55歳も離れた年の差婚、13億円の遺産、“密室状態”での殺人疑惑。世間の耳目を集めた「怪死ミステリー」は、一審で無罪判決という劇的な展開を見せた。
【写真】アヒル口に整形の元モデル…早貴被告
和歌山県田辺市の資産家で「紀州のドン・ファン」と呼ばれた野崎幸助氏(享年77)が急性覚醒剤中毒で急死したのは2018年5月。この死を巡り殺人と覚醒剤取締法違反の罪に問われた当時の妻、須藤早貴被告(28)に、和歌山地裁は今月12日の判決公判で無罪を言い渡したのである。
検察側は“遺産目的の完全犯罪”との筋書きで無期懲役を求刑していたが、立証不十分として退けられた。社会部デスクによると、
「今年9月の初公判以来、元妻の須藤被告は一貫して無罪を主張しました。対する検察側は、元妻が殺害目的で覚醒剤を入手し、野崎さんと二人きりの時間帯に摂取させたと主張。元妻の携帯電話に残った行動記録などの状況証拠を丁寧に積み重ね、有罪を立証しようとしたのです」
だが、どうやって野崎さんに覚醒剤を摂取させたかを示す直接的な証拠はなく、
「判決は、“第三者による他殺や自殺の可能性はないといえるものの、元妻が殺害したとするには決め手に欠ける”と慎重な判断をしています。この判断では“野崎さんが覚醒剤を誤って過剰摂取した可能性”が重視されました」
野崎氏自らが致死量の覚醒剤を一度に摂取した“事故”の見方は否定できないというのだ。
その見方の根拠は、
「野崎さんが20年ほど前から交際していた女性、A子(仮名)が10月に検察側の証人として出廷した際の話です」
と、社会部デスクが続ける。
「A子は法廷で、野崎さんが亡くなる約20日前までに、“覚醒剤やってるで、へへへ”と電話で告げられた一件を明かしました。彼女が“頭おかしいんじゃないの”と応じると、“やってるで”と言われて電話を切られたといいます」
彼女は、野崎氏がふざけている様子だったので気に留めなかったとも話したが、
「判決は、“冗談であっても何の背景事情もなく発言するとは考えられない”と指摘。何らかのきっかけで野崎さんが覚醒剤に関心を抱いた可能性があり、急死は事故との見方も否定できないと判断したのです」
事情を知る関係者が語る。
「ドン・ファンはかつて、東京の丸の内界隈でサラリーマンや公務員を相手に貸金業をしていました。宣伝チラシが入ったティッシュを配るアルバイトに女子大生を雇っていて、当時、都内の有名私立大に通っていたA子もティッシュ配りをやっていた。それが縁で、ドン・ファンと会って関係を結ぶ代わりに20万円などをもらう間柄になったのです。その後、彼女は“大阪でコンパニオンをしている”と話していました」
判決では、須藤被告と野崎氏が18年2月に結婚したあとも、A子は野崎氏に呼ばれて性的関係を持っていたとされている。
「ドン・ファンの急死直後、A子は電話の一件があったのは18年3月だったと話していました。実はその時期は、二人がもめていた最中。ドン・ファンは自分の電話に出ないA子に業を煮やし、わざわざ家政婦のスマホを借りて罵詈雑言を浴びせかけていた。A子は法廷でこのあたりの事情には触れていません。ですから、関係が拗れている時期にドン・ファンが彼女に“覚醒剤やってるで”とあえて告げた意図を測りかねるのです」
判決を無罪に導く重要証言をしたA子。怪死ミステリーの続きが紡がれるなら、彼女に関する謎解きも注目されるだろう。
「週刊新潮」2024年12月26日号 掲載