【村上 茂久】528店舗→293店舗に大激減…大量閉店のヴィレッジヴァンガード「利益率が100円ショップ以下」だった

創業以来、「遊べる本屋」をコンセプトに、本、雑貨、DVD、アパレル等を販売してきたヴィレッジヴァンガード。通称「ヴィレヴァン」を運営する株式会社ヴィレッジヴァンガードコーポレーション株式会社(以下、ヴィレッジヴァンガード)が苦境に立たされています。
直近の決算である2025年5月期において、売上高は前年比0.7%増の249億円だったものの、利益面では最終損益は42億円の赤字となり、2期連続の赤字となっています。不採算部門の整理も含めて、2026年5月期以降に全店舗の約3割にあたる81店舗の閉店を検討することになっています。
かつてヴィレッジヴァンガードは小売業界屈指の成功企業でした。10年以上連続で増収増益、最盛期の売上高は476億円を超え、店舗数も528店舗(うち直営517店舗、フランチャイズ11店舗)まで増やしています。
雑然としたヴィレヴァンの店内には本とともにユニークな雑貨が並び、大学生や若い社会人が“宝探し”感覚で買い物を楽しめる空間が広がっていました。2000年代~2010年代にかけて、このサブカル文化を気軽に体感できる場が多くの若者に刺さっていたのです。
しかし、業績悪化に伴い、2022年5月末には50億円以上あったキャッシュは直近の2025年5月期には23億円まで減っています。赤字が続き、キャッシュも減っている中、倒産のリスクも見え隠れします。
では、なぜここまで業績が悪化してしまったのでしょうか。そして倒産の心配はないのでしょうか。
業績不振が続くヴィレッジヴァンガードについて、財務の観点から徹底的に迫ります。
まずは過去10年間のヴィレッジヴァンガードの売上高と営業利益の推移を確認してみましょう。
過去最高の467億円の売上高を達成した2016年5月期から8年連続で減収となっています。直近の25年5月期の売上は微増だったものの、基本的には厳しい状況が伺えます(図表1)。
※外部配信先では図表がすべて表示されない場合があります。その際は「マネー現代」内でお読みください。
売上高がここまで減少している大きな理由の一つは店舗数の減少です。
最盛期には500店舗以上あったヴィレッジヴァンガードですが、直近の2025年5月末には293店舗まで減少しています(図表2)。
ヴィレッジヴァンガードの25年5月期末時点の売上の構成を確認してみると、92%が店舗事業の稼ぎです。残りを占めているのは4.6%のPOPUP事業と3.5%のオンライン事業で、割合としては決して大きくありません(ヴィレッジヴァンガード 25年5月期決算説明資料 事業別売上構成比より)。
そのため、売上の9割以上を占める店舗事業において、これだけ店舗数が減ってしまうと売上高も当然下落します。
ヴィレッジヴァンガードの店舗数の減少を余儀なくされた理由の一つとして、本やDVDが売れなくなったことに加えて、消費者の好みの変化が考えられます。
とりわけインターネットやスマートフォンが普及する中、SNSマーケティングに代表されるように、ネットを通じた消費行動が増えてきました。そうした中、サブカルを得意としてきたヴィレッジヴァンガードは、嗜好の移り変わりが激しい昨今の消費者の行動変化にうまく対応できなかったと言えます。
では、次に売上高を店舗数で割った店舗当たり売上高推移はどうでしょうか。
コロナ禍前の2019年5月期には9000万円以上あったものの、2023年5月期までは8000万円を下回る状況が続いていました。直近では、不採算店舗の整理の甲斐もあってか、8200万円を超えるまで回復しています(図表3)。
店舗数は減少しているものの、直近では店舗あたりの売上高は伸びていますし、直近の売上高全体で前期比微増している点から多少の回復の兆しが見えます。
しかしながら、課題は売上の減少よりも利益面にあります。
直近の営業利益は2期連続で9億円以上の営業損失となっていて厳しい状況が続いているからです。また、25年5月期の最終赤字は42億円でした。
ただし、営業損益ベースでは9.3億円の赤字にとどまっています。両者の差は30億円以上。このギャップを生んだのは、特別損失の計上です。具体的には、棚卸資産評価損24.7億円と減損損失6.7億円が計上されたのです。
棚卸資産評価損は、「売れると思って仕入れた面白い商品」の在庫が実際にはなかなか売れず価値を損なったために計上した損失、とイメージするとわかりやすいでしょう。また、減損損失は店舗の閉店に伴い価値を失った資産を減損したものです。
このような特別損失を30億円以上計上したために、最終赤字が42億円にもなったのです。ただ、これら特別損失は一時的な損失の計上であり、またこれら損失でキャッシュが減るわけでもありません。
とはいえ、営業利益ベースで見てもこの10年間でヴィレッジヴァンガードは利益をあまり出していません。
図表4はヴィレッジヴァンガードの営業利益率を示したものです。この10年間のうち合計4年間は営業損失が生じ、営業黒字だった6年間も営業利益率は1%前後です。
「小売なので利益率が低いのは当然ではないか?」
このように感じる読者もいるかもしれません。確かに小売の利益率は数%が一般的です。ですが、かつて増収増益を続けていた頃の2010年5月期のヴィレッジヴァンガードの営業利益はなんと9%(売上高366億円、営業利益33億円)でした。その頃と比較すると、この10年は明らかに利益を出せなくなってしまったと言えます。
一方で、小売の競合他社であるパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス傘下のドン・キホーテの営業利益率は7.8%(24年6月期)、100円ショップを展開するセリアの営業利益率は7.1%(25年5月期)です。
ただし、セリアに関して付言しておくと、同社は小売の中でも利益率が高い企業です。実際、同様に100円ショップを展開するキャンドゥの利益率は1%前後。それでもここ数年のヴィレッジヴァンガードの利益率はキャンドゥにも及んでおらず、いかに苦しい状況であるかがよくわかります。
かつては高い利益率を誇り、また競合他社の小売は今でも高い利益率を実現できている中、なぜヴィレッジヴァンガードはこれほどまでに利益率を落としてしまったのでしょうか。
その要因を見るためにも、P/Lの構成を確認してみましょう。
図表5はヴィレッジヴァンガードの2010年5月期のP/Lと2025年5月期のP/Lの構成費を比較したものです。
2010年5月期には9%だった営業利益率が、直近の25年5月期では▲3.7%まで下がっています。その主な要因は原価率3.9%の上昇及び人件費の4.2%上昇です。
従業員数で見れば、2010年5月期において売上高366億円に対して、正社員は323人。他方、2025年5月期では売上高249億円に対して356人。
売上高は3割以上下がっている一方で、社員数は1割も多い状況です。人件費でも10年5月期は43.2億円に対して、25年5月期は42.7億円とほぼ同水準です。
このように売上は減っているのに原価率は上昇し、そのうえ人件費も抑えられていません。これが利益率を押し下げる最大の要因になっています。
しかし、ヴィレッジバンガードはさらに大きな問題を抱えています。
つづく記事〈大量閉店のヴィレッジヴァンガードが苦しむ「異様な在庫の山」…かつての強みが仇になっていた〉では、同社の在庫問題を詳しく解説します。
【つづきを読む】大量閉店のヴィレッジヴァンガードが苦しむ「異様な在庫の山」…かつての強みが仇になっていた