弁護士なし「本人訴訟」の有料支援サイト、違法か合法か…「非弁行為」の線引き難しく

弁護士をつけずに当事者だけで裁判をする「本人訴訟」の書面作成を、ネット上で支援する有料サービスが登場している。
無資格で報酬を得て法律事務を行うと、弁護士法が禁じる「非弁行為」に抵触する恐れがあるが、違法か合法かの線引きは難しい。司法分野でITを活用したサービスが広がりつつあり、専門家から指針の策定を求める声が上がる。(田中俊之)
■月額2000円
「弁護士費用が払えなくても、裁判ができることを知ってほしい」。昨年12月に本人訴訟を支援する有料会員制サイトを開設した男性(50)は取材に力説する。
男性は大阪市内で広告会社を経営している。別のサイトの運営を巡って提訴され、本人訴訟で対応したことがあり、「ノウハウを伝えたいと考えた」という。
サイトの会費は月額2000円。SNSの発信者の身元を特定するための開示請求や、養育費不払いの督促請求などについて、裁判所に提出する書類の「ひな型」を掲載し、書き方を解説している。会員が自由に質問を書き込め、議論できる掲示板もある。
開設後1か月で会員は数十人に上り、男性は「AI(人工知能)を活用し、質問に答えるだけで訴状が作成できるサービスも検討している」と力を込める。
■弁護士法で禁止
弁護士資格がない者が報酬を得て法律事務を行うことは非弁行為と呼ばれ、弁護士法で禁じられている。依頼者の利益を損ねたり、司法の秩序を乱したりすることを防ぐためで、2年以下の懲役か300万円以下の罰金が科せられる。
男性に資格はないが、「違法ではない」と主張している。
ポイントはサービスが法律事務と言えるかどうかだ。
法律事務の明確な定義はないが、専門家の間では、書面のひな型を示したり、一般的な意見を述べたりするだけなら該当しないと理解されている。しかし、個別事案について専門知識に基づく具体的な助言をしたり、書類作成などを代行したりすると、法律事務にあたる可能性が高いという。
男性は取材に「サイトでは一般論で会員に助言や解説をしているだけ。法律事務と言えないはずだ」と強調。「もっと裁判の垣根を低くするべきだ」と語った。
東京都内のIT企業も昨年、訴訟などで使われる法的書面を作成する有料事業を始めた。利用者がサイトに個人情報や訴えたい内容を入力すると、自動で書面化される仕組みだ。
同社の代表も「利用者を助けるツールを提供しているだけ。合法だ」と話す。
■AI活用も
国は、新たな事業やサービスの合法性について事業者からの質問を受け付ける「グレーゾーン解消制度」を2014年に始め、見解を公表している。
司法分野のITサービスに関する質問もたびたび寄せられており、法務省は21年、離婚協議書の自動作成サービスについて「やり取りの状況などによっては法律事務にあたる可能性がないとはいえない」と回答した。他の司法分野のITサービスについても、同様の曖昧な見解を示している。
法律相談サイトを運営する弁護士ドットコム(東京)は、米企業が開発した対話型AI「Chat(チャット)GPT」を活用した法律相談サービスを今春にも始める。登録する弁護士が過去に受け付けた法律相談のやり取りを基に、質問に自動的に回答する仕組みだ。しかし、AIが回答すると「非弁行為」にあたる可能性があるとして、当面は無償で提供するという。
司法分野のITサービスは「リーガルテック」と呼ばれ、成長が見込まれている。
弁護士法に詳しい石田京子・早大教授は「今後より高度なサービスが出てくることが想定され、線引きが曖昧なままでは、質の悪いサービスが入り込んで利用者が不利益を受け、市場の成長も妨げられる。国や事業者、日本弁護士連合会などが議論し、基準を示す指針をまとめるべきだ」と指摘している。
◆本人訴訟=弁護士をつけずに当事者が訴訟を行うこと。司法統計によると、全国の地裁で2021年に行われた民事裁判のうち、原告や被告または双方が弁護士をつけない本人訴訟は51%あった。最高裁司法研修所が13年に公表した報告書では、本人訴訟の2割近くについて、担当した裁判官が「弁護士がいれば本人に有利に働いた」と回答した。