「スパイ養成」発言 MBSラジオ「ヘイトではないが配慮に欠けた」

MBSラジオ(大阪市)の生放送で今年2月、経済評論家の上念司氏が朝鮮学校について「スパイ養成的なところもあった」と発言し、同社はインターネットで配信していた番組を16日夜に削除した。17日の定例記者会見で、有貞直明コンテンツデザイン局長は「配慮に欠ける表現があったが、ヘイトスピーチには当たらない」と釈明した。前後の発言については「ある程度は事実に即している」と擁護した。
MBSラジオが「スパイ養成」発言を削除 2月21日放送の情報ワイド番組「上泉雄一のええなぁ!」で、上念氏は北朝鮮のミサイル問題を取り上げた際、朝鮮学校について言及し「スパイ養成的なところもあった」などと述べた。その前には「子どもを巻き込むんですよ。独裁者を礼賛する教育をやって」「OBが日本人の拉致に関わったりする」などと持論を展開した。 在日本朝鮮人人権協会(東京都)の傘下にある関西3団体が「発言はヘイトスピーチだ」と問題視し、3月3日付でMBSラジオに質問状を送付した。同社は10日、インターネット上で配信していた番組から当該発言のみを削除。番組内でアナウンサーが謝罪し、番組ホームページにおわびを掲載した。 記者会見で有貞局長は、発言について「現在の朝鮮学校と過去の事案とを区別する形では聞こえず、リスナーや関係者を傷つける表現があった」と釈明。ヘイトスピーチには当たらないとした理由について「(発言全体が)朝鮮学校や民族教育を否定しているわけではなく、子どもの人権を守るという趣旨だった」と説明した。 発言の一部を削除して16日まで配信を続けた判断について「スパイ養成的という発言には配慮が足りないと判断したが、それ以外は上念氏が事実に即した話をしたと認識していた」と述べた。 質問状を取りまとめた在日本朝鮮人大阪人権協会の文時弘事務局長は、朝鮮学校を中傷するヘイトスピーチの違法性を認定した京都地裁判決(2013年10月)を挙げつつ「発言は裁判で名誉毀損(きそん)と認定されたのと同じ内容だ。朝鮮学校の子どもや保護者は恐怖や怒りを感じている」と批判。MBSラジオに対しても「上念氏の思想を社の幹部が代弁した形だ。引き続き誠実な対応を求めるとともに、放送倫理・番組向上機構(BPO)への申し立てを検討している」と話した。 上念氏は経済評論家として活動し、メディアでは金融や財政のほか外交、防衛問題などにも積極的に発言している。過去にはインターネット番組「虎ノ門ニュース」「ニュース女子」にも出演していた。 「上泉雄一のええなぁ!」は09年4月、平日の帯番組としてスタート。21年10月、上念氏を火曜コメンテーターに迎えた。MBSラジオは当時、起用した理由を「ニュースを分かりやすく伝えるというコンセプトに非常に適している」などと説明していた。【谷口豪、倉田陶子】影山貴彦・同志社女子大教授(メディアエンターテインメント論)の話 MBSラジオは「ヘイトではない」と言い切ったが、本来は「出演者個人の考えであり、局として支持するものではない」と毅然(きぜん)と対応すべきだった。人権団体におわびする一方で、出演者を擁護したいという考えもあり、苦しい立場だったのだろう。自身の主張を強く打ち出す出演者をたしなめるなど、局として向き合い方を考える必要がある。ヘイトスピーチ問題に詳しい豊福誠二弁護士の話 マイノリティーにとってヘイトスピーチはナイフで刺されるような痛みが伴う大きな問題だ。今回の発言は、2013年の京都地裁判決で不法行為と判断された京都朝鮮学校に対するヘイトスピーチと同じ内容で、「おわび」で済まされるような軽い話ではない。「ヘイトではない」と記者会見で述べたMBSラジオは事態の重大性をまったく理解しておらず、ヘイトスピーチへの認識が甘すぎると言わざるを得ない。
2月21日放送の情報ワイド番組「上泉雄一のええなぁ!」で、上念氏は北朝鮮のミサイル問題を取り上げた際、朝鮮学校について言及し「スパイ養成的なところもあった」などと述べた。その前には「子どもを巻き込むんですよ。独裁者を礼賛する教育をやって」「OBが日本人の拉致に関わったりする」などと持論を展開した。
在日本朝鮮人人権協会(東京都)の傘下にある関西3団体が「発言はヘイトスピーチだ」と問題視し、3月3日付でMBSラジオに質問状を送付した。同社は10日、インターネット上で配信していた番組から当該発言のみを削除。番組内でアナウンサーが謝罪し、番組ホームページにおわびを掲載した。
記者会見で有貞局長は、発言について「現在の朝鮮学校と過去の事案とを区別する形では聞こえず、リスナーや関係者を傷つける表現があった」と釈明。ヘイトスピーチには当たらないとした理由について「(発言全体が)朝鮮学校や民族教育を否定しているわけではなく、子どもの人権を守るという趣旨だった」と説明した。
発言の一部を削除して16日まで配信を続けた判断について「スパイ養成的という発言には配慮が足りないと判断したが、それ以外は上念氏が事実に即した話をしたと認識していた」と述べた。
質問状を取りまとめた在日本朝鮮人大阪人権協会の文時弘事務局長は、朝鮮学校を中傷するヘイトスピーチの違法性を認定した京都地裁判決(2013年10月)を挙げつつ「発言は裁判で名誉毀損(きそん)と認定されたのと同じ内容だ。朝鮮学校の子どもや保護者は恐怖や怒りを感じている」と批判。MBSラジオに対しても「上念氏の思想を社の幹部が代弁した形だ。引き続き誠実な対応を求めるとともに、放送倫理・番組向上機構(BPO)への申し立てを検討している」と話した。
上念氏は経済評論家として活動し、メディアでは金融や財政のほか外交、防衛問題などにも積極的に発言している。過去にはインターネット番組「虎ノ門ニュース」「ニュース女子」にも出演していた。
「上泉雄一のええなぁ!」は09年4月、平日の帯番組としてスタート。21年10月、上念氏を火曜コメンテーターに迎えた。MBSラジオは当時、起用した理由を「ニュースを分かりやすく伝えるというコンセプトに非常に適している」などと説明していた。【谷口豪、倉田陶子】
影山貴彦・同志社女子大教授(メディアエンターテインメント論)の話
MBSラジオは「ヘイトではない」と言い切ったが、本来は「出演者個人の考えであり、局として支持するものではない」と毅然(きぜん)と対応すべきだった。人権団体におわびする一方で、出演者を擁護したいという考えもあり、苦しい立場だったのだろう。自身の主張を強く打ち出す出演者をたしなめるなど、局として向き合い方を考える必要がある。
ヘイトスピーチ問題に詳しい豊福誠二弁護士の話
マイノリティーにとってヘイトスピーチはナイフで刺されるような痛みが伴う大きな問題だ。今回の発言は、2013年の京都地裁判決で不法行為と判断された京都朝鮮学校に対するヘイトスピーチと同じ内容で、「おわび」で済まされるような軽い話ではない。「ヘイトではない」と記者会見で述べたMBSラジオは事態の重大性をまったく理解しておらず、ヘイトスピーチへの認識が甘すぎると言わざるを得ない。