「お金がなければ強制立ち食い」“座るのに550円”で物議の万博フードコート、現地で見えた「座る」だけではない“意外なニーズ”

〈《餃子3個で2300円、そば1杯3850円》「庶民置き去り」の声もあったが…万博“高額グルメ”に文句を言う人たちに伝えたい「開幕3カ月」で見えた“本当の客層と実力”〉から続く
大阪・関西万博(以下、大阪万博)では、立って食べるならば席料はかからないものの、座って食べたい場合にはお金がかかるフードコートが話題になっている。会場内に全部でフードコートは5カ所あり「1人50分550円」の席料を取っているのは「サスティナブルフードコート 大阪のれんめぐり~食と祭EXPO」である。
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大阪万博を巡っては高額グルメが話題になることもあるが、ことフードコートの実態はどうなのか。実際に現地を訪問した。
「座るのにお金がいる」ことで話題になった、万博のフードコート(筆者撮影、以下同)
大阪万博のフードコートには、いずれにも共通する特徴がある。大阪または大阪に縁が深い飲食店が出店していることだ。大阪の食の見本市のようになっている。ただし、「グランドフードコート」1カ所だけはインドやイタリア、トルコなど世界各国の料理が楽しめるフードコートだ。

有料席があるサスティナブルフードコートは、東西ゲートの中間辺りに位置する。席数は1000席で、万博内では最大級の飲食スペースだ。最大の特徴は、半分近い約450席が有料なこと。1席550円で、事前予約が必要となる。

時間は50分で、あまりゆっくりはしていられないが、どんなに混んでいても必ず座れるというのは、どこへ行っても行列が絶えない万博会場では貴重なシステムではないだろうか。「座るのにもお金を取るフードコート」とは、前代未聞の試みでギョッとした人も多いだろう。とはいえ混雑するイベントの飲食スペースの運営法としては一理ある。
筆者が訪れた平日の午後3時頃は、ランチのピーク時間を過ぎて空いていた。無料の立ち席はかなりの人で埋まっていたが、有料席はガラガラ。絶対に座りたい場合を除き、混む時間帯を避ければ、予約しなくても大丈夫かもしれない。そもそも座りたければ、フードコートのすぐ外にある大屋根リングの下にずらりとベンチがある。そこで座って食べれば良いだろう。

同フードコートには「大阪王将」「串かつだるま」「神座」など、大阪でも知名度が高い店がそろい、まさに大阪のオールスターといった面々だ。中には「神戸牛プレミアム重」(8800円)、「松阪牛すき焼き餃子」(3個2300円)など高額メニューもあるが、1000円前後と庶民派のメニューも用意している。たこ焼きにソースを塗る調理ロボットや、メニュー運び・掃除用のロボットなど、各所で人間とロボットの協業が見られるのも面白い。人手不足と作業効率化に対処する店舗運営が進められている点では確かに「サスティナブル」である。
実はこのフードコートにある有料席は「座る」だけでないニーズがある。というのも、有料席には並ばずに食事が注文できる「ファストパス」機能も付いているのだ。さっさと食事を終わらせて、できるだけ多くのパビリオンを見学できる。

大阪外食産業協会(ORA)のパビリオンにある「フードブース-UTAGE-」は1丁目から9丁目まで、9つのブースが入居している。テークアウト専門で、座席は設けていない。

各ブースは入居期間によって入れ替わり、会期を通して出店する企業もあれば、1週間や2週間のケースもある。4月のスタート時はまだ肌寒かったこともあり、1週間限定で出店した「まことや」のラーメンがすごい勢いで売れたという。
こちらも高額なメニューがいくつか目立つ。例えば、サラヤが出店するブースでは「神戸牛メンチカツサンド」が2切れで1600円。象印マホービンが出店する「ONIGIRI WOW!」では、おにぎり1個が450~650円ほどである。ただ、同社の最上級炊飯器「炎舞炊き」を使用しており、炊きあがったご飯は寿司ロボットを手掛ける鈴茂器工のおにぎりロボットが握る、「近未来のおにぎり専門店」という体験価値を考えれば、そう高くないかもしれない。

「好きやねん大阪フードコート」は、大阪の庶民派グルメを集めたフードコートで、会場内の東西にほぼ同じ内容で2カ所ある。東側の「EAST SIDE」は、600席ほどあるが、平日でもランチタイムは混み合う。 庶民派のフードコートだが、「横綱」で提供しているメニューを見ると「ハーフお好み焼き(豚玉)」が1280円、「揚げたこ焼き」が6個で900円など決して安くはない。同店の新世界本館では(全く同じ内容ではないかもしれないが)お好み焼きが605円、揚げたこ焼きが6個330円と考えると、気が引ける。

ちなみにもう一つの好きやねん大阪フードコート、「WEST SIDE」は西ゲートの裏手にあり、周囲の人通りが少なく、比較的空いている。

会場内はWi-Fiの繋がる場所が限られているが、ここは比較的よく繋がる。ゆっくり座ってどこのパビリオンを回るか、プランを練るには良いかもしれない。
千房ホールディングス社長で大阪外食産業協会の会長も務める中井貫二氏は「外食パビリオンは1日平均で1万人が来場しており、非常に好調。フードコートに出店した企業は、いずれも黒字のところが多いのではないか」と話す。前評判の悪さから苦戦すると覚悟していたものの、想像をはるかに上回る集客があったと頬を緩める。
やはり大阪に来たからには大阪の食を楽しみたい、と考える来場者が多いのだろう。その意味では価格が高めでも、大阪の食文化に特化した各フードコートは成功しているようだ。
中井氏は「サスティナブルフードコートの550円の有料席も好評と聞いている」として、次のように続ける。
「ランチ時は非常に混雑しており、座る場所を確保するのも大変。列に並ばなくても注文できるファストパスの権利も付いているので、有料席はむしろリーズナブルではないか」
評価が低いまま開幕し、期待せず行った人が「思ったより良かった」とリピートしているのが現状だ。これから夏休みを含めた後半戦に向けて、フードコートの売り上げはますます伸びると、中井氏は期待している。
以上、大阪万博のフードコートについて見てきた。物議を醸した有料席は、アイドルタイムこそガラガラだが混雑時に確実に座れて休めることに加えて、行列に並ばずに注文できる利便性で、利用者からは「不満」よりも「好評」の声が多く聞こえてくる状況にあるようだ。この点で「成功」といえるだろう。
また、高額と話題になることも多いメニューでは和牛を扱っている店が多い印象を受けた。関西は「日本三大和牛」である神戸牛、松阪牛、近江牛の産地。海外から来る購買力のあるインバウンドに関西および大阪の食文化をアピールするには、和牛を活用するのが戦略としては確かに正解といえる。
いずれにせよ当初の下馬評を覆して人気を博しており、想定以上の盛り上がりを万博は見せている。
続く記事では、万博内に出店しているスシローとくら寿司の店舗を訪問するとともに、運営企業に取材しながら「メニュー開発の秘話」や「売れ筋の商品」について解説しています。ぜひ、合わせてお読みください。
〈「ペルーではそんな食べ方しない」と大使館からダメ出しも…「世界グルメ」のくら寿司、「サステナブル」のスシロー、“万博回転寿司戦争”で売れている、意外な商品〉へ続く
(長浜 淳之介)