「まさかたった2年半で、老後のためにコツコツ蓄えてきた虎の子の3000万円を失うなんて、当時は夢にも思いませんでした」
こう語るのは、関東地方に住む70代の佐藤俊男(仮名)さんだ。俊男さん夫婦が、海辺のリゾート地にある高齢者施設に入居したのは今から6年ほど前だった。
50代で脱サラしてから、建設関係の会社を興して働きづめ、8年ほど前に事業は後輩に譲って引退していた。既に子どもたちもそれぞれの家庭を持ち、安心できる場所で夫婦そろって悠々自適の老後を送るはずだった。
「独立した子どもたちに迷惑をかけないためにも、一緒にで入居できる老人ホームでも探さなきゃね」
当時は、賃貸マンションに妻とふたりきりで暮らしていた俊男さん夫妻。今はともに健康だが、いずれはどちらかが介護が必要になるかもしれない。
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そろそろ、本腰を入れて終の棲家を探そうか…。そう妻と話していた矢先に、長年の友人から引っ越しのハガキが届いた。聞けば、都心から車で2時間程度のリゾート地に暮らしているという。「豪華な三食付きで、天然温泉の大浴場もある。これまで精一杯働いてきたご褒美に、いい施設で残りの人生を過ごすのも悪くないんじゃないかな」友人の説明では、この施設は元々、リゾートホテルだったが、今は福祉関連の事業を手がける法人が買い取り、高齢者が終身で入居できるように運営しているとのことだった。さっそく夫婦そろって実際に訪ねると、友人から聞いたとおり、鉄筋コンクリート造りの5階建て建物からは、目の前の湾が一望できた。もとはリゾートホテルだけあって、パンフレットなどで見ていたほかの有料高齢者施設よりもはるかに部屋のしつらえなども良かった。吹き抜けのロビーは明るく開放的で、ここでなら趣味の釣りを楽しみながらのんびり暮らせると確信した。Image by iStock 部屋の間取りは十畳二間で、夫婦で入居すれば2部屋があてがわれるという。「1人あたり1500万円の頭金を支払っていただければ、月額11万円ほどの食費込みの家賃で入居できます。今後、介護認定を受けることがあれば、公的な介護保険を超えた分も、施設の福利厚生の一環として介護支援サービスを受けられます。大変な人気なので、空きが出てもすぐに満室になってしまいますよ」施設の担当者はパンフレットを手に、熱心に入居を勧めた。「これまでコツコツ貯めてきた貯金のほぼ全額がなくなるのに抵抗はありましたが、長年の友人も居るし、入居者の人間関係も良好だと太鼓判を押してくれた。なによりも、妻もスタッフや入居者と楽しげに話して『素敵なところね』と気に入ってくれている。長年苦労を掛けた罪滅ぼしにも、こんなリゾート地でのんびりと余生を過ごすのは悪くない」こう考え俊男さんは、見学したその日に入居を決めたという。狂い始めた日常生活頭金は夫婦で計3000万円、家賃も値上がりせずに据え置きになるとの説明を受けたため、4年分を一括して前払いした。入居当初は、夕食は刺身や天ぷらなどのまさにリゾートホテルの夕食といった品が並び、好きな時間に大浴場にも入れる。同世代の他の入居者との交流も楽しく、時には外から友人や子どもたち家族を招いて宴会をすることもあった。Image by iStock各部屋にはナースコールボタンがあり、看護師の資格を持つスタッフが定期的に入居者の健康管理してくれる。体の不自由な人には病院や買い物の付き添いをしたりといった無料サービスも事前の説明の通りで、生活は充実していた。しかし、入居から1年ほどたったころで経営者が交代になり、いたれりつくせりの生活の歯車が徐々に狂い始める。経営難で半数以上の施設のスタッフが離職したことをきっかけに、食事はそれまでの豪華な出来たてのものから、簡易的なチルド食品を暖めたものに代わり、健康管理や買い物の介助といった無料サービスも廃止されて看護スタッフもみんないなくなってしまった。 加えて新任の施設長は入居者や残りのスタッフを集めて、「ここは高齢者向けの介護施設ではなく、われわれ法人の保養施設だと認識してほしい」と公言するようになった。「新しい施設長が来てから、明るかった施設内がぐっと暗く陰気な雰囲気になっていきました。良くしてくれたスタッフもほとんどが居なくなり、活気がなくなって私も妻も籠もりがちになっていきました。ほんの1年前までは、楽しかった食事も、電子レンジで温めた出来合いの食事を妻とふたり、会話なく食べる日々でした」先行きの不安を仲の良かった施設のスタッフに話すと、施設長がスタッフたちに充てて書いた数枚の文書をこっそり見せてくれた。そこに書かれていた内容は目を疑うものばかりだったという。その詳細は、<【後編記事】70代夫が青ざめた…老後資金3000万円で「海辺のリゾート」に引っ越し、すべてを失った夫婦の末路>でお伝えする。
そろそろ、本腰を入れて終の棲家を探そうか…。そう妻と話していた矢先に、長年の友人から引っ越しのハガキが届いた。聞けば、都心から車で2時間程度のリゾート地に暮らしているという。
「豪華な三食付きで、天然温泉の大浴場もある。これまで精一杯働いてきたご褒美に、いい施設で残りの人生を過ごすのも悪くないんじゃないかな」
友人の説明では、この施設は元々、リゾートホテルだったが、今は福祉関連の事業を手がける法人が買い取り、高齢者が終身で入居できるように運営しているとのことだった。
さっそく夫婦そろって実際に訪ねると、友人から聞いたとおり、鉄筋コンクリート造りの5階建て建物からは、目の前の湾が一望できた。
もとはリゾートホテルだけあって、パンフレットなどで見ていたほかの有料高齢者施設よりもはるかに部屋のしつらえなども良かった。吹き抜けのロビーは明るく開放的で、ここでなら趣味の釣りを楽しみながらのんびり暮らせると確信した。
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部屋の間取りは十畳二間で、夫婦で入居すれば2部屋があてがわれるという。「1人あたり1500万円の頭金を支払っていただければ、月額11万円ほどの食費込みの家賃で入居できます。今後、介護認定を受けることがあれば、公的な介護保険を超えた分も、施設の福利厚生の一環として介護支援サービスを受けられます。大変な人気なので、空きが出てもすぐに満室になってしまいますよ」施設の担当者はパンフレットを手に、熱心に入居を勧めた。「これまでコツコツ貯めてきた貯金のほぼ全額がなくなるのに抵抗はありましたが、長年の友人も居るし、入居者の人間関係も良好だと太鼓判を押してくれた。なによりも、妻もスタッフや入居者と楽しげに話して『素敵なところね』と気に入ってくれている。長年苦労を掛けた罪滅ぼしにも、こんなリゾート地でのんびりと余生を過ごすのは悪くない」こう考え俊男さんは、見学したその日に入居を決めたという。狂い始めた日常生活頭金は夫婦で計3000万円、家賃も値上がりせずに据え置きになるとの説明を受けたため、4年分を一括して前払いした。入居当初は、夕食は刺身や天ぷらなどのまさにリゾートホテルの夕食といった品が並び、好きな時間に大浴場にも入れる。同世代の他の入居者との交流も楽しく、時には外から友人や子どもたち家族を招いて宴会をすることもあった。Image by iStock各部屋にはナースコールボタンがあり、看護師の資格を持つスタッフが定期的に入居者の健康管理してくれる。体の不自由な人には病院や買い物の付き添いをしたりといった無料サービスも事前の説明の通りで、生活は充実していた。しかし、入居から1年ほどたったころで経営者が交代になり、いたれりつくせりの生活の歯車が徐々に狂い始める。経営難で半数以上の施設のスタッフが離職したことをきっかけに、食事はそれまでの豪華な出来たてのものから、簡易的なチルド食品を暖めたものに代わり、健康管理や買い物の介助といった無料サービスも廃止されて看護スタッフもみんないなくなってしまった。 加えて新任の施設長は入居者や残りのスタッフを集めて、「ここは高齢者向けの介護施設ではなく、われわれ法人の保養施設だと認識してほしい」と公言するようになった。「新しい施設長が来てから、明るかった施設内がぐっと暗く陰気な雰囲気になっていきました。良くしてくれたスタッフもほとんどが居なくなり、活気がなくなって私も妻も籠もりがちになっていきました。ほんの1年前までは、楽しかった食事も、電子レンジで温めた出来合いの食事を妻とふたり、会話なく食べる日々でした」先行きの不安を仲の良かった施設のスタッフに話すと、施設長がスタッフたちに充てて書いた数枚の文書をこっそり見せてくれた。そこに書かれていた内容は目を疑うものばかりだったという。その詳細は、<【後編記事】70代夫が青ざめた…老後資金3000万円で「海辺のリゾート」に引っ越し、すべてを失った夫婦の末路>でお伝えする。
部屋の間取りは十畳二間で、夫婦で入居すれば2部屋があてがわれるという。
「1人あたり1500万円の頭金を支払っていただければ、月額11万円ほどの食費込みの家賃で入居できます。
今後、介護認定を受けることがあれば、公的な介護保険を超えた分も、施設の福利厚生の一環として介護支援サービスを受けられます。大変な人気なので、空きが出てもすぐに満室になってしまいますよ」
施設の担当者はパンフレットを手に、熱心に入居を勧めた。
「これまでコツコツ貯めてきた貯金のほぼ全額がなくなるのに抵抗はありましたが、長年の友人も居るし、入居者の人間関係も良好だと太鼓判を押してくれた。
なによりも、妻もスタッフや入居者と楽しげに話して『素敵なところね』と気に入ってくれている。長年苦労を掛けた罪滅ぼしにも、こんなリゾート地でのんびりと余生を過ごすのは悪くない」
こう考え俊男さんは、見学したその日に入居を決めたという。
頭金は夫婦で計3000万円、家賃も値上がりせずに据え置きになるとの説明を受けたため、4年分を一括して前払いした。
入居当初は、夕食は刺身や天ぷらなどのまさにリゾートホテルの夕食といった品が並び、好きな時間に大浴場にも入れる。同世代の他の入居者との交流も楽しく、時には外から友人や子どもたち家族を招いて宴会をすることもあった。
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各部屋にはナースコールボタンがあり、看護師の資格を持つスタッフが定期的に入居者の健康管理してくれる。体の不自由な人には病院や買い物の付き添いをしたりといった無料サービスも事前の説明の通りで、生活は充実していた。
しかし、入居から1年ほどたったころで経営者が交代になり、いたれりつくせりの生活の歯車が徐々に狂い始める。
経営難で半数以上の施設のスタッフが離職したことをきっかけに、食事はそれまでの豪華な出来たてのものから、簡易的なチルド食品を暖めたものに代わり、健康管理や買い物の介助といった無料サービスも廃止されて看護スタッフもみんないなくなってしまった。
加えて新任の施設長は入居者や残りのスタッフを集めて、「ここは高齢者向けの介護施設ではなく、われわれ法人の保養施設だと認識してほしい」と公言するようになった。「新しい施設長が来てから、明るかった施設内がぐっと暗く陰気な雰囲気になっていきました。良くしてくれたスタッフもほとんどが居なくなり、活気がなくなって私も妻も籠もりがちになっていきました。ほんの1年前までは、楽しかった食事も、電子レンジで温めた出来合いの食事を妻とふたり、会話なく食べる日々でした」先行きの不安を仲の良かった施設のスタッフに話すと、施設長がスタッフたちに充てて書いた数枚の文書をこっそり見せてくれた。そこに書かれていた内容は目を疑うものばかりだったという。その詳細は、<【後編記事】70代夫が青ざめた…老後資金3000万円で「海辺のリゾート」に引っ越し、すべてを失った夫婦の末路>でお伝えする。
加えて新任の施設長は入居者や残りのスタッフを集めて、「ここは高齢者向けの介護施設ではなく、われわれ法人の保養施設だと認識してほしい」と公言するようになった。
「新しい施設長が来てから、明るかった施設内がぐっと暗く陰気な雰囲気になっていきました。良くしてくれたスタッフもほとんどが居なくなり、活気がなくなって私も妻も籠もりがちになっていきました。
ほんの1年前までは、楽しかった食事も、電子レンジで温めた出来合いの食事を妻とふたり、会話なく食べる日々でした」
先行きの不安を仲の良かった施設のスタッフに話すと、施設長がスタッフたちに充てて書いた数枚の文書をこっそり見せてくれた。そこに書かれていた内容は目を疑うものばかりだったという。
その詳細は、<【後編記事】70代夫が青ざめた…老後資金3000万円で「海辺のリゾート」に引っ越し、すべてを失った夫婦の末路>でお伝えする。