女子高生の青春「プリ」の今。スマホがあっても「あえて撮る」ワケ

かつてノートや手帳に“プリントシール(以下、プリ)”を貼り、シールや落書きで可愛くデコレーションした「プリ帳」を持ち歩いていた人も多いはずだ。
女子高生の遊びといえばショッピングやカラオケ、おしゃれなカフェ巡りなどが定番だが、プリは現在も不動の人気を誇っている。 プリの歴史を辿ると、1995年にアトラス(現セガグループ)が「プリント倶楽部」を世に出したのが始まりで、メディアへの露出や安室奈美恵のファッションを手本とする「アムラー」ブームも相まって、当時の女子中高生の間で大流行。プリは一大ムーブメントを巻き起こした。
1997年にプリントシール市場へ参入し、今ではプリントシール機(以下、プリ機)の設置台数の国内シェアが94%(2021年夏 フリュー調べ)と、圧倒的な支持を得ている企業がフリューだ。
同社の管理本部広報部・疋田 裕貴さんは「女の子にとって、プリ機の中でお友達と一緒に撮影し、“盛る”を楽しむ体験は、今も昔も変わらない普遍的な楽しさになっている」と話す。
◆似顔絵を売りにした初代シール機は失敗に終わる 1997年に大手電気機器メーカーのオムロンの新規事業開発「コロンブスプロジェクト」が、フリューのプリ機ビジネスの先駆けになっている。 他社と差別化を図るべく、オムロンの持つ顔認証の技術力を前面に出した初号機「似テランジェロ」を開発。 写真から読み取った顔情報から写真を似顔絵に変換し、それをプリントシールとして出すというユニークなもので、社内の前評判は上々だったという。 しかしいざ蓋を開けてみると、肝心の女子高生たちにはまったく受け入れられなかったとか……。
「似顔絵のバリエーションも増やして世の中に出したんですが、結果としては失敗作となってしまいました。原因は男性目線だけでプリ機を開発していたこと。なぜ『似テランジェロ』を使わないのかについて、当時の女子高生へ聞いたところ『そもそも似顔絵のシールなんていらない』という回答が返ってきたんです。
こうした反省を踏まえ、1998年に発売した次の機種から、女子高生へのグループインタビューを週1回以上行うようになりました。プリ機を開発する上では『女の子の目線に立って考える』ことをとても重要視していて、今でも年に200回以上(2021年度実績)のグループインタビューを実施しています」(疋田さん、以下同)
◆年に200回以上のインタビューで女子高生の感性を拾う 通常グループインタビューを行う際は、消費者ニーズやインサイトを拾って、製品化に生かすことが多い。 他方、フリューの場合は「企画者が今の女の子と同じ目線を持てるようにする」こと、そして「開発している内容をブラッシュアップさせる」ことの2つが主な目的になっているそうだ。

◆後発組にもかかわらず業界シェアNo.1になれた理由
なかでも、2011年に発売したプリ機「LADY BY TOKYO(レディ バイ トウキョウ)」は、プリントシール業界におけるイノベーションを起こした機種で、フリューにとってターニングポイントになっているとのこと。 「今までの機種は加工で目を大きくしたりして盛っていましたが、『LADY BY TOKYO』の場合は陰影を使って、自然な立体感を出して盛る機種でした。さらに今まで外装はピンクや赤などのカラフルなカラーリング・日本人モデルを起用したデザインでしたが、黒と白のシックなデザインに変更し、モデルも外国人を起用するなど、イメージチェンジを図ったんです。 この頃はAKB48のようなアイドルブームが起きていたこともあり、清楚系だけど盛れる“ナチュラル盛り”が流行っていました。企画は発売の約1年前から始まりますが、プリ機が世の中に出る頃の時代に求められるプリ機の企画力、女の子のリアルを把握するマーケティング力に加え、アイデアを即座に形にする技術力が、業界シェアNo.1になることができた所以だと考えています」 後発組にもかかわらず、フリューのプリ機ビジネスは隆盛を極め、現在では年間のプレイ回数(プリ機で撮影する回数)は3200万回(2021年度実績)に上り、プリントシール事業だけで75億円(2022年3月時点)を売り上げる規模にまで成長したのだ。
◆“盛り”のトレンドは時代とともに変化してきた
そんななか、プリ文化における特徴のひとつである“盛り”については「時代とともに変化している」と疋田さんは言う。 アムラーが流行り、さらには「egg」に代表されるギャル雑誌の影響でガン黒ギャルブームに湧いたのが90年代後半。 2000年代に入ると、姫ギャル系ファッション雑誌「小悪魔ageha」が話題を呼び、「age嬢スタイル」が女子高生の憧れになっていく。そして、先述したアイドルグループが人気を博すようになると、今度は清楚系が注目されるように──。 まさにガールズトレンドは目まぐるしく変化しているわけだが、「2010年代以降、女の子一人ひとりの『なりたい顔』が多様化し、いろんな盛り方が求められるようになった」と疋田さんは話す。
「今まではテレビや雑誌で見た『〇〇ちゃんのようになりたい!』というアイコンが女の子にとって憧れの存在だったわけですが、スマホの普及やSNSの台頭によって、好みの幅がものすごく広がったんです。最近だと骨格診断やパーソナルカラーなど『診断系』ニーズの高まりからもうかがえるように『最高の自分にカスタム』する盛れ方を意識する女の子も多いですね。
こうした多様なニーズに応えるために、最近では撮影後に顔を整えられるレタッチ&メイク機能が充実しています。普通に撮るだけでもプリは盛れますが、理想の自分になるために最新機種『TODAYL』では頭のサイズまでも整えられるようになっているんです。また、シールのデザインの種類を増やしたりと、様々な好みに対応できるようにラインナップを拡充しています」

デジタル画像だと振り返る機会が見出しづらいですが、手元にものが残っていれば思い出として振り返りやすい。そういう意味でも、プリ機の中でワイワイ楽しく遊んで過ごし、その思い出がもの(シール)となって手元に残るプリ、どんなに時代が変化しても、女の子にとってかけがえのないものになっていると言えるでしょう」 ◆平成レトロブームで“平成プリ”が再注目
1年ほど前から、女子高校生の間で流行を見せているのは「平成プリ」というもの。 かつての平成の時代に流行ったカルチャーや遊びを体験する「平成レトロ」が注目されていることもあり、ネオンペンを使って「ズッ友」や「仲仔(なかこ、仲の良い親友のこと)」といった落書きをプリに入れたりして遊んでいるという。 今後も「プリ文化を継承する使命を背負いながら、盛れた時の嬉しさ、友人とワイワイする楽しさなどを提供していきたい」と疋田さんは抱負を述べる。 「今まで積み上げてきた企画力、技術力などをさらに磨き、女の子に寄り添い続けること。最近では機械学習にも力を入れており、喜んでもらえるコンテンツの表現の幅を広げられるよう尽力しています。プリ機でしか味わえない体験を追求することを、これからも念頭に置きながらプリ文化を育んでいきたいと思っています」 <取材・文・撮影/古田島大介>