“夏休みの宿題ゼロ”の小学校が急増中! 「受験組としてはありがたい」「子どもは自分から勉強しない」と賛否真っ二つも、廃止した学校で起こった意外な変化とは

夏休みといえば、嬉々とした気持ちのいっぽうで、膨大な宿題を前に呆然とした記憶が残る大人も少なくないだろう。「宿題さえなければ……」と何度思ったことか。しかし、今、夏休みに「宿題ゼロ」の小学校が増えている。なぜ、宿題がなくなったのか。学校関係者や実際に宿題のない子どもを持つ親に話を聞いた。
【画像】校長が語る「夏休みの宿題、定期テスト、成績表なし」の良かった点
東京都豊島区にある小学校の1つでは、3年ほど前から夏休みの宿題がなくなった。同校に低学年の兄妹が通う父親のAさんは言う。
「学校から出される夏休みの宿題は、任意の自由研究とアサガオの観察日記(1日分)のみで、漢字や算数のドリルなどはありません。『予習復習は各自で行なってください』と言われますが、うちの子は宿題として出されないとやらない。特に低学年で、やるべきことを自分で考え、実行にうつせる子どもは少ないと思います。
昨年は、ドリルを2冊購入しなんとかやらせたものの、親になって全員に一律で出される宿題のありがたみを実感しています」
親として宿題ゼロの夏休みを経験済みのAさんは、夏休みの宿題には学力以外にも学べることがあると実感した。
「夏休みの40日間で、宿題にどう取り組むべきか。初日でほとんど終わらせる子もいれば、最後の3日で追い込む子、計画的に毎日一定量を進める子もいます。
夏休みの宿題は、要領の良さを学んだり焦ったりしながら、与えられた課題への向き合い方や計画性を見直すきっかけにもなると思うんです」
宿題ゼロに疑問を呈するのは、都内の小学校でPTA会長をつとめるKさんだ。
「確かに、読書感想文ではAIを利用しコピー&ペーストで提出したり、自由研究は親が主体的にやっていることも多いようなので任意にするのは理解できます。しかし、最低限ドリルは必要だと思うんです。
ある先生から聞いた話によると、宿題がなくなった最大の理由は“教師の働き方改革”の一環ということでした。先生たちも大変なのは承知していますが、『30人分の宿題を採点する労力を削減したいから』という理由で、夏休みの宿題がなくなるのは腑に落ちないところがあります」
いっぽうで、宿題がないことには好意的な意見もある。埼玉県内に住む小学3年生の子どもを持つTさんはこう話す。
「昨年、初めて宿題のない夏休みを迎え見守っていました。すると、YouTubeを参考にしてダンボールで工作を始め、1日中集中して製作していました。
夏休み明けに先生から『勉強に取り組む姿勢が変わった。夏休みに何をされたのか?』と聞かれました。好きなことを、夢中でやることで集中力が伸びたようです」
東京都新宿区の小学5年生になる子どもを持つFさんも肯定的な意見を持つひとり。
「娘は中学受験を控えており、2年前から塾に通っています。夏休みは毎日夏期講習に通い、塾からの宿題もこなしているので学校の宿題がなくなりホッとしています。
私たちのような受験組は塾の勉強が主体になります。夏休みの宿題は、ドリルも自由研究も全て“学ぶため”というより“何とか片付ける”もの。正直、そこから得られるものはほぼありません。
ただ、親や塾のフォローがない子どもは授業に置いていかれやすくなり、家庭環境がより顕著に学力に反映する時代になったと感じています」
新宿区立西新宿小学校は、2023年に夏休みの宿題を廃止。加えて、定期テストなし、成績表なしの授業づくりに取り組んでいる。背景には、どのような意図があるのか。同小学校の校長に話を聞いた。
「夏休みの宿題廃止は、子どもたちの“主体性”を育てるために始めました。学校や大人から与えられてやるのではなく、自分から進んで取り組むことが大事だと考えています。絵画のコンクールなどの案内はしており、自由研究は出したい人だけが出します。昨年は3割前後が提出しました。
並行して、先生の成績表と定期テストもなくしましたが、授業のやり方などで変えたところはないですし、今のところ支障はありません。特段『夏休みの宿題を復活してほしい』という声もないので、引き続き宿題なしで様子を見ていきます。
副産物として、教員の仕事が減り、気持ちに余裕が出たことで子どもとより深く向き合うことができるようになったのは良かったと思います」
自分で進んで取り組むのは学問に限らないとの考えもある。
愛知県内の公立小・中学校に38年間勤務し、数々の教員の働き方改革を担ってきた元“破天荒校長”の異名を持つ沢田二三夫氏。2018年、豊田市市木小学校でいち早く「夏休みの宿題ゼロ」に踏み切った人物だ。夏休みの宿題をなくした狙いを聞いた。
「答えのあるものを先生が教え、みんなに同じような力をつけさせる既存の教育では、現代社会を生き抜くことはできません。夏休みくらいは、与えられたことをやるのではなく、好きなことややりたいことを見つけ、自ら動いてほしかったんです。
価値観が多様化した今、子どもの持つ力を引き出し、自ら決定し行動する力を養うことが重要です」
子どもの力を引き出すために、この夏休みどのように過ごすことが好ましいのか。
「夏休みの旅行の計画を子どもに立てさせるのがオススメです。予算を決めて、行く場所や過ごし方、交通手段などを一任する。兄弟がいれば兄弟で話し合っても良いでしょう。日帰り旅行でも構いません。旅行に対して、普段は不平不満を言ったり、移動中ゲームばかりしていた子どもも、自分で計画を立てた旅行ならそうはなりにくいんです。
『もっとこうすれば楽しめたかも』と、そこで反省や失敗する機会を得られるのも良い経験です」
宿題がないことで、ゲーム三昧の夏休みに悩む保護者もいる。対処法を尋ねると沢田氏はこう述べた。
「大切なのは、いま目の前にいる子どもを認めてあげること。『ゲームやめなさい』よりも『ゲームは何時までやる予定なの?』と問いかけて、自分で決めて動くことを大切にしてほしい。
もしくはゲームを与えたのであれば、いっそのこと夏休みは徹底的にやらせてみるのもひとつの方法です。そこで『こんなにやったら目が疲れるな』と感じれば、自分で時間を制限するでしょうし、飽きれば他のことに目が向きます。
のめり込んでいくならば、ゲームの魅力を尋ねたり、ゲームでお金を稼ぐ方法を話し合ってみる。勝つ方法を探求するのも学びですよね」
夏休みの宿題ゼロに対し、学力低下などを心配する一部の保護者からは反対の声がある。沢田氏はそうした不安を理解したうえで、こうアドバイスする。
「子どもは本来、学ぶことが好きなのです。しかし、読書感想文を書くために無理矢理本を読まされ、読書が嫌いになる子どもがいるように、人から与えられた宿題が勉強嫌いにつながる可能性もあるんです。
せっかくの宿題ゼロの夏休み。好きなことを徹底的にやらせてみるのもひとつの手です。そこから学ぶ意欲につながる新しい発見があるかもしれませんよ」
宿題がない夢の夏休み、あなたならどう過ごす?
取材・文/山田千穂 集英社オンライン編集部ニュース班