楽しいはずの夏休みの初日が暗転した。
福岡県宮若市の川で21日午後、女児3人が溺れ、いずれも命を落とした水難事故。現場では女性が子どもの名前を何度も叫び、一緒に遊んでいた友人らは搬送される様子を泣きながら見守るしかなかった。なぜこんなことに――。友人や学校関係者らは突然の悲報にうなだれた。
■「元気な姿、送り出したのに」
「母親の泣き叫ぶ声を聞き、胸が引き裂かれる思いだった」。現場近くに住む会社員男性(44)は振り返った。男性は午後1時過ぎ頃、サイレンが鳴り響いていたため川を訪れると、ウェットスーツ姿の消防の隊員が川を潜っており、間もなく女児3人が引きあげられた。母親とみられる女性が、子どもの名前を泣き叫んで呼んでおり、河川敷では5人ほどの友人とみられる女児や男児らが泣きながら搬送される様子を見守っていた。
近所に住む男性(65)も捜索が行われるなか、母親とみられる女性が子どもの名前を叫びながら川に入っていこうとし、隊員が懸命に引きとめる姿を目撃。「とても見ていられなかった」と話した。
女児らが通う同市立宮若西小の日高暢裕校長は同日夕に開いた記者会見で、「昨日、元気な姿を見て送り出したところだが、非常につらい」と声を詰まらせた。
学校などによると、この日、6年生の同じクラスの女児ら6人が集まって午前中に勉強し、別の2人と合流。計8人で正午過ぎに校区内の川に遊びに行ったという。当初は浅い場所で遊んでいたが、4人が急に深いところにはまり、うち3人が流された。残る1人もおぼれかけたが、一緒にいたほかの児童が助けた。
福岡県警や地元消防によると、死亡した3人はTシャツに七分丈のズボンなどの私服姿。保護者はいなかったという。同校では20日の終業式終了後には、水の事故に気をつけるように指導し、「川には絶対に近付かないように」と文書でも呼びかけていた。ただ、日高校長は「亡くなったお子さんのことを考えると、十分ではなかったと言える」と述べた。
8人のうちの1人の女児によると、石を川面に投げて「水切り」をして遊んでいた。隣の同県飯塚市では正午の気温は31・5度。最高気温は34・4度となる真夏日。現場付近でこの女児は「誰かが『あっち(対面の岸にむかって)まで泳ごう』と言い出し、泳いだらあがってこなくなった」と涙声で語った。
■二つの河川の合流地点、急に深く
現場は犬鳴川と山口川の合流地点。国土交通省遠賀川河川事務所などによると、山口川では昨年10月から実施していた犬鳴川との合流部に接する東側の護岸工事が今春完了。河川敷に下りられるようになっていたという。消防は、水深約3メートルの川底付近から3人を見つけて引きあげた。会社員男性は「水深が浅い山口川と比べ、犬鳴川は急に深くなる。近くでこういう事故がありショック」と語った。
事故現場では21日夕、花を手向ける人の姿も見られた。ニュースで事故を知ったという同県直方市の女性(50歳代)は約1分間手を合わせ、「いてもたってもいられなかった。親御さんの気持ちを考えると心が痛い」と涙ながらに話した。
■海に比べ川の水、浮きにくく
専門家は、安全に見える川でも、水深や流れによっては溺れる危険性があると指摘する。一般社団法人「水難学会」理事を務める、東京海洋大学の田村祐司准教授(保健体育学)によると、海水に比べて川の水は浮きにくい。さらに川はプールと違って流れがあり、川底が砂地だと足をとられやすくなる。突然、深みにはまり沈むなどして水を飲んでしまうと、反射的に呼吸ができなくなるため、自力で浮くのはさらに難しくなるという。
同学会の斎藤秀俊理事は「夏休みに入り、親が家を空ける平日は、子どもの水難事故への注意が必要。子どもだけで水辺に遊びに行かないことが重要」と話している。
水辺で遊ぶ際の注意点
▽出かける前に天気や川の情報を確認
▽子どもだけで遊ばせない
▽水の流れが速く、深みのあるところには近づかない
▽水に入る際は「膝下まで」が目安
▽ライフジャケット着用を励行
(田村准教授への取材に基づく)