いとされるイギリスが0.35%であり、さらにフランスが0.61%、カナダが0.66%、アメリカが0.80%、イタリアが0.92%と続く。
つまり日本の財政破綻確率は、ドイツに次いでG7諸国の中では二番目に低かったのであり、石破発言によってその確率が上昇してからも、三番目に低い立場を保っているのだ。
ちなみにギリシャは、かつてとは比べものにならないくらいに改善し、5年間の破綻確率は0.96%にまで下がっているが、それでも日本の3倍程度の破綻確率となっている。
「日本の財政状況はギリシャよりもよろしくない」は、CDSから見る限り、全く当てはまっていないのだ。
そもそも石破問題発言の最大の根拠とされたであろう政府総債務の対GDP比にしても、日本は2020年が258%、2021年が254%、2022年が248%、2023年が240%、2024年が236%と、2020年をピークとして、年々かなりのペースで改善傾向にあるのが実際だ。
どうしてこういうことが起こっているかといえば、昨今のインフレの進行によって、名目GDPはかなりのペースで増える一方で、過去発行された低金利の債務の増加速度は圧倒的に小さいからである。
ちなみに2024年のG7諸国の財政赤字の対GDP比を見ていくと、カナダは2.15%、日本は2.48%、ドイツは2.76%、イタリアは3.45%、イギリス5.75%、フランスは5.79%、アメリカは7.26%という状況で、日本はカナダに次いで二番目にいい状態にある。
ここでもう一つ気づいて欲しいことは、財政赤字が対GDP比で2.48%もあったとしても、今のインフレ状況の中では、政府総債務の対GDP比は改善傾向にあるということだ。
名目GDPだけでなく、実質GDPも伸ばせるように政府投資を進めれば、国民生活の向上に資するだけでなく、政府総債務の対GDP比も大きく下がることになる。日本の進むべき方向は、こういうものではないのか。
さらに直近の財政状況を見ると、日本の財政状況が大きく改善に向かっていることがわかる。
3月21日に発表された日銀の資金循環統計(速報)によると、一般政府は2024年の7-9月期は4.6兆円の資金不足であったが、同年の10-12月期になると1.3兆円のプラスに転じているのである。これは3ヶ月とはいえ、財政黒字が生まれたと見ればいい。
これは同統計で遡れる2005年以来初めてのことだということからしても、驚くべき事態である。
インフレによって政府税収が大きく伸びていることがその背景にあるのだが、第一生命経済研究所の星野卓也・経済調査部主席エコノミストは、今後の経済情勢次第としながらも、2025年度にプライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化が実現する可能性も出てきたことを指摘している。
これが日本の財政状況のリアルである。
このように、日本の財政状況はもともと抱えている問題が大きくない上に、問題と見られた部分についても悪化するのではなく、改善方向に向かっているのが実際だ。
にも関わらず、石破総理は「日本の財政状況はギリシャよりもよろしくない」と語ってしまった。
これは会社の経営者が、会社の状況がそれほど悪い状態にあるわけでもなく、抱えている問題にしても改善状況にあるのに、「うちの会社はヤバいんです」と公言したに等しい話だ。
会社の経営者は、仮に会社の財務状況が悪くても、それを公言するようなことはしないだろう。
どれだけ石破発言が問題の大きいものだったかがわかるだろう。
即刻退陣すべき問題発言だということを、改めて訴えたい。
米銀行業界の脱「脱炭素」に、ザッカーバーグの脱「ファクトチェック」…いまアメリカで脱「リベラル」の動きが加速している「深刻な理由」