アマゾン配達員「疲労で車が大破、血だらけなのに配達させられた」、過酷労働で労組結成の動き

アマゾンの下請業者(デリバリープロバイダー)を通じて、配達業務にたずさわる神奈川県横須賀市内の配達員らが6月、「東京ユニオン アマゾン配達員横須賀支部」を結成したことを受け、全国各地のアマゾン配達員らによる労組結成を目指す動きが、広がりをみせている。東京ユニオン上部団体の全国ユニオンが8月29日に記者会見を開き、今後の方針や、長時間労働が是正されないことにより、業務上での深刻な事故の相談も相次いでいるとして、その事例を紹介した。

「疲労で車両が横転し、大破する事故を起こし、血だらけになっているにもかかわらず、休めず包帯を巻いて車を乗り換えて最後まで配達をさせられた」といった深刻な内容も少なくなく、弁護団の菅俊治弁護士は「氷山の一角にすぎない。これに類似した事例は全国に埋もれている可能性がある」と語った。(ライター・今川友美)●九州などでも労組結成の動き労働環境が過酷になっている背景には、アマゾンが配送ルートの選定にAI(人工知能)を採用して以来、荷量が急増し、過酷な長時間労働を強いられているにもかかわらず、それに見合わない報酬が固定化されているということがあるという。配達員らは、いずれも下請業者との間で業務委託契約を締結し、アマゾンとは直接契約を結んでいないが、AIによる配送指示という直接的な指揮命令を受けていることから、「使用者」としての責任があるとして、アマゾンや下請業者に団体交渉などを求めていきたい考えだ。全国ユニオンによると、労組結成に向けた動きがあるのは、九州と2つ関東の地域だ。九州地域では、横須賀と同様のデリバリープロバイダーの二次下請と契約を結ぶ20人以上が加入し、9月4日に結成する予定だ。●毎朝の出勤時間指示めぐり、「労働者にほかならない」と主張九州地域の要求書などによると、「日当額は物量によって決められるとの説明があったが、坂が多く、かつ自動車が入れない坂が多い地形などを踏まえれば、他地域よりも低額であることが許容されるわけはない」と、全国平均水準よりも低い日当の引き上げを求めている。また、出勤時間が毎朝指示されており、「こうした実態からすれば、配達員は労働者にほかならず、配達員との間の『業務委託契約』は偽装であり、実態に基づき労働契約であることは明らか」としている。このほか、時期とエリアによっては1日当たり250個に達し首都圏でも屈指といわれる横須賀の荷量に匹敵する関東地域の複数のドライバーからも相談が寄せられ、連絡を取り合っている状況だという。いずれの地域も急激な荷量にドライバーが苦しめられている。また、相談に訪れていた他の関東地域で働くアマゾンと直接契約をするアマゾンフレックスのドライバーが、荷量の急増による焦りで業務中に事故を起こし、現在も治療中だ。そこで、「被災者は、労働基準法上の労働者ではないかということで、労災保険法に基づいた労災申請ができないか」(担当弁護士)と、労災申請と同時進行で、組合結成に向けて準備中だ。●配送中の事故「ある」が4割以上菅弁護士は、横須賀支部結成を受けて、配送ドライバー向けに開設した相談フォームに8月3日までに寄せられた57人からのアンケート集計結果や、ホットラインに寄せられた20件の相談内容について報告した。報告によると、「1日あたりの平均的な労働時間」は、12時間以上が4割超、10時間以上を含めると9割だったほか、「1日あたりの平均な配達個数」は、地域的な特性で極端に少ないエリアを差し引くと、200個以上が6割、180個以上が3割で、長時間労働かつ荷量の増加の実態が裏付けられた。そうした状況のなか、「配送中に交通事故を起こしたことがありますか」という質問にたいして、「ある」が4割以上で、「その交通事故の程度について」はうち2割が「事故後は配達を続けられない程度の大きな事故」だったことが明らかになった。以下が事故の概要だ。■対物事故・住宅街の脇道から本線に出ようとした際に、右側から走行してきたトラックに追突されました・住宅街で路地裏から公道に出る際に右側からスピードを出したトラックに追突されました■人身事故・バイクとの事故・間に合わなくて急いでいた事故が2回、くらくらしてぼーっとしていた事故が2回・電柱にぶつかった。縁石にボディーを擦った。側溝にタイヤがはまった・次に行く配達先の確認をラビット(AI)で確認していたときに、前の車が赤信号で停まっているのに気づくのが遅れて追突・左折時、前の車に追突・急いでいたための物損事故(バック時)■接触事故・バックに電柱に激突して、ハッチ扉を全取り替えしました。荷量が多すぎて焦ってしまった。修理代は自腹で10万円ほどでした。相手が人ではなかったのが幸いでしたが、痛い出費です・道が狭くて坂道も多く、ほかの地域より配達が難しい。20時を過ぎても配達が終わらないので焦って車を運転していたら、狭いカーブで後部タイヤを内輪差でぶつけてパンクさせた。交換後21時半を過ぎていたが、配達を続行させられた。・アマゾンのナビに従って運転していたら、自動車が通れないほど狭いうえ、車が登れなくなるほどの急な坂道に案内され立ち往生した。たまたま通った他社の配達員が誘導してくれたが、バックするためにブレーキを軽く離したら制御不能になり、ガードレールにぶつかった。その後、走行可能だったので、配達続行・ほかのドライバーがフォローで何個か荷物を引き取ろうかと提案してくれたが、許可されず、その後、3週間出勤停止になり、次事故を起こしたら契約解除だと告げられた事故についての相談は、ホットラインにも相次いで寄せられた。以下が一例だ。(福島県内のドライバー・日当1万4700円)人によっては午前4時から仕分け開始し、7時配達開始、20時か21時まで休みなく配達する。週休2日と言われていたが、基本週1日しか休めず、セール時は休みがない。交通事故も多発しており、営業所全体で週に2~3件は起きている。免停になった配達員も何人もいる。自分も複数回免停になった。免停中の休業補償はもちろんない。いちばんひどかった事故は、疲れのせいか一時停止を見落としてしまい、横からノーブレーキで突っ込まれて軽バンが横転し大破、腕が血だらけになった。だが、休めないので包帯を巻いて車を乗り換えて配達を続けた。●9月11日にホットライン第2弾を開催菅弁護士は、こうした事例が「氷山の一角にすぎない」としたうえで、今回のホットラインの相談者の特徴として「すでに横須賀で労組が作られたということで、相談とともに『組合を作ったらどうなるんですか』『どうやって作ったらいいんですか』というところに踏み込んでいたドライバーがほとんどだったということは、これまでの相談経験にはない」とし、労組結成の機運が高まっていることを実感したという。そこで、9月11日にはホットラインの第2弾を開催し、ドライバーの実態解明とともに、労組結成の動きをさらに広げていきたい考えだ。横須賀支部では、アマゾンおよび一次下請との交渉をすでに開始しているが、「使用者」には該当しないという姿勢を貫き続けている。「配達ドライバーホットライン 第2弾」の開催概要は以下の通り。9月11日10時~20時電話:050・5808・9835(9月1日:一部の内容を修正しました)
アマゾンの下請業者(デリバリープロバイダー)を通じて、配達業務にたずさわる神奈川県横須賀市内の配達員らが6月、「東京ユニオン アマゾン配達員横須賀支部」を結成したことを受け、全国各地のアマゾン配達員らによる労組結成を目指す動きが、広がりをみせている。
東京ユニオン上部団体の全国ユニオンが8月29日に記者会見を開き、今後の方針や、長時間労働が是正されないことにより、業務上での深刻な事故の相談も相次いでいるとして、その事例を紹介した。
「疲労で車両が横転し、大破する事故を起こし、血だらけになっているにもかかわらず、休めず包帯を巻いて車を乗り換えて最後まで配達をさせられた」といった深刻な内容も少なくなく、弁護団の菅俊治弁護士は「氷山の一角にすぎない。これに類似した事例は全国に埋もれている可能性がある」と語った。(ライター・今川友美)
労働環境が過酷になっている背景には、アマゾンが配送ルートの選定にAI(人工知能)を採用して以来、荷量が急増し、過酷な長時間労働を強いられているにもかかわらず、それに見合わない報酬が固定化されているということがあるという。
配達員らは、いずれも下請業者との間で業務委託契約を締結し、アマゾンとは直接契約を結んでいないが、AIによる配送指示という直接的な指揮命令を受けていることから、「使用者」としての責任があるとして、アマゾンや下請業者に団体交渉などを求めていきたい考えだ。
全国ユニオンによると、労組結成に向けた動きがあるのは、九州と2つ関東の地域だ。
九州地域では、横須賀と同様のデリバリープロバイダーの二次下請と契約を結ぶ20人以上が加入し、9月4日に結成する予定だ。
九州地域の要求書などによると、「日当額は物量によって決められるとの説明があったが、坂が多く、かつ自動車が入れない坂が多い地形などを踏まえれば、他地域よりも低額であることが許容されるわけはない」と、全国平均水準よりも低い日当の引き上げを求めている。
また、出勤時間が毎朝指示されており、「こうした実態からすれば、配達員は労働者にほかならず、配達員との間の『業務委託契約』は偽装であり、実態に基づき労働契約であることは明らか」としている。
このほか、時期とエリアによっては1日当たり250個に達し首都圏でも屈指といわれる横須賀の荷量に匹敵する関東地域の複数のドライバーからも相談が寄せられ、連絡を取り合っている状況だという。いずれの地域も急激な荷量にドライバーが苦しめられている。
また、相談に訪れていた他の関東地域で働くアマゾンと直接契約をするアマゾンフレックスのドライバーが、荷量の急増による焦りで業務中に事故を起こし、現在も治療中だ。
そこで、「被災者は、労働基準法上の労働者ではないかということで、労災保険法に基づいた労災申請ができないか」(担当弁護士)と、労災申請と同時進行で、組合結成に向けて準備中だ。
菅弁護士は、横須賀支部結成を受けて、配送ドライバー向けに開設した相談フォームに8月3日までに寄せられた57人からのアンケート集計結果や、ホットラインに寄せられた20件の相談内容について報告した。
報告によると、「1日あたりの平均的な労働時間」は、12時間以上が4割超、10時間以上を含めると9割だったほか、「1日あたりの平均な配達個数」は、地域的な特性で極端に少ないエリアを差し引くと、200個以上が6割、180個以上が3割で、長時間労働かつ荷量の増加の実態が裏付けられた。
そうした状況のなか、「配送中に交通事故を起こしたことがありますか」という質問にたいして、「ある」が4割以上で、「その交通事故の程度について」はうち2割が「事故後は配達を続けられない程度の大きな事故」だったことが明らかになった。
以下が事故の概要だ。
■対物事故・住宅街の脇道から本線に出ようとした際に、右側から走行してきたトラックに追突されました
・住宅街で路地裏から公道に出る際に右側からスピードを出したトラックに追突されました
■人身事故・バイクとの事故
・間に合わなくて急いでいた事故が2回、くらくらしてぼーっとしていた事故が2回
・電柱にぶつかった。縁石にボディーを擦った。側溝にタイヤがはまった
・次に行く配達先の確認をラビット(AI)で確認していたときに、前の車が赤信号で停まっているのに気づくのが遅れて追突
・左折時、前の車に追突
・急いでいたための物損事故(バック時)
■接触事故・バックに電柱に激突して、ハッチ扉を全取り替えしました。荷量が多すぎて焦ってしまった。修理代は自腹で10万円ほどでした。相手が人ではなかったのが幸いでしたが、痛い出費です
・道が狭くて坂道も多く、ほかの地域より配達が難しい。20時を過ぎても配達が終わらないので焦って車を運転していたら、狭いカーブで後部タイヤを内輪差でぶつけてパンクさせた。交換後21時半を過ぎていたが、配達を続行させられた。
・アマゾンのナビに従って運転していたら、自動車が通れないほど狭いうえ、車が登れなくなるほどの急な坂道に案内され立ち往生した。たまたま通った他社の配達員が誘導してくれたが、バックするためにブレーキを軽く離したら制御不能になり、ガードレールにぶつかった。その後、走行可能だったので、配達続行
事故についての相談は、ホットラインにも相次いで寄せられた。以下が一例だ。
(福島県内のドライバー・日当1万4700円)人によっては午前4時から仕分け開始し、7時配達開始、20時か21時まで休みなく配達する。週休2日と言われていたが、基本週1日しか休めず、セール時は休みがない。交通事故も多発しており、営業所全体で週に2~3件は起きている。免停になった配達員も何人もいる。自分も複数回免停になった。免停中の休業補償はもちろんない。いちばんひどかった事故は、疲れのせいか一時停止を見落としてしまい、横からノーブレーキで突っ込まれて軽バンが横転し大破、腕が血だらけになった。だが、休めないので包帯を巻いて車を乗り換えて配達を続けた。
菅弁護士は、こうした事例が「氷山の一角にすぎない」としたうえで、今回のホットラインの相談者の特徴として「すでに横須賀で労組が作られたということで、相談とともに『組合を作ったらどうなるんですか』『どうやって作ったらいいんですか』というところに踏み込んでいたドライバーがほとんどだったということは、これまでの相談経験にはない」とし、労組結成の機運が高まっていることを実感したという。
そこで、9月11日にはホットラインの第2弾を開催し、ドライバーの実態解明とともに、労組結成の動きをさらに広げていきたい考えだ。
横須賀支部では、アマゾンおよび一次下請との交渉をすでに開始しているが、「使用者」には該当しないという姿勢を貫き続けている。
「配達ドライバーホットライン 第2弾」の開催概要は以下の通り。9月11日10時~20時電話:050・5808・9835
(9月1日:一部の内容を修正しました)