2025年4月の大阪・関西万博の開催まで、あと約850日となった。予想される来場者総数は約2800万人、外国人観光客も約350万人が押し寄せてくるとみられている。
【レア写真多数】昔はよかった? 喫煙シーンの多い、昭和の文豪 その一大イベントを見据え、大阪市内全域を路上喫煙禁止にすると松井一郎市長が明らかにしたのは今年3月のこと。大阪市ではすでに御堂筋など6カ所が路上喫煙禁止地区に指定されており、ここでタバコを吸うと係員から千円の過料を取られる。その禁止地区を、万博開催前の25年1月をめどに市内全域に広げるというのだ。一方で、市は路上で吸えなくなった人のために喫煙所を新たに約120カ所設置する。分煙対策というわけだ。
367カ所が必要になる252億円もの悪影響 ところが、これに異論を唱えたのが大阪の商店街の店主たちだ。11月10日、大阪市内の商店会が集まった「大阪市商店会総連盟(以下・総連盟)」がコンサルに委託して試算したデータを公表したのである。それによると、「まず、駅周辺は、乗降客2.5万人あたりに喫煙所一つが必要となります。これだけで267カ所。それ以外にもオフィス街や飲食街など人流・回遊性の多い地域にも喫煙所を設置しなければならず、合計367カ所が必要になる。現状予定されている120カ所では到底足りず、商店街に及ぼす悪影響は年間252億円と予測されると発表したのです」(大阪市政担当の記者) 252億円もの悪影響とは、どういうことなのだろうか。堂島公園内にある喫煙所「松井さんが言うような喫煙規制をやったら商店街からお客さんが遠のいてしまうことを、具体的な数字で示したかったのです」 と総連盟の千田忠司理事長が言う。「大阪の商店街は今でもタバコを吸いながら歩く人がいっぱいおります。コロナ前などはインバウンドもあって、路上で喫煙する外国人観光客も多かった。もし、それを全部禁止にしたうえ過料を取るというのなら、吸えなくなったお客さんは仕方なくデパートなど喫煙所のある場所に流れてしまう。これまでタバコが吸えた場所から人を締め出しておいて、喫煙所がたった120カ所で本当に足りるんですか、と問題提起したわけです」(同)喫煙所不足を示唆するデータ 喫煙所不足を示唆するデータは他にもある。大阪に先行して路上喫煙を全面禁止とした東京の千代田区(昼間人口85万人)では、現在73カ所。目下、これを100カ所に増やす予定だが、一方の大阪市の昼間人口は4倍の354万人。なのに120カ所だけというわけである。この数字を見ても、市の計画が不十分であることは一目瞭然だ。松井一郎大阪市長 それだけではない。市が堂島公園に造ったものと同じ閉鎖型の喫煙所は一つ約1400万円かかるが、一度に入れるのは10人程度。待ちきれない外国人観光客が勝手に路上でスパスパ始めたら、スムーズに過料を徴収できるのだろうか。海外では路上喫煙が基本的に可能という国が少なくない。堂島公園内にある喫煙所 そこで、当の大阪市に聞くと、「喫煙所は閉鎖型だけでなく、開放型も合わせて造ってゆきます。正直、120カ所でも喫煙所の用地確保は簡単ではありません。喫煙所の設置で先行している東京都にも教えてもらいながら準備を進めているところです。もちろん、喫煙所が少ないというご批判はあるでしょうが、日本は人口減もあって喫煙人口も漸減している。慌てて造り過ぎてしまい、無駄になってはいけません。とりあえず計画通り造ってみて、それで足りるかどうか様子を見ようということです」(環境局の事業部事業管理課)目的と手段のズレ しかし、大阪市のやり方は、そもそも目的と手段がズレているのではないか、と指摘するのは、神奈川県の受動喫煙防止条例の制定に関わった東海大学の玉巻弘光名誉教授だ。「喫煙規制を行う一番の目的はタバコを吸わない人の受動喫煙を減らすことです。それならば、路上喫煙禁止地区をむやみに広げるより、受動喫煙が発生しやすい屋内喫煙の規制を先に徹底するべきなのです。松井市長は路上喫煙禁止の目的として“万博に向けて”と説明しましたが、これでは喫煙規制が受動喫煙を防ぐためというより、吸い殻のポイ捨てを防ぐ環境美化の手段としてやっているように見える。事実、大阪市の喫煙所の設置計画を、ゴミ対策などを行う環境局が担当していることからもそれはうかがえます」 喫煙所設置計画は年明けの大阪市議会で予算案が審議される。誰のための喫煙規制なのか。市民は煙に巻かれたままである。「週刊新潮」2022年12月15日号 掲載
その一大イベントを見据え、大阪市内全域を路上喫煙禁止にすると松井一郎市長が明らかにしたのは今年3月のこと。大阪市ではすでに御堂筋など6カ所が路上喫煙禁止地区に指定されており、ここでタバコを吸うと係員から千円の過料を取られる。その禁止地区を、万博開催前の25年1月をめどに市内全域に広げるというのだ。一方で、市は路上で吸えなくなった人のために喫煙所を新たに約120カ所設置する。分煙対策というわけだ。
ところが、これに異論を唱えたのが大阪の商店街の店主たちだ。11月10日、大阪市内の商店会が集まった「大阪市商店会総連盟(以下・総連盟)」がコンサルに委託して試算したデータを公表したのである。それによると、
「まず、駅周辺は、乗降客2.5万人あたりに喫煙所一つが必要となります。これだけで267カ所。それ以外にもオフィス街や飲食街など人流・回遊性の多い地域にも喫煙所を設置しなければならず、合計367カ所が必要になる。現状予定されている120カ所では到底足りず、商店街に及ぼす悪影響は年間252億円と予測されると発表したのです」(大阪市政担当の記者)
252億円もの悪影響とは、どういうことなのだろうか。
「松井さんが言うような喫煙規制をやったら商店街からお客さんが遠のいてしまうことを、具体的な数字で示したかったのです」
と総連盟の千田忠司理事長が言う。
「大阪の商店街は今でもタバコを吸いながら歩く人がいっぱいおります。コロナ前などはインバウンドもあって、路上で喫煙する外国人観光客も多かった。もし、それを全部禁止にしたうえ過料を取るというのなら、吸えなくなったお客さんは仕方なくデパートなど喫煙所のある場所に流れてしまう。これまでタバコが吸えた場所から人を締め出しておいて、喫煙所がたった120カ所で本当に足りるんですか、と問題提起したわけです」(同)
喫煙所不足を示唆するデータは他にもある。大阪に先行して路上喫煙を全面禁止とした東京の千代田区(昼間人口85万人)では、現在73カ所。目下、これを100カ所に増やす予定だが、一方の大阪市の昼間人口は4倍の354万人。なのに120カ所だけというわけである。この数字を見ても、市の計画が不十分であることは一目瞭然だ。
それだけではない。市が堂島公園に造ったものと同じ閉鎖型の喫煙所は一つ約1400万円かかるが、一度に入れるのは10人程度。待ちきれない外国人観光客が勝手に路上でスパスパ始めたら、スムーズに過料を徴収できるのだろうか。海外では路上喫煙が基本的に可能という国が少なくない。
そこで、当の大阪市に聞くと、
「喫煙所は閉鎖型だけでなく、開放型も合わせて造ってゆきます。正直、120カ所でも喫煙所の用地確保は簡単ではありません。喫煙所の設置で先行している東京都にも教えてもらいながら準備を進めているところです。もちろん、喫煙所が少ないというご批判はあるでしょうが、日本は人口減もあって喫煙人口も漸減している。慌てて造り過ぎてしまい、無駄になってはいけません。とりあえず計画通り造ってみて、それで足りるかどうか様子を見ようということです」(環境局の事業部事業管理課)
しかし、大阪市のやり方は、そもそも目的と手段がズレているのではないか、と指摘するのは、神奈川県の受動喫煙防止条例の制定に関わった東海大学の玉巻弘光名誉教授だ。
「喫煙規制を行う一番の目的はタバコを吸わない人の受動喫煙を減らすことです。それならば、路上喫煙禁止地区をむやみに広げるより、受動喫煙が発生しやすい屋内喫煙の規制を先に徹底するべきなのです。松井市長は路上喫煙禁止の目的として“万博に向けて”と説明しましたが、これでは喫煙規制が受動喫煙を防ぐためというより、吸い殻のポイ捨てを防ぐ環境美化の手段としてやっているように見える。事実、大阪市の喫煙所の設置計画を、ゴミ対策などを行う環境局が担当していることからもそれはうかがえます」
喫煙所設置計画は年明けの大阪市議会で予算案が審議される。誰のための喫煙規制なのか。市民は煙に巻かれたままである。
「週刊新潮」2022年12月15日号 掲載