「寄ってらっしゃい見てらっしゃい」「お代は見てのお帰りで」「親の因果が子に報い」――出店がひしめく祭りの夜、怪しげな呼び込みで人を誘うのは見世物小屋。始まりは室町時代といわれ、最盛期は戦後、その後平成を経て令和となった現在はほぼ消えつつある。
〈衝撃写真〉ほっぺたを串刺しにする男、生きた昆虫を食べるヤモリ女…世にも怪しい「見世物小屋」のリアル 衰退の発端は、TVや映画など娯楽の発達と、業界の高齢化による継承者不足。それでもアングラ系劇団が興行に協力する形で開催されてきたが、ここ数年は、コロナ禍により興行の主戦場である祭りそのものが開催されていない年もあった。
今、見世物小屋はどうなっているのか? 興行に携わる劇団「ゴキブリコンビナート」の主宰のDr.エクアドル氏に、出演時の裏話などを聞かせてもらった。(全3回の1回目/#2、#3を読む)劇団「ゴキブリコンビナート」の主宰のDr.エクアドル氏 筆者撮影◆◆◆「見世物小屋」を始めた理由――まず、劇団「ゴキブリコンビナート」が見世物小屋をプロデュース、出演するようになったのは、どんな経緯で?Dr.エクアドル アングラ仲間で「第七病棟」という劇団の入方(いりかた)って人がいたんですよね。そこそこ仲良くしていて。まず彼が、見世物小屋をやろうと言い出したんです。当時「日本で最後」と言われていた大寅(おおとら)興行社が見世物小屋を続けていたので、そこへ弟子入りすることになりました。 ところがある程度時間をかけて見世物修業させるという感じではなく、短期間で入方君を独立させた。そこで人手に困った入方君から、手伝ってくれと声をかけられたんです。 ある時は呼び込みだったり、またある時は立て込み(※会場の設営)だったり。そうして徐々に僕も関わるようになっていき、ある時期から演目は全部まかせると言われるようになった。そうして2回くらい、ゴキブリコンビナートがパフォーマンス全般を担当した興行があった後ですかね。入方君が自殺してしまったんです。記憶では、2010年くらいですかね。 その後数年くらいたってから、今度は大寅さんのほうから「小屋は用意するからパフォーマンスをやらないか」というオファーが来まして。そして現在に至っています。――興行主はあくまで大寅興行社で、プロデュースや演者は劇団ゴキブリコンビナートということですね。Dr.エクアドル そうなります。祭りを仕切っている人への体面は、あくまで大寅興行の小屋ということになります。小屋が始まると基本は我々が仕切るような形になりますが、大寅さんもずっと立ち会ってくれるので、いろいろ助けてくれますね。 ちょっと席を外すときに呼び込み役を代わってくれたり、いたずらな子どもらが悪さすると叱ってくれたり。「ヘビ女」の代わりに現れたのは…――ゴキブリコンビナートさんが出演していたあたりから、見世物小屋では定番だったヘビを使った芸がなくなっていますね。当時ネット上でもその背景が語られていましたが、改めて経緯をお聞かせください。Dr.エクアドル 動物愛護団体に抗議され、爬虫類と哺乳類を使った芸ができなくなったんです。博多の祭りで準備していたときでした。動物愛護団体の女性が、小屋へおまわりさんを伴って押しかけてきたんです。その時ちょうど、動物愛護法の改正があってですね、これまでは獣だけだったのが、新たに爬虫類や鳥類に関しても、殺傷に関する刑罰が重くなった。記憶だと、2013年頃です。 法律をたてにされると、こちらとしては太刀打ちできない。正直お巡りさんは、見世物小屋の演目をやめさせることにそんな乗り気っぽくもなく、連れてこられたから仕方なく……という雰囲気を感じましたが。まあ、法律は法律なんでね。今度やったら逮捕しますよと、言質をとられてしまった。――ヘビを食べるヘビ女が消えた後は、小屋で虫を食べる「ヤモリ女」を見ました。Dr.エクアドル 抗議されてから改めて調べてみると、虫なら法的に問題がないらしいとわかったんで、虫を食べるヤモリ女に変更したんです。「殺虫剤で蚊を殺してはいけない」とかはできないでしょうし。 ただ博多の時は、ヘビじゃなくてニワトリを食いちぎる芸だったかな。結果的に、その後のヘビもできなくなったわけですが。で、ニワトリをやろうとしていた本番前日に小屋に押しかけられたので、急遽会議して。じゃ虫にしよう!と決めました。 ヤモリ女を演じることになった役者がどんな心理状態でOKを出したかはわかりませんが、変更を伝えると「はい、大丈夫です」と即答してくれました。 ちなみに、僕はできないですよ。虫食えないんで。ミールワームを選んだのは、価格もお手頃で、一番管理されているんじゃないかなと思ったから。採ってきた虫とかはちょっとね。「いかがわしさ」に対する僕らの回答――Dr.エクアドルさんのブログでも触れられていましたが、見世物小屋が批判される出来事は、歴史的事実が反映されている映画『グレイテスト・ショーマン』でも描かれていましたね。Dr.エクアドル あの映画が撮られた時に、ちょうどゾウをはじめとする動物全般をサーカスのショーに使用することが禁止されはじめていました。その出来事や映画を見ていたら、世の流れで表現を変えざるを得なくなったという、自分たちが通ってきた経緯と重なる部分を勝手に感じて。――変更は余儀なくされたものの、ヘビ女改めヤモリ女も怪しくチャーミングでした。Dr.エクアドル 見世物小屋はいかがわしいものである。トリックでごまかしているものと、そうでない本物が、綯(ない)交ぜになっていく。そういった伝統を自分なりに解釈しつつ、自分がよく劇団でテーマにするようなものを設定としてもりこんであります。昔の見世物小屋にある「語るも涙、聞くも涙」に則りつつ、「いかがわしさ」というものに対する、僕らの回答がそれであるというコンセプトです。〈写真多数〉ほっぺたを串刺しにする男、口から火を吹く女…「日本最後の見世物小屋」のリアル へ続く(ムシモアゼルギリコ)
衰退の発端は、TVや映画など娯楽の発達と、業界の高齢化による継承者不足。それでもアングラ系劇団が興行に協力する形で開催されてきたが、ここ数年は、コロナ禍により興行の主戦場である祭りそのものが開催されていない年もあった。
今、見世物小屋はどうなっているのか? 興行に携わる劇団「ゴキブリコンビナート」の主宰のDr.エクアドル氏に、出演時の裏話などを聞かせてもらった。(全3回の1回目/#2、#3を読む)
劇団「ゴキブリコンビナート」の主宰のDr.エクアドル氏 筆者撮影
◆◆◆
――まず、劇団「ゴキブリコンビナート」が見世物小屋をプロデュース、出演するようになったのは、どんな経緯で?
Dr.エクアドル アングラ仲間で「第七病棟」という劇団の入方(いりかた)って人がいたんですよね。そこそこ仲良くしていて。まず彼が、見世物小屋をやろうと言い出したんです。当時「日本で最後」と言われていた大寅(おおとら)興行社が見世物小屋を続けていたので、そこへ弟子入りすることになりました。
ところがある程度時間をかけて見世物修業させるという感じではなく、短期間で入方君を独立させた。そこで人手に困った入方君から、手伝ってくれと声をかけられたんです。
ある時は呼び込みだったり、またある時は立て込み(※会場の設営)だったり。そうして徐々に僕も関わるようになっていき、ある時期から演目は全部まかせると言われるようになった。そうして2回くらい、ゴキブリコンビナートがパフォーマンス全般を担当した興行があった後ですかね。入方君が自殺してしまったんです。記憶では、2010年くらいですかね。
その後数年くらいたってから、今度は大寅さんのほうから「小屋は用意するからパフォーマンスをやらないか」というオファーが来まして。そして現在に至っています。
――興行主はあくまで大寅興行社で、プロデュースや演者は劇団ゴキブリコンビナートということですね。
Dr.エクアドル そうなります。祭りを仕切っている人への体面は、あくまで大寅興行の小屋ということになります。小屋が始まると基本は我々が仕切るような形になりますが、大寅さんもずっと立ち会ってくれるので、いろいろ助けてくれますね。
ちょっと席を外すときに呼び込み役を代わってくれたり、いたずらな子どもらが悪さすると叱ってくれたり。「ヘビ女」の代わりに現れたのは…――ゴキブリコンビナートさんが出演していたあたりから、見世物小屋では定番だったヘビを使った芸がなくなっていますね。当時ネット上でもその背景が語られていましたが、改めて経緯をお聞かせください。Dr.エクアドル 動物愛護団体に抗議され、爬虫類と哺乳類を使った芸ができなくなったんです。博多の祭りで準備していたときでした。動物愛護団体の女性が、小屋へおまわりさんを伴って押しかけてきたんです。その時ちょうど、動物愛護法の改正があってですね、これまでは獣だけだったのが、新たに爬虫類や鳥類に関しても、殺傷に関する刑罰が重くなった。記憶だと、2013年頃です。 法律をたてにされると、こちらとしては太刀打ちできない。正直お巡りさんは、見世物小屋の演目をやめさせることにそんな乗り気っぽくもなく、連れてこられたから仕方なく……という雰囲気を感じましたが。まあ、法律は法律なんでね。今度やったら逮捕しますよと、言質をとられてしまった。――ヘビを食べるヘビ女が消えた後は、小屋で虫を食べる「ヤモリ女」を見ました。Dr.エクアドル 抗議されてから改めて調べてみると、虫なら法的に問題がないらしいとわかったんで、虫を食べるヤモリ女に変更したんです。「殺虫剤で蚊を殺してはいけない」とかはできないでしょうし。 ただ博多の時は、ヘビじゃなくてニワトリを食いちぎる芸だったかな。結果的に、その後のヘビもできなくなったわけですが。で、ニワトリをやろうとしていた本番前日に小屋に押しかけられたので、急遽会議して。じゃ虫にしよう!と決めました。 ヤモリ女を演じることになった役者がどんな心理状態でOKを出したかはわかりませんが、変更を伝えると「はい、大丈夫です」と即答してくれました。 ちなみに、僕はできないですよ。虫食えないんで。ミールワームを選んだのは、価格もお手頃で、一番管理されているんじゃないかなと思ったから。採ってきた虫とかはちょっとね。「いかがわしさ」に対する僕らの回答――Dr.エクアドルさんのブログでも触れられていましたが、見世物小屋が批判される出来事は、歴史的事実が反映されている映画『グレイテスト・ショーマン』でも描かれていましたね。Dr.エクアドル あの映画が撮られた時に、ちょうどゾウをはじめとする動物全般をサーカスのショーに使用することが禁止されはじめていました。その出来事や映画を見ていたら、世の流れで表現を変えざるを得なくなったという、自分たちが通ってきた経緯と重なる部分を勝手に感じて。――変更は余儀なくされたものの、ヘビ女改めヤモリ女も怪しくチャーミングでした。Dr.エクアドル 見世物小屋はいかがわしいものである。トリックでごまかしているものと、そうでない本物が、綯(ない)交ぜになっていく。そういった伝統を自分なりに解釈しつつ、自分がよく劇団でテーマにするようなものを設定としてもりこんであります。昔の見世物小屋にある「語るも涙、聞くも涙」に則りつつ、「いかがわしさ」というものに対する、僕らの回答がそれであるというコンセプトです。〈写真多数〉ほっぺたを串刺しにする男、口から火を吹く女…「日本最後の見世物小屋」のリアル へ続く(ムシモアゼルギリコ)
ちょっと席を外すときに呼び込み役を代わってくれたり、いたずらな子どもらが悪さすると叱ってくれたり。
――ゴキブリコンビナートさんが出演していたあたりから、見世物小屋では定番だったヘビを使った芸がなくなっていますね。当時ネット上でもその背景が語られていましたが、改めて経緯をお聞かせください。
Dr.エクアドル 動物愛護団体に抗議され、爬虫類と哺乳類を使った芸ができなくなったんです。博多の祭りで準備していたときでした。動物愛護団体の女性が、小屋へおまわりさんを伴って押しかけてきたんです。その時ちょうど、動物愛護法の改正があってですね、これまでは獣だけだったのが、新たに爬虫類や鳥類に関しても、殺傷に関する刑罰が重くなった。記憶だと、2013年頃です。
法律をたてにされると、こちらとしては太刀打ちできない。正直お巡りさんは、見世物小屋の演目をやめさせることにそんな乗り気っぽくもなく、連れてこられたから仕方なく……という雰囲気を感じましたが。まあ、法律は法律なんでね。今度やったら逮捕しますよと、言質をとられてしまった。
――ヘビを食べるヘビ女が消えた後は、小屋で虫を食べる「ヤモリ女」を見ました。
Dr.エクアドル 抗議されてから改めて調べてみると、虫なら法的に問題がないらしいとわかったんで、虫を食べるヤモリ女に変更したんです。「殺虫剤で蚊を殺してはいけない」とかはできないでしょうし。
ただ博多の時は、ヘビじゃなくてニワトリを食いちぎる芸だったかな。結果的に、その後のヘビもできなくなったわけですが。で、ニワトリをやろうとしていた本番前日に小屋に押しかけられたので、急遽会議して。じゃ虫にしよう!と決めました。
ヤモリ女を演じることになった役者がどんな心理状態でOKを出したかはわかりませんが、変更を伝えると「はい、大丈夫です」と即答してくれました。 ちなみに、僕はできないですよ。虫食えないんで。ミールワームを選んだのは、価格もお手頃で、一番管理されているんじゃないかなと思ったから。採ってきた虫とかはちょっとね。「いかがわしさ」に対する僕らの回答――Dr.エクアドルさんのブログでも触れられていましたが、見世物小屋が批判される出来事は、歴史的事実が反映されている映画『グレイテスト・ショーマン』でも描かれていましたね。Dr.エクアドル あの映画が撮られた時に、ちょうどゾウをはじめとする動物全般をサーカスのショーに使用することが禁止されはじめていました。その出来事や映画を見ていたら、世の流れで表現を変えざるを得なくなったという、自分たちが通ってきた経緯と重なる部分を勝手に感じて。――変更は余儀なくされたものの、ヘビ女改めヤモリ女も怪しくチャーミングでした。Dr.エクアドル 見世物小屋はいかがわしいものである。トリックでごまかしているものと、そうでない本物が、綯(ない)交ぜになっていく。そういった伝統を自分なりに解釈しつつ、自分がよく劇団でテーマにするようなものを設定としてもりこんであります。昔の見世物小屋にある「語るも涙、聞くも涙」に則りつつ、「いかがわしさ」というものに対する、僕らの回答がそれであるというコンセプトです。〈写真多数〉ほっぺたを串刺しにする男、口から火を吹く女…「日本最後の見世物小屋」のリアル へ続く(ムシモアゼルギリコ)
ヤモリ女を演じることになった役者がどんな心理状態でOKを出したかはわかりませんが、変更を伝えると「はい、大丈夫です」と即答してくれました。
ちなみに、僕はできないですよ。虫食えないんで。ミールワームを選んだのは、価格もお手頃で、一番管理されているんじゃないかなと思ったから。採ってきた虫とかはちょっとね。「いかがわしさ」に対する僕らの回答――Dr.エクアドルさんのブログでも触れられていましたが、見世物小屋が批判される出来事は、歴史的事実が反映されている映画『グレイテスト・ショーマン』でも描かれていましたね。Dr.エクアドル あの映画が撮られた時に、ちょうどゾウをはじめとする動物全般をサーカスのショーに使用することが禁止されはじめていました。その出来事や映画を見ていたら、世の流れで表現を変えざるを得なくなったという、自分たちが通ってきた経緯と重なる部分を勝手に感じて。――変更は余儀なくされたものの、ヘビ女改めヤモリ女も怪しくチャーミングでした。Dr.エクアドル 見世物小屋はいかがわしいものである。トリックでごまかしているものと、そうでない本物が、綯(ない)交ぜになっていく。そういった伝統を自分なりに解釈しつつ、自分がよく劇団でテーマにするようなものを設定としてもりこんであります。昔の見世物小屋にある「語るも涙、聞くも涙」に則りつつ、「いかがわしさ」というものに対する、僕らの回答がそれであるというコンセプトです。〈写真多数〉ほっぺたを串刺しにする男、口から火を吹く女…「日本最後の見世物小屋」のリアル へ続く(ムシモアゼルギリコ)
ちなみに、僕はできないですよ。虫食えないんで。ミールワームを選んだのは、価格もお手頃で、一番管理されているんじゃないかなと思ったから。採ってきた虫とかはちょっとね。
――Dr.エクアドルさんのブログでも触れられていましたが、見世物小屋が批判される出来事は、歴史的事実が反映されている映画『グレイテスト・ショーマン』でも描かれていましたね。
Dr.エクアドル あの映画が撮られた時に、ちょうどゾウをはじめとする動物全般をサーカスのショーに使用することが禁止されはじめていました。その出来事や映画を見ていたら、世の流れで表現を変えざるを得なくなったという、自分たちが通ってきた経緯と重なる部分を勝手に感じて。
――変更は余儀なくされたものの、ヘビ女改めヤモリ女も怪しくチャーミングでした。
Dr.エクアドル 見世物小屋はいかがわしいものである。トリックでごまかしているものと、そうでない本物が、綯(ない)交ぜになっていく。そういった伝統を自分なりに解釈しつつ、自分がよく劇団でテーマにするようなものを設定としてもりこんであります。昔の見世物小屋にある「語るも涙、聞くも涙」に則りつつ、「いかがわしさ」というものに対する、僕らの回答がそれであるというコンセプトです。
〈写真多数〉ほっぺたを串刺しにする男、口から火を吹く女…「日本最後の見世物小屋」のリアル へ続く
(ムシモアゼルギリコ)