「その夜、どこかの土手で寝ようと自転車を押しているときにその女性を見つけました。そのころの私は、住むところもなく、飲み食いもしていませんでした。自暴自棄になっていたので、このまま死んでもいいや、捕まってもいいやと思っていました。襲うと決め、その女性のあとをつけました」(宮嶋被告)
’22年11月15日、当時19歳の女性Aさんにわいせつな行為をしてケガを負わせたとして、警視庁亀有署は住居不詳の無職・宮嶋力(つとむ)(42)を強制わいせつ致傷の疑いで現行犯逮捕した。逮捕時の所持金はわずか8円だった。
その宮嶋被告の裁判員裁判が、’23年9月20日から東京地裁で開かれた。
宮嶋被告は11月15日の午前0時30分ごろ、自転車で移動中に、帰宅途中のAさんをたまたま見つけたという。人気のない場所でわいせつな行為をしようと約15分にわたって追跡。Aさんが入っていったアパートの敷地内で、いきなり後ろから抱きついた。左手に持ったハンドタオルで口をふさぎ、さらに右手に持った千枚通しの先で、Aさんの左頬に全治約1週間のケガを負わせた。そのあとAさんの胸をさわり、逃走をはかった。
Aさんは警察の事情聴取で、突然、背後から抱きつかれた恐怖をこう語っている。
「その日、私はイヤホンで音楽を聞きながら、ゆっくりと自宅に向かって歩いていました。アパートの入口の階段を登っているところで、ふいに、背後に人がいることに気がつきました。振り返ろうとしたところ、突然、口を布のようなもので押さえられ、抱きつかれました。なんとか助けを呼ぼうと顔を左右に大きく振り、布のようなものから顔をずらすことができました。それで『ワー、ワー』と必死に叫び声を上げることができましたが、犯人はまたすぐに布のようなもので口をふさいできて、10秒ほど抱きついてきました。3~4回、叫ぶことを繰り返したところ、服の上から胸をわしづかみにされました」
Aさんの胸を触ったあと、宮嶋被告はその場から逃げだした。
しかし、Aさんは「ここで逃がしてしまえば、今後も犯人に怯えなければならない。それは絶対に嫌だ」と勇気を出して宮嶋被告を追いかけた。そして、自転車にまたがろうとしていた宮嶋被告の前に立ち、前カゴをつかんだ。そのとき、「犯人をはじめて正面から見て、先のとがった凶器を持っている」(Aさん)と気がついたという。さらに逃げようとする宮嶋被告のリュックサックをつかんだところで、Aさんの悲鳴を聞いた近所の男性が駆けつけ、110番してくれた。
家族に「血が出てるよ」といわれるまで、Aさんは顔にケガをしていることに気がつかなかったと明かしている。「必死だったので、痛みを感じる余裕もありませんでした」(Aさん)。
その場で現行犯逮捕された宮嶋被告だが、犯行はこれだけではなかった。
通行中の女性に抱きついて体を触るなど、2件の強制わいせつなどの疑いで逮捕され、’22年5月に懲役3年執行猶予4年の有罪判決を受けていたのだ。釈放されて、半年もたたないうちにまた事件を起こしたことになる。
もともと他人とコミュニケーションをとるのが苦手だった宮嶋被告は、人間関係のトラブルが多く、職を転々としていたという。それでも結婚し、子どもにもめぐまれた。
「そのころは家族のためにと仕事もがんばり、会社の同僚からもうらやましがられていました」(宮嶋被告)
しかし、その職場でも、上司とのトラブルで仕事をやめてしまう。
「家族と二度と仕事をやめないと約束していたのに破ってしまいました。もう戻らないと決心して逃げ、離婚届を送り、’21年に離婚しました」(宮嶋被告)
そして離婚が成立したことから、「一人になったことによって、なにか解放された気持ちになり、(わいせつな行為を)やってしまった」と、離婚をきっかけに欲求を抑えられなくなったという。
釈放後、宮嶋被告は千葉市で生活保護を受け、施設に入った。しかし9月末、施設を無断で出てしまう。
「なぜ、施設を無断で出たのか」という検察の質問に、「7月ころから、すれ違いざまに女性の体を触っていました。10回以上です。逃げる途中で転び、自転車のライトが落ちてしまったので、警察が拾って施設に来るかもしれないと逃げ出しました」と、釈放後、2ヵ月もたたないうちから痴漢行為を繰り返していたことを明かした。
施設を出たあとはネットカフェで寝泊まりし、お金がなくなると、公園や橋の下で寝ていたという。一度は「殴られ屋」をやろうと100円ショップで紙とペン、千枚通しを購入しプラカードをつくったものの、捨ててしまった。そのときの千枚通しを持ち歩き、今回の犯行では「女性を脅すためにつかった」と認めている。
9月21日に行われた論告・弁論で、検察は「社会内で更生するチャンスを与えられたにもかかわらず、わずか半年もたたないうちに、再び犯罪を犯しました。今回の事件では、被害者にケガをさせるなど、被告人はより悪質化しています」と懲役6年を求刑。
一方、弁護人は「非常に短い時間しかわいせつ行為をしていない。女性には精神的苦痛を与えてケガもさせてしまいましたが、幸いにも約1週間の擦り傷というものにとどまっています」とした上で、宮嶋被告の兄が更生を支援すると約束したことや、拘置所内での読書で、宮嶋被告が「自分は性依存症ではないか」との気づきを得たことを指摘。「再犯の可能性が限りなく低くなった宮嶋さんに対して、懲役3年の刑が相当です」と述べた。
そして9月26日、島戸純裁判長は「前科を考慮すると、同様の事案のなかでは、やや重い部類」と、懲役4年6ヵ月の判決を言い渡した。そして10月11日までに控訴しなかったことから刑が確定している。
今後、前回の3年が上乗せされ、7年6ヵ月の刑に服すこととなる。今回の逮捕で、10年以上つきあいのなかった兄が面会に来たという。
最終陳述では「私は一人じゃなかった。周りの期待を裏切らないよう罪と向きあい、まっさらな自分でやりなおしたい」と語った宮嶋被告。
すべての人間関係をなくしたときの「解放された」という感覚。宮嶋被告はそれを忘れることができるのだろうか。
取材・文:中平良