【京都タリウム殺人】被告の“妻”が初告白 夫の浮気を確信した“誕生日旅行”、「別居を決意した直後に警察が…」

昨年10月、立命館大学3年生だった浜野日菜子さん(当時21)に、劇薬のタリウムを摂取させて殺害した容疑で、今年3月に逮捕された宮本一希被告。この件で起訴されている被告は、同じくタリウムを用いて2020年7月に自身の叔母(61)を殺害しようとした殺人未遂容疑で再逮捕された。叔母は現在も意識不明の状態で、一希被告は黙秘を続けている。
取材で探し当てた妻・A子さんのもとを何度か訪ねると、彼女は重い口を開いた。「前編」でA子さんは、2020年に叔母が倒れて以降、目に見えて羽振りが良くなった一希被告が、夜な夜な祇園のビジネス仲間との高級会食に出かけていたことを明かした。さらに、若い女性の影も――。果たして、事件の背景に何があったのか。(前後編のうち「後編」)【高橋ユキ/ノンフィクションライター】
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【写真を見る】一希被告の実家は、約250坪の一等地に建つ豪邸 叔母が倒れて以降、羽振りの良い生活を送っていたという「いまでも叔母様の事件に主人が関わったとは信じられないのですが、それ以上に浜野さんの事件は信じられないんです。なぜなら、主人は浜野さんと本当に仲が良かったから……」叔母への殺人未遂容疑で再逮捕された宮本一希被告(YouTube「Willy Japan」より) A子さんは浜野さんの存在をいつから知っていたのか。A子さんに尋ねると、緊張した面持ちで口を開いた。「昨年の6月くらいから急に仕事が忙しいといって、帰宅が0時を過ぎたり、休日も仕事があるといって出かけるようになって、家庭を顧みなくなる頻度が増えました。最後は平気で朝帰りまでするようになり、これはおかしいと思い、苦渋の決断で高額の探偵を雇って調べてもらいました。そこで浮上したのが、若い女性との“不倫”疑惑でした」“誕生日旅行” 探偵からの報告書には、手を繋いで歩く二人の写真があった。A子さんは一希被告に“浮気”を問い詰めた。ところが夫は断固として認めない。そのため、「“もうこの家に帰って来ないで”と怒鳴りつけたら、その日から本当に帰って来なくなりました」という。一方、相手の女性にA子さんが抗議するようなことはなかった。ただ、一度だけ、心を痛めたA子さんが取った行動があった。「彼女のFacebookに、家族旅行で訪れたことのある北海道のレストランについての投稿があったんです。それに対して“いいね”を押しました。昨年10月上旬、二人が“誕生日旅行”に出かけているときのことでした」 一希被告と浜野さんは誕生日が同じだった。そのタイミングに合わせて、二人が淡路島に一泊旅行へと出かける際、A子さんは浜野さんのSNSへの投稿に“いいね”を押したという。周囲に相談することもできないA子さんにとって唯一の、そして精一杯の行動だった。そして、A子さんのアカウントはほどなく、浜野さんからブロックされてしまう。 その後、浜野さんのマンションで半同棲していた一希被告が、A子さんと娘の住む自宅に戻ってきたのは、誕生日旅行から10日ほどが経った2022年10月12日――。 浜野さんが病院に搬送されたのは、まさに、その日の朝のことだった。以降、一希被告は浜野さんのマンションに足を運ばなくなったことを、A子さんは不思議に思っていたという。別居のための引っ越し当日に警察が「後になって彼女が10月15日に搬送先の病院で亡くなったと知りましたが、その前後も、主人はいつもと変わりない様子で京都にいたと思います」 浜野さんと一希被告は経営者仲間の店で出会ったとされる。関係者によれば、「“舞妓のイベントをやっているからアルバイトしないか”と一希さんが誘ったそうです。浜野さんは彼の会社でデザインやシフト調整などの仕事をこなしていて、他のスタッフとも面識があった」という。 一方のA子さんは、離婚に向け、別居を決意する。ところが、娘と一緒に家を出ようと考えていた昨年11月、自宅に“警察”がやってきたという。「その日の朝に引っ越しを予定していたんです。主人はゴルフで早朝に家を出る予定だったので、それから引っ越し業者が訪れる予定でした。ところが、主人が家を出てすぐに呼び鈴が鳴った。忘れ物かと思ってインタフォーンのモニターを見たら、10人以上もの男性がいて……。まもなく彼らが警察だと分かりました。主人も出先で警察に事情を聞かれていたようですが、当初は“いちばん動機がある者”として、私が容疑者のような扱いで。ほぼ強制同然で任意同行を受け、スマホやPCを押収されました。そのとき“浮気”を疑っていた彼女が亡くなったことを初めて知らされたんです」「私が追い詰めてしまったのではないか」 当時を振り返りながら、A子さんが続ける。「彼女には本当に申し訳ない気持ちがあります。主人と関わっていなければ、とも思いますし……。私が探偵なんか雇わなければよかったではないか、もしかすると、私が追い詰めてしまったのではないか、と」 声を震わせながらそう語ったA子さんは、その日から一希被告と別居を始め、いまも娘と二人で生活している。今年3月に逮捕されるまで、一希被告とは「子供の両親として、いい関係を築こう」と話し合い、別居していても週末は夕食を家族三人で食べ、遊園地に行くなどしていたという。 夫の逮捕後、娘は幼稚園を転園した。複数の幼稚園から“花街の名を汚した”、“うちでは預かれない”と断られ、ようやく預かってくれる幼稚園を見つけた。A子さんは今も離婚していない。周りの友人からはその状況に違和感を持たれ、距離を置かれているという。「パパは遠くで仕事をしている」 生活は一変した。叔母の件ではA子さんを含む家族全員が警察にたびたび事情聴取を受けた。A子さんの別居先も複数回家宅捜査を受け、PCとスマホを二度も押収されている。それでも、いまは離婚を踏みとどまり。拘置所にいる一希被告に、娘の様子を手紙で伝え続けている。 それを読んだ一希被告からは<安心しました>と伝言が届くが、ふたつの事件については、<毒殺なんかしていません。裁判で明らかにしていきます>と伝えてきたという。 目に涙を溜め、時折、ハンカチで目頭を押さえながらA子さんは続ける。「本当に主人が事件を起こしたのかどうかは断言できません。でも、何かしらで関わっていることは、おそらく……。とりわけ、浜野さんの事件については、なぜそうなってしまったのかをよく考えます。家族や娘の存在が、どうしてストッパーになれなかったのか。それを上回るぐらい、彼が苦しい思いを抱えていたのかな、とか……。もう一度、夫として愛せるかと問われれば、難しいですね。でも、判決が言い渡された時に、万が一、死刑って言われたら、それは悲しいだろうな、主人も心の支えがないときついだろうな、と思ってしまって。縁があって結婚して、娘が生まれたことは事実です。やはり娘の父親なので、どこかで彼のことを信じたい気持ちがある。今はただ、一度も主人と話ができないままに報道や警察のいうことを鵜呑みにしたくない、主人が違うと言うなら、信じてあげようと思っています」 A子さんは娘に、一希被告の現状について“パパは遠くで仕事をしている”と伝えている。娘はときどき、家族3人が笑っている絵を描いてくれるという。 同じ父親として、娘を失った浜野さんの両親の気持ちを一希被告は想像できるだろう。事件当日に浜野さんとの間に何があったのか。被害者の家族も、一希被告の家族も、それを知りたいと切に願っているはずだ。高橋ユキ(たかはし・ゆき)ノンフィクションライター。福岡県出身。2006年『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』でデビュー。裁判傍聴を中心に事件記事を執筆。著書に『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』『木嶋佳苗劇場』(共著)、『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』、『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』など。デイリー新潮編集部
「いまでも叔母様の事件に主人が関わったとは信じられないのですが、それ以上に浜野さんの事件は信じられないんです。なぜなら、主人は浜野さんと本当に仲が良かったから……」
A子さんは浜野さんの存在をいつから知っていたのか。A子さんに尋ねると、緊張した面持ちで口を開いた。
「昨年の6月くらいから急に仕事が忙しいといって、帰宅が0時を過ぎたり、休日も仕事があるといって出かけるようになって、家庭を顧みなくなる頻度が増えました。最後は平気で朝帰りまでするようになり、これはおかしいと思い、苦渋の決断で高額の探偵を雇って調べてもらいました。そこで浮上したのが、若い女性との“不倫”疑惑でした」
探偵からの報告書には、手を繋いで歩く二人の写真があった。A子さんは一希被告に“浮気”を問い詰めた。ところが夫は断固として認めない。そのため、「“もうこの家に帰って来ないで”と怒鳴りつけたら、その日から本当に帰って来なくなりました」という。一方、相手の女性にA子さんが抗議するようなことはなかった。ただ、一度だけ、心を痛めたA子さんが取った行動があった。
「彼女のFacebookに、家族旅行で訪れたことのある北海道のレストランについての投稿があったんです。それに対して“いいね”を押しました。昨年10月上旬、二人が“誕生日旅行”に出かけているときのことでした」
一希被告と浜野さんは誕生日が同じだった。そのタイミングに合わせて、二人が淡路島に一泊旅行へと出かける際、A子さんは浜野さんのSNSへの投稿に“いいね”を押したという。周囲に相談することもできないA子さんにとって唯一の、そして精一杯の行動だった。そして、A子さんのアカウントはほどなく、浜野さんからブロックされてしまう。
その後、浜野さんのマンションで半同棲していた一希被告が、A子さんと娘の住む自宅に戻ってきたのは、誕生日旅行から10日ほどが経った2022年10月12日――。
浜野さんが病院に搬送されたのは、まさに、その日の朝のことだった。以降、一希被告は浜野さんのマンションに足を運ばなくなったことを、A子さんは不思議に思っていたという。
「後になって彼女が10月15日に搬送先の病院で亡くなったと知りましたが、その前後も、主人はいつもと変わりない様子で京都にいたと思います」
浜野さんと一希被告は経営者仲間の店で出会ったとされる。関係者によれば、「“舞妓のイベントをやっているからアルバイトしないか”と一希さんが誘ったそうです。浜野さんは彼の会社でデザインやシフト調整などの仕事をこなしていて、他のスタッフとも面識があった」という。
一方のA子さんは、離婚に向け、別居を決意する。ところが、娘と一緒に家を出ようと考えていた昨年11月、自宅に“警察”がやってきたという。
「その日の朝に引っ越しを予定していたんです。主人はゴルフで早朝に家を出る予定だったので、それから引っ越し業者が訪れる予定でした。ところが、主人が家を出てすぐに呼び鈴が鳴った。忘れ物かと思ってインタフォーンのモニターを見たら、10人以上もの男性がいて……。まもなく彼らが警察だと分かりました。主人も出先で警察に事情を聞かれていたようですが、当初は“いちばん動機がある者”として、私が容疑者のような扱いで。ほぼ強制同然で任意同行を受け、スマホやPCを押収されました。そのとき“浮気”を疑っていた彼女が亡くなったことを初めて知らされたんです」
当時を振り返りながら、A子さんが続ける。
「彼女には本当に申し訳ない気持ちがあります。主人と関わっていなければ、とも思いますし……。私が探偵なんか雇わなければよかったではないか、もしかすると、私が追い詰めてしまったのではないか、と」
声を震わせながらそう語ったA子さんは、その日から一希被告と別居を始め、いまも娘と二人で生活している。今年3月に逮捕されるまで、一希被告とは「子供の両親として、いい関係を築こう」と話し合い、別居していても週末は夕食を家族三人で食べ、遊園地に行くなどしていたという。
夫の逮捕後、娘は幼稚園を転園した。複数の幼稚園から“花街の名を汚した”、“うちでは預かれない”と断られ、ようやく預かってくれる幼稚園を見つけた。A子さんは今も離婚していない。周りの友人からはその状況に違和感を持たれ、距離を置かれているという。
生活は一変した。叔母の件ではA子さんを含む家族全員が警察にたびたび事情聴取を受けた。A子さんの別居先も複数回家宅捜査を受け、PCとスマホを二度も押収されている。それでも、いまは離婚を踏みとどまり。拘置所にいる一希被告に、娘の様子を手紙で伝え続けている。
それを読んだ一希被告からは<安心しました>と伝言が届くが、ふたつの事件については、<毒殺なんかしていません。裁判で明らかにしていきます>と伝えてきたという。
目に涙を溜め、時折、ハンカチで目頭を押さえながらA子さんは続ける。
「本当に主人が事件を起こしたのかどうかは断言できません。でも、何かしらで関わっていることは、おそらく……。とりわけ、浜野さんの事件については、なぜそうなってしまったのかをよく考えます。家族や娘の存在が、どうしてストッパーになれなかったのか。それを上回るぐらい、彼が苦しい思いを抱えていたのかな、とか……。もう一度、夫として愛せるかと問われれば、難しいですね。でも、判決が言い渡された時に、万が一、死刑って言われたら、それは悲しいだろうな、主人も心の支えがないときついだろうな、と思ってしまって。縁があって結婚して、娘が生まれたことは事実です。やはり娘の父親なので、どこかで彼のことを信じたい気持ちがある。今はただ、一度も主人と話ができないままに報道や警察のいうことを鵜呑みにしたくない、主人が違うと言うなら、信じてあげようと思っています」
A子さんは娘に、一希被告の現状について“パパは遠くで仕事をしている”と伝えている。娘はときどき、家族3人が笑っている絵を描いてくれるという。
同じ父親として、娘を失った浜野さんの両親の気持ちを一希被告は想像できるだろう。事件当日に浜野さんとの間に何があったのか。被害者の家族も、一希被告の家族も、それを知りたいと切に願っているはずだ。
高橋ユキ(たかはし・ゆき)ノンフィクションライター。福岡県出身。2006年『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』でデビュー。裁判傍聴を中心に事件記事を執筆。著書に『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』『木嶋佳苗劇場』(共著)、『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』、『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』など。
デイリー新潮編集部