みずから北朝鮮に亡命も「帰国したい」と繰り返し訴訟を… 日本初のハイジャック事件を起こした「よど号」メンバーの現在

1970年、9人の若者が日本初のハイジャック事件を起こした。あの日からちょうど55年後の今年3月31日、東京都に慰謝料を求める訴訟を起こしたのは、当のハイジャック犯たち。この期に及んで、彼らは何を主張しているのか。
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【実際の画面】よど号メンバーが「精神的に回復困難な打撃を与えられた」と主張する“写真”とは?
新左翼党派・赤軍派のメンバー9人が羽田発福岡行きの日航機「よど号」をハイジャックし、北朝鮮に亡命したのは70年3月31日のこと。55年たった今も、4人の実行犯と2人の日本人妻は平壌の“日本人村”で暮らしている。
今回、東京都を訴えたのは、実行犯の一人である魚本公博容疑者(77)と、同じく実行犯・若林盛亮の妻である若林佐喜子容疑者(70)、よど号グループのリーダーだった故・田宮高麿の妻である森順子(よりこ)容疑者(72)の三人である。
社会部デスクの解説。
「三人は、ヨーロッパで日本人留学生を拉致した容疑者として国際手配されている旨が、警視庁のホームページに顔写真入りで掲載されています。訴状によれば、このことは三人について〈極めて重大な犯罪を犯した犯罪者であるとの印象を受ける〉ものであり、〈精神的に回復困難な打撃を与える〉から、1人あたり550万円の慰謝料を支払えと主張しています」
顔写真の掲載については〈「お尋ね者」としてその顔写真をさらし者にするものであり、肖像権侵害の違法性の程度は高い〉と断じており、相当にご立腹の様子なのだ。
「帰国を希望している三人は12年前にも、自分たちに対し結婚目的誘拐の容疑で逮捕状が出たのは違法であるとの主張で、国賠訴訟を起こしています。“拉致はしていない”と力説し、最高裁まで粘りましたが、〈民事裁判において、刑事上の責任の存否に関わる判断をすることは予定されていない〉と、あっけなく棄却されていました」(同)
繰り返される訴訟。果たして真意はどこにあるのか。
「逮捕状の件と今回の件は、手続きとしては別。実態は同じ話ですけどね」
そう語るのは「救援連絡センター」の山中幸男事務局長である。氏は30年以上にわたり、よど号メンバーを支援してきた。
「今回は訴えの利益を変えて、ホームページで公開すること自体が名誉毀損になるかどうか。将来的にはこれは争点になると思います」
刑事裁判でケリをつければいいのでは?
「とにかく帰国すればいいというのであれば、それも一つの手段でしょうが、そもそも根拠のない拉致容疑の逮捕状を撤回させるのが先。そうすれば、ほかの人たちと同じように帰って来られますから。位置付けとしては、帰国のための政治的なアプローチなんですよ」
ところで、日本人村で暮らす面々の現状について問うと、山中氏は不安げだ。
「朝鮮がウクライナ戦争に参戦した昨年の12月から、朝鮮側がよど号(のメンバー)に、公式の意見表明は控えろ、と。日本は敵対国ですからね。それで、これまでメールで送ってもらっていた、サイトで公開する記事の原稿も届かなくなった。いまも連絡が途絶えていて苦慮しています」
そうはいっても、
「NHKや民放のBS放送は観られるから、報道番組やスポーツをよく観ています。みんな大谷(翔平)が好きですよ。アメリカについては、全面支持ではないけど、トランプ大統領の自国中心主義の考え方には好意的ですね」
自ら渡ったかの国で、悠々たる老後の日々を送りつつ、望郷の念に駆られて裁判沙汰。どこまでも身勝手な人たちである。
「週刊新潮」2025年6月19日号 掲載