最近よく、Xで「ドカ食い気絶」という表現を見かける。文字通り、腹一杯になるまで“ドカ食い”し、すぐに気絶するように寝ることだ。経験者は快感を覚えるが、そこには健康リスクが多い。糖尿病専門医は血糖値の乱高下による問題を指摘し、精神科医は心因的要因があると分析する。
【映像】過食嘔吐で44キロ→32キロに痩せ細った関あいかさん(当時の様子)
ネットには“ドカ食い”コンテンツが広がっている。YouTube・TikTokなどでは、「人気メニューTOP5当てるまで帰れません」系動画や、「〇〇全種類 食べ切る/全メニュー制覇する」系動画、「食べ放題で元を取る」系動画のほか、“モグモグ生配信”、“モッパン”、“ASMR”といったものが人気だ。X・Instagramなどでも、ハッシュタグ「#ドカ食い気絶(部)」が使われ、ドカ食い系マンガがトレンド入りする。ハイカロリーな“背徳グルメ”投稿も拡散される。
こうした根強い人気を持つ一方で、時には摂食障害になってしまうクリエイターも。海外では動画配信中の死亡事故もあるなか、なぜ“ドカ食い気絶”をしてしまうのか。『ABEMA Prime』では、当事者と医師を交えて話を聞いた。
ゲーム配信者・よむさん(26)は、ほぼ毎日のようにドカ食い気絶を繰り替えしている。「一人暮らしを始めてから、ご飯を用意するのが面倒くさく、一度の食事量が増えた。おなかが満たされているときは気持ちよく、ベッドに横になったらすぐ寝てしまう」。
れべっかさんも「寝るためやストレス発散で始めた。寝落ちる瞬間は、あらがえない眠気があり、気持ちがいい。働く中で期間が空くと、もう1回気絶する感覚を味わいたくて、頻度が増えていった」と振り返る。
そもそも、なぜドカ食いをすると、気絶するように眠れるのか。糖尿病専門医の矢野宏行氏は、「糖質の多い食品を大量に一度に摂取することで、急激に血糖値が上がっていく。一気に上がった血糖値が、インスリンによって一気に下がり、いわゆる“血糖スパイク”を起こし、一連の反応の中で体の状態が半分、意識もうろうとしてくる状態になる」と推測する。「その時は幸せを感じる瞬間があるが、確実に糖尿病のリスクにつながり、全身の健康状態の悪化にもつながる」。
精神科医で早稲田メンタルクリニック院長の益田裕介氏は「気を失うことは気持ちよく、ストレスがたまると思わずやりたくなる。深酒も『飲みたい』で頭が真っ白になり、飲むとスカッとする。不安やストレスがたまると、欲求で頭がいっぱいになり、解放されるとクセになる。ドカ食いもゲームも、性依存、リストカットなどの自傷行為も、その一種だ」と話す。
こうした行為に至る背景には、周囲の環境も無縁ではない。「精神科の領域は、家族問題がセットだ。ドカ食いやアルコール、ギャンブルなど、すべての人に何かしらあり、単独の摂食障害はほぼない。子どもの頃から『どうしたら自分は楽になれるのか』と模索している。大人になれば解決策がわかるが、10~20代はわからないため、身近な市販薬や食べ物、お酒や暴力に頼ることはよくある」。
モデルでインフルエンサーの関あいかさんは2020年、友人と2人のYouTubeチャンネルを立ち上げ、「ナゲット100個食べ切るまで帰れません」動画を撮影した。制作スタッフから「食べきれないと企画が成立しない」と怒られたため、達成のため過食嘔吐するようになってしまう。そして、企画がスケールアップしても吐きながら続け、次第に吐くことが快感になった。
益田氏は「自分に自信がないため、自分に罰を与えている部分もある」と指摘する。「食べてしまう自分が情けなくなる。吐く行為で情けなさをコントロールしているが、食品を粗末にして、それに時間を費やすことで、さらにストレスがたまる。食べたら安心するが、また情けなくなる。このループから抜けられない」。
依存を判断する目安としては、「自分で止めたくても止められない」「自分や周囲が『やばい』と思う」ことを挙げる。そして解決策として、「誰かと一緒に住むのがいい。依存症の治療は、孤独だとダメ。人間は信頼できる人や、愛してくれる人がいることが大事だ」とアドバイスする。
自分が依存していると気づいた時には、どうすればいいのか。「ピアサポートのような当事者同士のコミュニティもあるが、まずは1回、専門家とつながった方がいい」。
防止の観点からは、「依存しやすい人や孤独な人は、情報から悪影響を得るため、何かしらのルールはあった方がいい」と考える。そして益田氏は、“フードポルノ”という表現を使いつつ、「摂食障害の治療をしていると、科学や栄養の知識がない人に結構出会う。説明しても『アイドルの誰々は、1日にサラダ1パックしか食べていない』『このYouTuberは食べているけど、全然太ってない』と言われて、話が通じないことが多い」と語った。(『ABEMA Prime』より)