学校教員に没収された私物、卒業後も戻らず 「返すのが当たり前と思う」当事者疑問…法的問題は?

学生時代に教員に私物を没収されたまま、卒業後も返ってこない――。こうした事例に頭を悩ませている「元生徒」たちがいる。教員が私物を返さないことで、法的問題は生じないのか。弁護士に見解を聞いた。
現在30代のAさんは2022年8月24日、J-CASTニュースの取材に、学生時代の出来事をこう振り返る。Aさんは高校3年生の頃、ルーズソックスとピアスを身に着けて登校した。「おしゃれをしたり、流行りのものを身に着けたい思いから、ごく当たり前な行動だったと思います」
しかし、授業後のホームルームで、「校則違反」という理由から、ルーズソックスとピアスを取り上げられた。担任の教員から「もうつけてこないな?」と問われたAさんは「もうつけてこない」と返したものの、教員は「お前はまた校則違反をする」と取り合おうとしなかったという。
教員は卒業式後の返却を約束したものの、結局私物が返ってくることはなかった。教員と不仲だったAさんは「返してほしいとも言いづらかった」と返却を求めなかったが、「没収するにしても絶対返すのが当たり前のことだと思うし、返さないのははっきり言って盗んだと同等ではないのかと思います」と今も不信感を募らせる。
現在20代のBさんは、中学1年生の秋ごろ、私物の携帯ゲーム機を没収された。ゲーム機は自身が学校に持ち込んだものではなく、寮生活を送っていた友人に貸していたもの。友人が持ち物検査を受けた際に「学習に必要無いものを持ち込んだ」として、ホームルームで担任に叱られた。
Bさんは教員に事情を説明するも「私の話は聞いてもらえなかった」と、問答無用でゲーム機を没収された。教員は同年度限りで他の学校へ移り、10年経った今もゲーム機は戻ってきていない。「そもそも没収された経緯にも納得してない」とするBさんは「あの頃の思い出が失われたまま、ということに悲しみを覚えます」と胸の内を語る。
没収した私物を教員が返さないことに、問題はないのか。J-CASTニュースは22年8月26日、弁護士法人ユア・エースの正木絢生代表弁護士に話を聞いた。
正木弁護士はまず、教員が生徒の私物を没収すること自体は「学校教育法11条により認められる適法な行為だと思われます」と指摘する。学校教育法11条には「校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる」とある。
その一方で、教員や学校側が没収した私物を返却しないことは「生徒の所有権を侵害したものとして、刑事上窃盗罪が成立する可能性や、民事上損害賠償請求を受ける可能性があります」と指摘する。仮に、教員が生徒の私物を「私物化」していたり、他者への譲渡や転売を行っていたりした場合は「単に返却しない場合と比べ、所有権侵害の程度が著しくなる」ことから、法的問題に発展する可能性が高いという。
特に譲渡や転売など、私物が自身の占有を離れているケースでは「所有権に基づく返還請求を受けた場合に返却できる可能性が下がる」とし、「賠償請求された場合に物の価値相当額まで支払わなければならない危険があります」と指摘した。
もし、元生徒が学校や教員に対し私物の返却を求めた場合は「所有権に基づく返還請求権の行使と考えられるため、返却しなければなりません」とする。
一方で、元生徒が返却を求めない場合は「元生徒が権利を行使していないと考えられるため、返却しなくともよいと考えられます」。それでも、私物を返却しないまま、後日損害賠償請求を求められた場合には、支払わなければならない利息が増える危険もあるとして、「道義上は返却すべき」とした。