【奥田 昌子】「日本人の女性」は「肥満」になると「乳がん」の発症率が上がり、最大で2倍以上になるという「衝撃の事実」

日本人には、日本人のための病気予防法がある! 同じ人間でも外見や言語が違うように、人種によって「体質」も異なります。そして、体質が違えば、病気のなりやすさや発症のしかたも変わることがわかってきています。欧米人と同じ健康法を取り入れても意味がなく、むしろ逆効果ということさえあるのです。見落とされがちだった「体の人種差」の視点から、日本人が病気にならないための方法を徹底解説!
*本記事は『欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」 科学的事実が教える正しいがん・生活習慣病予防』(講談社ブルーバックス)を抜粋・再編集したものです。
欧米式の食事を続けることで起きやすい肥満と乳がんの関連については、日本と欧米で正反対の結論が出ています。欧米の研究では、若い女性は肥満気味のほうが乳がんになりにくく、閉経を過ぎたら、やせているほうが発症率が低いというのが定説です。
ところが、日本人女性合わせて18万人分のデータを総合的に分析したところ、不思議なことがわかりました。日本人は年齢を問わず、肥満になると乳がんの発症率が上がるのです。閉経前の若い世代を含めて、体格指数(BMI)が普通体重を超えると乳がんの発症率が上がり、最大で2倍以上になりました。
肥満が乳がんの発症率を押し上げるのは、女性ホルモンが卵巣だけでなく皮下脂肪でも作られるからと考えられています。女性は、女性ホルモンのおかげで内臓脂肪がつきにくく、代わりに皮下脂肪がつくようにできています。その皮下脂肪が女性ホルモンを作るのですから面白いですね。
若い女性がダイエットのやり過ぎで生理が止まってしまう背景にも、皮下脂肪の減少による女性ホルモンの不足があります。また、たっぷり肥満した男性の乳房がふくらむことがありますが、これも皮下脂肪での女性ホルモンの産生が高まるからです。このように、脂肪細胞にも女性ホルモンを作る力があるので、肥満の人は女性ホルモンの産生量が多く、これが乳がんの発生を促してしまうのです。
この現象は日本でも欧米でも認められますが、日本では、若い世代も肥満によって乳がんが増えるのに対して、欧米では、若いあいだは肥満気味のほうが良いとされています。この原因はわかっていません。
体重だけでなく、身長も乳がんの発生に関係します。閉経前、閉経後のいずれにおいても、背の高い女性は乳がんになりやすいことが明らかになっています。
米国で人種別に調査したところ、とくにアフリカ系と日系の米国人は、米国白人とくらべて、身長によって発症率の違いが大きいことがわかりました。日本でおこなわれた調査によると、身長が160cm以上のグループは、148cm以下のグループより、閉経前は1・5倍、閉経を過ぎると2・4倍、乳がんの発症率が高くなります。体格は遺伝が大きいものの、生まれてからの食事内容と、女性ホルモンや成長ホルモンの分泌量の影響を受けます。
「最近の若い人は、すらっとしてかっこいいね」という言葉をよく耳にする一方で、大柄で肥満気味の女性も目立つようになりました。この背景にあるものこそ、食生活の欧米化です。
図9-4は、日本人1人1日あたりの、おもな食品の摂取量を、1915年、1960年、2005年で比較したものです。ここでは、乳がんが少なかった1960年と、乳がんが増えてきた2005年のデータを見てください。肉と乳製品に代表される動物性蛋白質の摂取が大きく増えています。
そして、その次の図9-5は、成長期にある女性の身長の変化を年齢別に見たグラフです。日本人が大きくなったと言っても、17歳の時点でくらべると、身長の伸びは数cmにとどまりますが、伸び方が違います。1950年にはおだやかに伸びていたのが、1975年、2005年には、10~14歳の食べ盛りの時期に、ぐっと大きくなっています。
第3章で見たように、日本はカロリーの総摂取量は増えていません。増えたのは動物性蛋白質の摂取量で、これにつれて成長ホルモンと性ホルモンが、早い時期からしっかり分泌されるようになったと思われます。
初潮をむかえる年齢は、1961年から半世紀のあいだに約1年早くなりました。乳がんは女性ホルモンの影響を受けて増殖するものが多いため、初潮が早いほど、そして閉経が遅いほど、乳がんの危険が大きくなることが知られています。日本でおこなわれた大規模コホートからは、16歳以上で初潮をむかえたグループの乳がんの発症率は、14歳以前にむかえたグループの約4分の1だったことが示されています。
また図9-6は、閉経年齢と乳がん発症率の関係を調べたデータです。閉経が早いグループほど発症率が低く、54歳以上で閉経したグループは、48歳未満で閉経したグループとくらべて、乳がんに2倍なりやすくなっています。また、出産経験のない女性は、女性ホルモンがしっかり出ている期間が長くなる分、やはり発症率が上がります。
さらに、子供を産めば産むほど、そして最初の子を低い年齢で産むほど、乳がんになりにくくなります。最近は子供を5人、6人と産む女性は多くありませんが、子供を5人以上産んだ女性は、子供が1人だけの女性より、乳がんの発症率が約60%低くなるという報告があります。
そして、22歳になる前に最初の子を産んだグループとくらべ、30歳以上で産んだグループは、乳がんに2倍以上なりやすいこともわかりました。
さらに連載記事<「胃がん」や「大腸がん」を追い抜き、いま「日本人」のあいだで発生率が急上昇している「がんの種類」>では、日本人とがんの関係について、詳しく解説しています。
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