参政党とTBS「報道特集」の“対立”が激化している。始まりは7月12日の放送で、「報道特集」は参院選における各政党の外国人政策を紹介した。その際、参政党の主張は外国人排斥運動やヘイトスピーチを誘発していると批判。キャスターの山本恵里伽アナウンサーも「これまで以上に想像力をもって、投票しなければいけないと感じています」と、選挙期間中にもかかわらず、“参政党ブーム”を牽制する異例の言及を行った。これにネット上では賛否両論の議論が巻き起こった。
***
【写真を見る】トランプ氏、プーチン氏と面会を果たした昭恵さん。安倍元総理との結婚式で見せた初々しい表情
参政党は「報道特集」の放送内容を「公平性、中立性を欠いた」と強く抗議。一方のTBSは「有権者に判断材料を示すという高い公共性、公益性がある」と反論した。だが参政党はBPO(放送倫理・番組向上機構)の放送人権委員会に申し立てるに至った。
すると「報道特集」は7月26日、「参政党のメディア“排除”を問う」とのタイトルで、再び参政党を批判する内容の番組を放送した。担当記者が言う。
「7月22日に行われた参政党の定例会見で、神奈川新聞の記者が出席を拒否されたことを『報道特集』は取り上げました。定例会見の取材に訪れた記者に参政党が『取材の事前申請が行われていない』ことを理由に退出を求めました。ところがその後、事前申請は必要ではなかったことが明らかになったのです。そのため参政党は24日、公式サイトで記者が《街頭演説で大声による誹謗中傷などの妨害行為に関与していた》と指摘、《混乱が生じるおそれがあると判断》したため退出を求めたと説明を改めました。この参政党と神奈川新聞の“バトル”を TBSが取り上げた格好になります」
ちなみに神奈川新聞の記者はヘイトスピーチの問題に関し、以前から精力的な取材を続けてきた。その取材現場での行動が賛否両論の議論を巻き起こしてきたことも事実だ。
今回、参政党との“対立”が先鋭化したこともあり、過去に記者を撮影した動画がYouTubeなどで拡散を続けている。
「参政党が虚偽の理由で神奈川新聞の記者を会見の会場から排除したことは事実として残ります。ただ、YouTubeで拡散している記者の動画に衝撃を受ける人も多いでしょう。そのためネット上では記者を批判する意見と支持する意見は入り乱れています。一方、TBSは記者を全面的に擁護しており、その報道姿勢に『公平性を欠くのでは?』という疑問の声も少なくありません。参政党は26日に報道特集の党を批判する2回目の放送が終了すると、神谷宗幣代表が自身のXに《一方的に党の印象を貶める内容の番組が放送されたことを大変遺憾に感じています》と投稿し、TBSに対する敵対的な姿勢を明確にしました」(同・記者)
神谷氏が問題視していることの一つに、「報道特集」の設定した回答期限と、番組で「回答がなかった」と言及したことが挙げられる。神谷氏の投稿によると、「報道特集」からは7月24日に取材の依頼が行われ、神谷氏は24日の夜に確認したという。
ところが「報道特集」が設定した回答期限は翌25日の午後6時。神谷氏はXに《25日も会談やテレビの収録が続き、25日の18時までという回答期限は無理な要求でした》と説明した。
「報道特集」は番組の最後に「参政党からは期限内に回答がなかった」と言及した。これに神谷氏は強い怒りを表明している。
《一方的に期限を区切り質問を送りつけるだけで、こちら側の言い分をしっかり取材することもなく、候補者の一部の発言を切り取り、記者の取材を受けなかったことと繋げるような編集》──で放送されたと強く批判した。
政治報道に強いネットメディアの編集長は「このやり取りを見て、故・安倍晋三元首相の対応を思い出しました」と言う。
「2015年、自民党の若手議員の勉強会『文化芸術懇話会』が開催され、出席した若手国会議員の中から『マスコミを懲らしめるには広告料収入がなくなることが一番』、『沖縄のメディアは左翼勢力に乗っ取られている』といった問題発言が飛び出していたことが明らかになりました。当時の安倍政権は安全保障関連法案の国会審議を進めており、反対する一部の大手メディアとは対立関係にありました。その状況に若手議員は不満を持ち、放言につながったと考えられます。その後も安倍政権の強権姿勢、メディアに対する圧力が問題視されたため、翌16年2月の衆院予算委員会で民主党の階猛議員が『安倍政権で報道機関は萎縮している』と質問しました。ところが安倍さんは階さんに『帰りに日刊ゲンダイでも読んでみてください』と答弁を返したのです」(同・編集長)
夕刊紙の日刊ゲンダイは自民党政権に批判的な論調で知られる。それを踏まえて当時の安倍首相は「毎日、自分を批判しているゲンダイの紙面を見れば、メディアが萎縮していないことが分かる」と階氏の質問に皮肉を込めて反論したというわけだ。
ちなみに産経新聞は日刊ゲンダイにコメントを依頼し、2016年2月に配信した記事で、その内容を紹介している。(註)
日刊ゲンダイ編集部は「権力にこびることなく、自由に報道している自負がある」、「夕刊紙が時の政権を過激な表現を使いながら批判するのは当たり前」と、報道の自由が健全な民主主義にとって不可欠であることを改めて訴えた。
その一方で、「日刊ゲンダイが自由に報道していることで、報道の自由全体が確保されているとの主張はあまりにもご都合主義ではないか」と改めて安倍氏を批判した。
「政治家が特定のメディアを排除した例は過去にもあります。古くは1972年、佐藤栄作さんが首相退陣の際、『テレビカメラはどこかね? 国民に直接話したい。新聞記者の諸君とは話さない』と発言し、記者全員が抗議のため退席しました。また、2012年には民主党の前原誠司政調会長が、記者会見で産経新聞記者の出席を拒否しています。この時は、自民党の大島理森副総裁が『我々は批判に耐えながら、政治をやっていかなければならない』と断じました。やはり参政党の神谷さんも批判は免れないと思います」(同・編集長)
日本は民主主義国家であり、政治家は民主主義を遵守する必要がある。言論の自由、取材の自由に制限を課すことは慎むべきであるのは言うまでもない。
ネットメディアの編集長が続ける。
「ジャーナリストの石戸諭さんが2024年、Xで安倍元首相との思い出を振り返っています。石戸さんが毎日新聞の新人記者だった時、当時は官房長官だった安倍さんが新人研修に参加してくれたとのエピソードを披露。毎日の新人記者が批判的な質問を投げかけても、安倍さんは真摯に応じたそうです。石戸さんは《異論も含めてがっつり答える政治家の度量は感じられました》とし、《リベラル、毎日・朝日は嫌いだったのでしょうが、出禁にはしていない》と指摘しました。今回の参院選で大幅に議席を増やし、永田町における存在感が一気に増した参政党に対して、これまで以上に様々な異論や反論、批判が寄せられるのは間違いありません。それにどう対応するかで、党の真価が問われることになるはずです」
註:安倍首相に名指しされた日刊ゲンダイがコメント 「権力にこびることなく自由に報道している」(産経新聞電子版:2016年2月4日)
デイリー新潮編集部