「電車に乗ったことは覚えていますが、胸を刺されたことは残念ながら覚えていません。事件後は、走ることも、好きだった自転車に乗ることも困難になりました。名前の最初の文字も上手く書けない……。責任をとれないなら、何もしないで欲しかった」(被害者男性Aさん)
6月27日、車椅子で証人尋問に出廷した被害者男性Aさんは、怒りを抑えながら被害の後遺症や事件当日の様子を語った。’21年10月31日のハロウィン当日に、東京・調布市を走行中の京王線で乗客を刺して車内に放火。計13人を殺害しようとしたとして、服部恭太被告(26)が殺人未遂などの罪に問われている。
過去にも自殺を図ったことがあるという服部被告。当初は「死にきれなかったので大量殺人をして死刑になりたかった」「小田急線で発生した乗客の襲撃事件を真似しようと思った」と語っていた。しかし一転、26日に行われた初公判では、被害者Aさんへの殺人未遂での起訴は認めた一方、放火による12人への殺人未遂罪について「殺人未遂は認めません」と起訴内容を一部否認した。
「服部被告が犯行前に滞在していた東京都八王子のホテルの部屋から、ライターオイル空き缶が22本見つかっており、少なくとも3以上のオイルを車内に巻いていたこととなる。検察は、彼に殺人未遂の意思があったと見ています」(全国紙社会部記者)
今回の事件で、服部被告に刃物で刺されたAさんが続ける。
「事件当日は、夜の遅い時間に仕事に向かうために電車に乗っていたんです。刺された後は、入院中は身体がもとに戻るかどうか、心配でなりませんでした。家族に迷惑をかける。友人に迷惑をかける。収入が減ってしまう……とても不安で心配でした。 ‘22年3月にようやく退院しましたが、食べ物を上手く口にいれられない。箸ではうまく挟めないので、落としてしまった食べ物をこっそり手で食べたりすることもあります。
今の身体では事件前と同じ仕事は続けられないので、昨年末に退職しました。労災保険で食いつないで、妻と子供二人の生活を支えています」
終始、うつむきがちでAさんの話を聞く服部被告。その後の公判では、服部被告が殺人未遂を否認した部分の被害者の証人尋問が行われた。証言台に立った乗客Bさんは、刃物を持って迫る服部被告の様子を語った。
「車両の連結部分に集中して動けなかった乗客に、服部被告はペットボトルに入った液体をまいており、私の額にもかかりました。手には点火したジッポライターを持っていた。とっさに京アニの放火事件がよぎって、焼き殺される、と思いました。その後、別の車両に向かってヌルヌルした床を必死で走ると、後ろから“ドカン”と大きな音がして、赤い炎が大きく燃えていました」
また別の40代男性は、事件後に心療内科に通院することになり、昨年7月から今年まで休職を余儀なくされ、電車に乗ると震えが止まらなくなってしまったという。他にも、電車に長い時間乗ることが出来なくなり、電車に乗ること自体を避けている10代の女性など、複数の乗客が心に追った傷を明かした。
「今回、服部被告は車両に火をつけて運行不能にした。車両修理にかかった費用は、2430万円ほどとのこと。こちらの賠償も服部被告が背負う可能性があります」(前出・全国紙記者)
一歩間違えたら、数多くの被害者が出ていた可能性があったこの事件。証言台に立った乗客は、口を揃えて「犯人を厳重に適正な処罰を受けて欲しい」と語った。
犯行のために福岡から上京し、事件当初は金髪だった服部被告。公判の際には黒髪の丸坊主と落ち着いた風貌になっていた。
犯行の高揚感から覚めた今、自らの都合で被害者らの人生を狂わせた服部被告は何を思うのか。