同居する孫の収入が増えたことを理由に生活保護を打ち切ったのは違法だとして、熊本県長洲町の男性が県に処分の取り消しを求めた裁判で、最高裁判所は男性の上告を棄却しました。
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訴状などによりますと、男性は妻と孫の3人暮らしで、2014年7月から妻と生活保護を受け始めました。この時、看護専門学校生だった孫は、生活保護法に基づき、アルバイトをしても夫婦世帯の収入とはみなさない「世帯分離」の対象になりました。
孫は、准看護師としてアルバイトで得た収入を学費などに充て、看護師を目指していましたが、県は孫の収入が増えたとして、孫と祖父母の家計を一つとみなし、祖父母にあたる男性と妻の生活保護を打ち切りました。
男性は「孫の収入は学費であり、生活に回す余裕はない。生活保護法に基づいた厚生労働省の通知によると、専修学校で学ぶ場合は世帯分離の対象に含むと明記している」として、処分の取り消しを求めていました。
2022年10月、一審の熊本地方裁判所の判決は男性の訴えを認めるもので、「生活保護を打ち切ると夫婦は経済的に困窮し、自立を目指す孫にも支障が及ぶ可能性が高いことが予想できた」とし、熊本県に処分の取り消しを命じました。
そして、2024年3月、福岡高等裁判所の控訴審判決では「最低生活費を上回る世帯収入があったことなどから、世帯分離を解除する判断は違法とは言えない」と男性側敗訴の判決が言い渡されていました。
男性は判決を不服として上告しましたが、最高裁判所第1小法廷(岡正晶裁判長)は6月12日付でこの上告を棄却しました。
原告の代理人弁護士によりますと、最高裁の裁判官5人の意見は全員一致だったということです。
熊本県は「現行制度ではこの判決が正しく、県の主張が認められたものと考えている。しかし、今後、頑張っている若者を応援できるような見直しが行われる場合には賛同する」とコメントしています。
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生活保護世帯のうち、大学や専修学校などに通う人については、同居家族などとは異なる世帯として扱う仕組みです。
国は以前、生活保護世帯の子が義務教育を終えた後に大学や専修学校などへ進学することは「贅沢」として原則は認めませんでした。
しかし、高校進学率が高くなったことで、国は1970年に生活保護世帯の子の高校進学を「世帯内就学」と位置付け、大学や専修学校に進学する場合も「世帯分離」をしたうえで就学を認めました。