結婚して数年が経った頃、夫婦関係の歯車が噛み合わず、心の隙間を埋めるように一度だけ過ちを犯してしまった女性がいた。その後、夫との子どもの妊娠を機に、夫婦は再び互いを思いやり、かつてのすれ違いが嘘のように関係は改善。それから20年、彼女はその秘密を胸の奥深くに沈め、誰にも知られることなく、円満な家庭を築き上げてきた。
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しかし、子どもが成人し夫婦2人の生活が始まろうとするなか、ふと思い出した過去の過ちが罪悪感となって顔をだした。誠実な夫を騙し続けてきたという重荷を降ろすために、謝罪とともに告白すべきだと彼女は考えた。一方で、告白を機に離婚となるのも問題である。彼女は告白すべきなのだろうか、夫婦関係修復カウンセリング専門行政書士の木下雅子さんに話を聞いた。
ー過去の不倫をパートナーに告白するメリット・デメリットとは
パートナーが全く気づいていない過去の不倫の告白は、「百害あって一利なし」です。強いて言うならば、告白した本人が「罪悪感から解放される」という点でしょう。しかし、自分の心の重荷を軽くするために、パートナーの心に一生消えることのない深刻な傷を負わせる行為は、自己中心的と言わざるを得ないでしょう。
一方で、デメリットの方がはるかに大きいと考えます。パートナーに「不倫をされた」と傷つけることと、「20年間騙され続けていた」と失望させることです。
かつて、70代になって50年も前の結婚前の出来事がきっかけとなって離婚した事例があります。夫が「嫁ぐとき、自分が初めての男性だったのか?」と何気なく聞いてみたところ、「実は あなたと出会う前、身も心も愛し合った人がいたのよ」と告白。妻としては「50年も前のことだし、打ち明けても大丈夫だろう」という軽い気持ちだったのでしょう。夫は「50年間も俺を騙してきたのか」と激怒し、離婚を突き付けました。
このように時間の経過は、裏切られたという感情を風化させず、むしろ「これほど長い間、嘘をつかれていたのか」という絶望感を増幅させてしまいます。
ーもしこの女性が相談に来たらどのようにアドバイスしますか
まず「その秘密は、墓場まで持って行ってください」と伝えるでしょう。今抱えている罪悪感は、過去に犯した過ちに対する当然の報いであり、あなたが生涯背負うべきものです。それを告白という安易な手段で手放そうとすることは、パートナーに対する二度目の裏切りになってしまうと話します。
ただし、罪悪感を背負い続けるのが辛いのもわかります。したがって、その罪悪感を吐き出す場所として、守秘義務を持つ専門家、すなわちカウンセラーを頼るようにすすめます。
親や親しい友人であっても、絶対に打ち明けてはなりません。どんなに信頼している相手でも、関係性の変化や些細なきっかけで、あなたの秘密が漏れ伝わるリスクは常につきまといます。罪悪感は、安全な場所で専門家に吐露し、パートナーに対しては、何事もなかったかのように、完璧に沈黙を守り抜くことが現在の幸せを守るための最善の選択でしょう。
◆木下雅子(きのした・まさこ)行政書士、心理カウンセラー。
大阪府高槻市を拠点に「夫婦関係修復カウンセリング」を主業務として活動。「法」と「心」の両面から、お客様を支えている。
(よろず~ニュース特約ライター・夢書房)