〈自民党総裁選〉八方美人の進次郎は「政策をなるべく話さないで」ステルスの高市は「タカ派すぎないように…」本命2人の正念場…告示前に見えてきた作戦

告示を9月22日に控えた自民党総裁選(10月4日投開票)の構図がほぼ固まった。昨年の総裁選で2~6位だった高市早苗前経済安保相、小泉進次郎農相、林芳正官房長官、小林鷹之元経済安保相、茂木敏充前幹事長が出馬する予定だが、上位2人の決選投票に残るのは高市氏と進次郎氏とみられている。どちらの陣営も「うちが本命」とゆずらない戦いは高市氏が19日、進次郎氏が20日に正式な出馬会見をし、政策を発表することで本格化する。告示を直前に控え、「本命」2人の作戦はいかに……。
【画像】昨年の総裁選で高市氏を熱烈に支持していた元議員
「気力、体力は充実している」
17日、推薦人に必要な20人を上回る議員との会合に出席した高市氏はそう語り、総裁選への意気込みを強調したという。
石破首相の退陣表明後、早々に推薦人20人の目途をつけ、いち早く有力候補に躍り出た高市氏だが、その後の動向はさほど報じられていなかった。
「他候補が議員たちと都内各所で会合を重ねるなか、高市氏はほとんどの時間を議員宿舎で過ごし、側近議員たちとも宿舎内で作戦会議をしてきました。政策発表もギリギリまで遅らせ、世論や他候補の動向を見極める『後出しじゃんけん作戦』です」(全国紙政治部記者)
こうして時間をかけて情勢を見極めるなかで高市氏やその周辺が頭を悩ませてきたのが、「どこまで高市カラーを打ち出すか」ということだ。
高市氏はスパイ防止法導入を提言するなど、タカ派色の強い政策を打ち出してきたが、そうした姿勢には旧安倍派からも「タカ派すぎて、ついていけない」(旧安倍派ベテラン)と距離を置く声が目立つ。その結果、昨年の総裁選では石破茂氏に決選投票で敗れることとなった。
さらに今回は、旧安倍派の裏金問題を受け、杉田水脈氏ら高市氏を熱烈に支持していた議員が落選した後の総裁選のため、高市氏にとっては前回ほどの議員票が見込みにくい状態での戦いとなりそうだ。
それゆえに高市氏の周辺は「あまりにタカ派的な政策だと幅広い支持を集められない。ウィングを広げて支持を集めるためにも、政策や発言をマイルドにしては」と進言した。
ただ、夜や土日も議員宿舎にこもって資料を読み込むほど勉強熱心で知られ、政策にはこだわりがある高市氏。議員宿舎で連日、仲間とともに政策や発言の詰めを進めるものの、どこまで柔軟に対応できるかが焦点だ。
また、高市氏の「ステルス」の背景の1つとして指摘されているのが、本人のコンディションだ。
最近は永田町で「数十メートル歩くだけでもかなり疲れるようで、ほんの短い距離でもすぐに車に乗りたがる様子を見た」などともささやかれており、総裁選を通じて体調不安説を払拭できるかどうかも課題だ。
いっぽう、もう1人の有力候補の進次郎氏。総裁選前倒しをめぐって賛否を表明しなかったように、敵を作らず、人たらしな人柄もあり、大物の支持を取りつけている。
「進次郎氏の選対本部長に、前回総裁選に出馬した加藤勝信氏が就任することになりました。これは加藤氏とも近く、進次郎氏の後ろ盾である菅義偉元首相のはからいと見られています。加藤氏は保守派として知られ、進次郎氏は保守派の議員票も集めたい考えです」(全国紙政治部記者)
それ以外にも進次郎氏をめぐっては、岸田文雄前首相の側近として知られる木原誠二選対委員長が政策立案に関わっている。これにより、進次郎氏は岸田氏の支持も取りつけられる可能性を残す。
さらに進次郎氏は8月、菅氏と関係が悪い麻生太郎最高顧問にもコメ政策の説明のため面会。麻生氏の支持にも期待する。
ただ、次々と大物の支持を取りつけることは諸刃の剣となる可能性も。
「若手・中堅のほか、保守的な加藤氏、さらには菅氏と関係がよくない麻生氏まで取り込むとなれば、総裁選期間中も、その後に政権運営をすることになった場合も、党内の各方面に配慮せざるをえなくなり、手足がしばられてしまう」(自民関係者)
実際に、こうした進次郎氏の「八方美人作戦」の弊害は出始めていて……。
「前回の総裁選で進次郎氏は選択的夫婦別姓の導入を訴えましたが、リベラル色が強すぎる印象を与え、保守票を取り込めませんでした。今回、陣営は進次郎氏が本命候補だと考えて『守りの戦い』に徹することが大事だと考えています。
本人の論戦力不足によるボロを出さない目的もあり、陣営では『なるべく政策について話さない』という本末転倒な作戦案まで真剣に語られているそうです」(同)
ただ、今回の総裁選は過去最多の9人が出馬した前回の約半分となる、5人での戦いの見通し。討論会で進次郎氏が発言する機会も増えそうで、守りに徹した『のらりくらり作戦』が過ぎると、進次郎氏の最大の売りである改革姿勢や清新なイメージが失われる可能性がありそうだ。
総理の座まであと一歩のところまで来た2人。それぞれの作戦は吉と出るか、凶と出るか。2週間後に笑うのは……。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班