日本人の寿命を圧倒的に縮めるお馴染みの「食品」

食事のうま味が多めだと減塩されていても満足感につながりおいしく食べられる、という調査結果も多くあります(写真:dejavu/PIXTA)
バターはいいけど、マーガリンは健康に悪い、オーガニック食品は安心で、中国産の食品は危ない……。ネットやテレビ、あるいは知人などの会話から、私たちは日々食品に対するさまざまな情報を仕入れ、中にはそれが“常識”となっているものもある。しかし、私たちが盲目的に信じている食品に関する情報ははたして本当なのか。
本稿では、科学ジャーナリストの松永和紀氏著『食品の「これ、買うべき?」がわかる本』より、うま味調味料の安全性について一部抜粋・編集して、紹介する。
うま味調味料で最も有名な製品名は「味の素」でしょう。昆布のうま味成分の研究をもとに作られた食品添加物で、さまざまな加工食品に用いられていますし、家庭でも用いられています。
「いえ、我が家は使っていません」と言われるかもしれませんが、粉状のだしの素や液体だし、めんつゆなどは使っているのでは? 実はこれらの製品の多くにも、かつおぶしや昆布などと共にうま味調味料が使われているのです。パッケージの添加物欄に、調味料(アミノ酸等)として記載されています。これら以外の多数の加工食品にも用いられています。
100年以上前に、池田菊苗・東京大学教授が昆布を研究していて、グルタミン酸がうま味の素であり、ナトリウムと結合させるとうま味が強くなり扱いやすくなることを見出しました。
池田教授は英国に留学した時に日本人の体格が貧弱であることに気づきます。そこで、食事をもっとおいしくたくさん食べられるように、と研究してグルタミン酸ナトリウムの製法を発明しました。特許庁は、池田教授を日本の十大発明家の一人に選んでいます。
国内外で用いられるようになったグルタミン酸ナトリウムですが、1960年代、米国の医師が「グルタミン酸ナトリウムの大量摂取で頭痛や顔面紅潮などの症状が起きた」と報告し「中華料理店シンドローム」と名付けられました。
しかし、多くの研究でこの症状は否定されています。国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)が合同で設置している「食品添加物専門家会議」(JECFA)も、摂取の上限量を定める必要がない、と判断しています。
複数の企業が、グルタミン酸ナトリウムやしいたけ、かつおぶしなどに含まれるほかのうま味成分を混ぜた白い粉状の調味料を製造しています。各社は共同で「うま味調味料と呼んでほしい」と運動を続け、現在ではこの名称が定着しています。
うま味調味料は昔、化学調味料と呼ばれていました。NHKが、味の素という製品名を使えないために1960年代に命名したようです。当時は「化学」という言葉がよいイメージで使われていました。
ところが、公害などにより化学という言葉のイメージが悪化し、中華料理店シンドロームの話などとも合わさって「化学調味料は体に悪い」という情報になってしまった、と考えられています。
最近は、料理研究家の中でも堂々と使う人が出てきました。安全性になんの問題もないですし、舌が慣れてしまう、というのも俗説です。食事のうま味が多めだと減塩されていても満足感につながりおいしく食べられる、という調査結果も多くあり、病院や高齢者施設でもうま味調味料を積極的に利用するところが増えてきているそうです。
日本人が食生活で注意すべきは、なんといっても食塩の摂りすぎだと私は思います。高血圧や慢性腎臓病につながりますし、胃がんリスクも上げる、とされています。
食塩は、食品を保存するために非常に重要であり、漬物や干物、さまざまな加工食品に大量に使われていました。戦後すぐの調査で、成人の男性が平均して1日20gの食塩を摂取していたことが報告されています。
ところが、食品添加物が用いられるようになり、冷蔵庫や冷凍庫も普及して食品の保存性は上がりました。食塩が健康に悪いことも広く知られるようになって減塩が進み、2022年の国民健康・栄養調査によれば、成人平均の食塩摂取量は9.7gとなっています。

ただし、世界保健機関(WHO)が推奨しているのは1日5g未満。また、日本人の食事摂取基準2025年版でも目標量は成人男性で7.5g未満、女性で6.5g未満です。国民健康・栄養調査の結果は調査された人の過少申告によるもので、2013年に実施された尿調査の解析によれば、成人男性は平均して1日14gもの食塩を摂っています。
減塩は、やっぱり強力に推し進める必要があります。塩分が多いのは麺類。ラーメンで食塩が1杯7g以上ある、というのはざらです。もったいないですが、麺類のだし、スープは残しましょう。若い人は、醤油や味噌など塩気の強い調味料からだけでなく、マヨネーズやドレッシングなどからも食塩を意外に多く摂っています。注意しましょう。
(松永 和紀 : 科学ジャーナリスト)