街中や観光地などで最近、タイで「トゥクトゥク」と呼ばれる三輪の自動車を見かけることが増えてきた。ホテルなどの送迎車やレンタカーとして使うケースが多いが、中には個人でオーナーになる人もいる。風を切って走る爽快さはもちろん、新型コロナウイルスの感染拡大も人気の背景にあるようだ。なぜ今、トゥクトゥクなのか。
【写真特集 各地のトゥクトゥク】 福岡市南区の建築業、早田(そうだ)常男さん(73)は、2020年12月に個人で4人乗りのトゥクトゥクを購入した。きっかけは新型コロナだった。
すぐ近所に暮らす小学4年から中学3年の孫が4人いるが「コロナでどこにも遊びに行けず、学校も休み。家でじーっとしているだけで、かわいそうだった」。そんな時、福岡県内を走るトゥクトゥクのレンタカーがテレビで紹介されているのをたまたま見て、屋根があるだけの開放的なトゥクトゥクならば換気はいいし、孫たちも喜ぶのではと思ったという。 一戸建てなどを手がける早田さんはトゥクトゥク購入と前後して自宅から5キロほど離れた福岡県那珂川市の作業場に、孫たちのためにツリーハウスやボルダリングの練習場なども造った。トゥクトゥクはそこまで孫たちを乗せて往復するのに使っている。妻利恵子さん(65)は「目立って恥ずかしい」とほとんど乗らないが、孫で小学4年の瑛翔(えいと)さん(9)は「風が気持ちいい」と楽しんでいる。 山口県美祢(みね)市がトゥクトゥクを導入したのもコロナが理由だ。市内には日本最大級のカルスト台地として知られる秋吉台があるが、感染拡大で観光客が激減。そこで「コロナ禍でも活用できるアクティビティー」としてトゥクトゥクに着目し、約200万円で7人乗りを1台購入した。 22年4月から秋吉台で観光客向けに貸し出しているが、週末はほぼ必ず予約が入っているという(レンタル料は1時間7000円~)。市は「SNS(ネット交流サービス)で話題になれば秋吉台自体のPRにもなる」と期待し、年内に2台目を購入予定だ。 福岡市博多区の吉塚商店街は20年12月、空き店舗が目立つ商店街をタイやミャンマー、ベトナムなどの飲食店が並ぶ「吉塚市場リトルアジアマーケット」にリニューアルしたのに合わせ、毎週土曜日に最寄りのJR吉塚駅からトゥクトゥクによる無料送迎を始めた。21年9月からは市の補助金を活用し、週に1回、全国的にも珍しいトゥクトゥクによる高齢者の買い物支援も始め、商店街と駅などを周回する。 取り組みに協力するのは福岡県志免(しめ)町で中古車の輸出業を営む岩橋真一郎さん(45)。19年11月に会社の宣伝用に購入していたトゥクトゥクを提供して自らハンドルを握り、市の補助金事業が今年3月までで終わった後もボランティアで買い物支援を続けている。吉塚出身の岩橋さんは「地元の商店街が廃れてきたのを見て、何か役に立てないかと思った」と語る。 一般的にはどんな人や事業者が購入しているのだろうか。国内のトゥクトゥク販売会社では最も規模が大きい会社の一つ、沖縄市の沖縄トゥクトゥクは17年の事業開始以降200台以上販売し、その約7割が沖縄県以外。顧客は海沿いのホテルなどが多く、約40台を販売した21年は個人向けが5台だった。 一方、同じく最大手の一つで、20年前から手がける草分け的存在の愛知県小牧市のニューズはこれまでに700台以上を販売し、顧客は47都道府県に広がるが、当初は個人客が9割ほどを占めていた。だがここ数年、送迎用やレンタカーなどとして購入する法人が増え、個人客の比率が7割ほどに下がったという。 田口淳一朗店長は「元々はタイを旅行して『ほしくなった』という人がほとんどだったが、テレビや雑誌などで取り上げられることが増え、そうした人以外にも広がるようになった」と説明。一部のタイ好きの間で趣味的に乗られていたトゥクトゥクの宣伝効果に観光事業者などが目を付けたことで近年、各地で目にする機会が増えているようだ。 では購入するにはどんなことに気をつければ良いのか。トゥクトゥクはAT限定を含む普通免許で運転できヘルメットも不要。運転はバイクのように左右のハンドル操作で行うが、福岡市の早田さんは「慣れれば簡単」と話す。 問題は故障のリスクだ。早田さんが購入したトゥクトゥクジャパン(宮崎市)の福岡支店(福岡市中央区)によると、トゥクトゥクはタイで製造して輸入。ボディーなどは新品で新車扱いだが、主要部品に日本の車の中古品がかなり使われており、エンジンはダイハツの軽自動車のものを再利用している。トゥクトゥクの整備や修理は受け付けない工場も多く注意が必要だ。価格はトゥクトゥクジャパンの場合、4人乗りが160万円~、6人乗りが180万円~。【井上俊樹】
福岡市南区の建築業、早田(そうだ)常男さん(73)は、2020年12月に個人で4人乗りのトゥクトゥクを購入した。きっかけは新型コロナだった。
すぐ近所に暮らす小学4年から中学3年の孫が4人いるが「コロナでどこにも遊びに行けず、学校も休み。家でじーっとしているだけで、かわいそうだった」。そんな時、福岡県内を走るトゥクトゥクのレンタカーがテレビで紹介されているのをたまたま見て、屋根があるだけの開放的なトゥクトゥクならば換気はいいし、孫たちも喜ぶのではと思ったという。
一戸建てなどを手がける早田さんはトゥクトゥク購入と前後して自宅から5キロほど離れた福岡県那珂川市の作業場に、孫たちのためにツリーハウスやボルダリングの練習場なども造った。トゥクトゥクはそこまで孫たちを乗せて往復するのに使っている。妻利恵子さん(65)は「目立って恥ずかしい」とほとんど乗らないが、孫で小学4年の瑛翔(えいと)さん(9)は「風が気持ちいい」と楽しんでいる。
山口県美祢(みね)市がトゥクトゥクを導入したのもコロナが理由だ。市内には日本最大級のカルスト台地として知られる秋吉台があるが、感染拡大で観光客が激減。そこで「コロナ禍でも活用できるアクティビティー」としてトゥクトゥクに着目し、約200万円で7人乗りを1台購入した。
22年4月から秋吉台で観光客向けに貸し出しているが、週末はほぼ必ず予約が入っているという(レンタル料は1時間7000円~)。市は「SNS(ネット交流サービス)で話題になれば秋吉台自体のPRにもなる」と期待し、年内に2台目を購入予定だ。
福岡市博多区の吉塚商店街は20年12月、空き店舗が目立つ商店街をタイやミャンマー、ベトナムなどの飲食店が並ぶ「吉塚市場リトルアジアマーケット」にリニューアルしたのに合わせ、毎週土曜日に最寄りのJR吉塚駅からトゥクトゥクによる無料送迎を始めた。21年9月からは市の補助金を活用し、週に1回、全国的にも珍しいトゥクトゥクによる高齢者の買い物支援も始め、商店街と駅などを周回する。
取り組みに協力するのは福岡県志免(しめ)町で中古車の輸出業を営む岩橋真一郎さん(45)。19年11月に会社の宣伝用に購入していたトゥクトゥクを提供して自らハンドルを握り、市の補助金事業が今年3月までで終わった後もボランティアで買い物支援を続けている。吉塚出身の岩橋さんは「地元の商店街が廃れてきたのを見て、何か役に立てないかと思った」と語る。
一般的にはどんな人や事業者が購入しているのだろうか。国内のトゥクトゥク販売会社では最も規模が大きい会社の一つ、沖縄市の沖縄トゥクトゥクは17年の事業開始以降200台以上販売し、その約7割が沖縄県以外。顧客は海沿いのホテルなどが多く、約40台を販売した21年は個人向けが5台だった。
一方、同じく最大手の一つで、20年前から手がける草分け的存在の愛知県小牧市のニューズはこれまでに700台以上を販売し、顧客は47都道府県に広がるが、当初は個人客が9割ほどを占めていた。だがここ数年、送迎用やレンタカーなどとして購入する法人が増え、個人客の比率が7割ほどに下がったという。
田口淳一朗店長は「元々はタイを旅行して『ほしくなった』という人がほとんどだったが、テレビや雑誌などで取り上げられることが増え、そうした人以外にも広がるようになった」と説明。一部のタイ好きの間で趣味的に乗られていたトゥクトゥクの宣伝効果に観光事業者などが目を付けたことで近年、各地で目にする機会が増えているようだ。
では購入するにはどんなことに気をつければ良いのか。トゥクトゥクはAT限定を含む普通免許で運転できヘルメットも不要。運転はバイクのように左右のハンドル操作で行うが、福岡市の早田さんは「慣れれば簡単」と話す。
問題は故障のリスクだ。早田さんが購入したトゥクトゥクジャパン(宮崎市)の福岡支店(福岡市中央区)によると、トゥクトゥクはタイで製造して輸入。ボディーなどは新品で新車扱いだが、主要部品に日本の車の中古品がかなり使われており、エンジンはダイハツの軽自動車のものを再利用している。トゥクトゥクの整備や修理は受け付けない工場も多く注意が必要だ。価格はトゥクトゥクジャパンの場合、4人乗りが160万円~、6人乗りが180万円~。【井上俊樹】