長い行列と会場のあちらこちらで勃発するバトル……。開幕直後から20回近く足を運んできた旅行ジャーナリスト・フォトグラファーが、閉幕まで1ヵ月を切った大阪・関西万博会場で起きている異常事態を紹介する。
人気パビリオンの前で、入場をひたすら待ち続ける長い行列。その一方で、『優先レーン』を設けるパビリオンも多い。対象者は招待のVIPほか、車いすやベビーカーなどの利用者と同伴する人々だ。
だが、その優先レーンに、ベビーカー1台にその両親と祖父母、さらに他の子どもたちも含めて総勢10名ほどが一緒に入場しようとしたり、小学生ほどの大きな子どもをベビーカーに乗せて優先レーンを利用したりといったケースを、筆者は目撃したことがある。
車いすでも似たようなケースが散見され、優先レーンを設けていないパビリオンで「どうして優先入場できないんですか」とスタッフに問い詰めたり、開幕しばらくして優先レーンの利用基準を「同伴者2名まで」などと変更したりするパビリオンもあった。
海外では、いわばハンディキャップがある人々に対して優先される習慣が日本以上にある。万博の海外パビリオンはそれにならい、優先レーンを積極利用させるシーンが開幕当初は見られたが、その積極さが会期を追うごとに徐々に少なくなった感がある。
さらに、パビリオンの行列で、ずっと1人しか並んでいなかったのに途中から大勢が合流したり、しれっと割り込みしたりする人々も少なからずいる。また、パビリオンの行列があふれて「行列規制」が行われ、しばらくしてその解除後を狙い、「ここで待たないでください」と警備員に言われ続けても待ち、解除になった途端に人が殺到して非常に危ない場面も。ある人はぶつかられて転倒してもぶつかった人は助けることもなく、ケガした本人は救護室で手当てを受けたという。
また、西ゲートで入場を待っていた際、ここも人が密で、筆者の隣りでやや高齢の女性2人が「私が先にいた」「押さないで」といった口げんかを始めた。どちらも1人で来ていたようで、周りの人々が積極的に止めるでもなく、入場するまで延々と続いた。
来場者のマナーの悪さは、他にもみられる。例えば、入場ゲートやパビリオンで待つ際、暑さをしのぐため、日傘を使うことが多く、万博協会も利用を推奨している。だが、万博の「人が密になる」場所で日傘を使うと、周りに対して危ないことが多々ある。実際、日傘の先が何度も身体にぶつかり、顔付近だと危なかったというシーンに、筆者は何度も遭遇した。
また、ゲートやパビリオンで待つために「折り畳み椅子」を持参する人も多く、万博で持参する必須アイテムの1つとなっている。椅子を使う人が座った状態で日傘をさすと、使わない人に当たることもあり得る。
さらに、多くの国々がブースを出展する共同パビリオン『コモンズ』では、その展示品に手を触れる来場者も増えているという。「展示品に触れないでください」と表記されていなくても、遠方から日本までわざわざ運んできた展示物を丁重に取り扱うのは当然のこと。一部の人による行為とはいえ、日本人の民度が疑われる残念な事態である。
夜21時を過ぎると、夢洲駅へ向かうルートが「カオス」になる。夕方までであれば、東ゲートから出て駅にそのまま真っすぐ向かうことができるが、夜になると駅構内に人が滞留するのを防ぐため、迂回ルートが設けられる。日中なら数分、夜だと30分から1時間ほどかかることもあり、ここでも並ぶために『帰宅万博』ともいわれることも。
ゲートを出て駅に向かうのも人が密でゆっくり歩きながらの移動だが、その中を我先にと前へ行こうとする人々もいる。人が密集している中を前に行くのは容易でなく、人にぶつかっても謝ることなく、ひたすら前を目指す人々は、今まで幾度となく見た中で全員が日本人だった。
万博の来場客は、年齢層が高め。そして、外国人より日本人が圧倒的に多い。開幕直後の4、5月はまだ空いていて、会場内を歩いたりパビリオンに並んだりするのも今ほど大変ではなかった。だが現在、閉幕まで1ヵ月を切り、会場内は人であふれている。
また、会場内でパビリオンの予約を取るため、スマートフォンの“同じ画面”を眺めてはスクロールとクリックをし続けている人が多い。予約枠の開放時間をあらかじめ把握し、多くの人々とのクリック合戦に勝たないといけない。他のパビリオンに並ぶ途中、また休憩所に座っている時も、周りの皆が同じ画面をスクロールしているのも不気味だが、実際そうせざるを得ない。
朝9時直後の入場を逃し、やっと会場入りしてもパビリオンはおろかコンビニにすら長い列ができ、パビリオンの予約は取れず、休憩しようにも大屋根リングの下やレストランなどは空いている座席がない。そんな疲れ果てて途方に暮れる人々を見かける機会が、特に最近増えている。
取材・文・写真:シカマアキ