口の中に金属の詰め物や被せものがある人は、いつ頃治療したものなのかを思い出してほしい。
口の中は温度が高く、噛む刺激や唾液の酸によって金属の表面は少しずつ劣化し、溶け出した金属イオンは微量ながら体内に蓄積している。
中でも注意してほしいのが水銀を含む「アマルガム」だ。見た目は黒っぽい金属で、現在はもう使われていないが、40代以上の人は昔の詰め物がそのまま残っている可能性がある。
歯の治療に使われる金属のリスクと、歯科医師が推奨するメタルフリーの治療について、アンチエイジングデンタルクリニック恵比寿の小川朗子院長に聞いた。
「歯科治療には銀やパラジウム、ニッケル、コバルト、クロムなどの重金属が使われていますが、それらは健康被害を引き起こすことがわかっています。一番問題なのはアマルガムで、唾液や食べ物の酸で腐食し続け、噛む時の摩擦で水銀を含む蒸気を発生させます。この大部分が体内に毒素として蓄積しています」アマルガムは昭和30年代から平成に入る頃まで、保険治療の対象として一般歯科で使われていたため、40代以上の人は現在も詰めたままになっているケースが多いという。
歯の金属は有害ミネラルと呼ばれ、体内に過剰に蓄積されて排出できなくなると、肌荒れやアレルギー性皮膚炎、不眠、慢性疲労感、うつ症状、胃腸障害、頭痛や肩こり、脱毛などの健康被害を引き起こすことがある。
「今の20代以下の人には使用されていないので大丈夫ですが、40代以上の方は確認が必要です。歯科金属によるアレルギーは、時間が経ってからある時急に手や顔に赤いぷつぷつが出始めたり、指先がかゆくなったり、手のひらに湿疹が出てきたりと皮膚に症状が出ることが多いです。また、特に不調を感じていなくても、古い金属は経年劣化によって歯への不適合が生じて虫歯や歯周病の原因になります。口の老化を防ぐためにもプラスチック系樹脂やセラミックに交換して、口の中をメタルフリーにすることをおすすめします」
メタルフリー治療と聞くと、セラミックやジルコニアといった実費負担を思い浮かべ、予算的にためらう人も多いのではないか。
しかし小川院長によると、小さい詰め物だったら保険適用のプラスチック(コンポジットレジン)で詰め替えが可能だという。
虫歯治療であればCAD/CAM冠(キャドキャム冠)も保険適用だ。
見た目だけを主訴とする場合は保険適用にならないが、虫歯治療後の詰め物としてなら保険の対象となる。
専用の機械で患者の歯型のデータをスキャンして、詰め物や被せ物を作る治療方法で、短期間の治療で費用も抑えられる。
口腔内の一定の条件を満たす必要があるが、プラスチックとセラミックを混ぜ合わせた材料で自然な仕上がりとなる。
ただ、長期的に見た場合は、強度や変色、優れた耐久性などの観点から、セラミック治療には劣るという。
セラミック治療は、金属を使わない、強度と審美性を兼ね備えたメタルフリーの治療法だ。
セラミックにはいくつかの種類があり、前歯や奥歯など歯の部位や状態によって使用する材質は異なる。
例えば、アンチエイジングデンタルクリニック恵比寿で扱っている「オールセラミックス」は、陶材(ポーセレン)のみで作られたセラミックで、汚れや歯垢がつきにくく、透明感に優れているため前歯や小臼歯に向いているという。
一方、奥歯に向いているは「フルジルコニア」だ。ジルコニアは人工ダイヤモンドとも言われるほどの強度を持つ材質で、耐久性や耐熱性、生体親和性などを兼ね備えた、軽くて丈夫な素材だ。
このほかにも、セラミックとレジン(樹脂)を混合した「ハイブリッドセラミックス」や、ジルコニアとアルミナセラミックを重ねた「ジルコニアセラミックス」などがある。
それぞれに特徴が異なり、値段にも幅があるため、一度歯科医師に相談してみるのが良さそうだ。
快適で健やかな生活を送るために欠かせない歯の健康。
今は特に問題がなくても、治療から10年以上が経過し、詰め物に何が使われているかわからない人は、一度自分の口の中をチェックし、再治療を検討するのが良いかもしれない。