70歳まで月15万円の給与を見込むが…「63歳会社員」が歓喜する、繰下げ受給でもらえる年金額

厚生労働省によると、老齢厚生年金の平均受給額は「14.6万円」と、退職後に年金だけで暮らすのはたいへん厳しい時代であり、一生働かなければならないのかと落胆してしまいます。そこで今回、牧野FP事務所の牧野寿和CFPが、「年金受給額を少しでも増やせないか」と事務所へ相談に来た63歳男性Iさんの事例をもとに、年金受給額を増やす方法を解説します。
会社勤めなどで厚生年金に加入していた人の平均年金受給額(老齢厚生年金)は、月額「14万6,145円※1、※2」です。また2人以上世帯の平均消費支出額は、世帯主の年齢が60~69歳の場合1ヵ月あたり「28万8,312円※3」、70歳以上の世帯は「22万6,383円※4」となっています。
※1 年金受給額は毎年改定されます。本記事は令和4年4月以降の数値です。※2 厚生労働省「令和2年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」厚生年金保険受給者平均年金月額の推移より※3※4 総務省統計局「家計調査年報(家計収支編)2021年(令和3年)飢鳩彈支の概況(二人以上の世帯)」より
このデータから、ほとんどの家庭は、年金受給だけでの生活はかなり厳しいことがわかります。
そこで今回は、63歳の男性Iさんを例に「年金給付額を増やす」方法を考えていきます。
63歳のIさん。子どもはすでに独立し、現在は60歳専業主婦の奥さんと2人暮らしです。65歳の誕生日に、24歳から勤めあげた会社を退職し、そのタイミングで老齢厚生年金を月14万円ほど受給予定です。
Iさんは退職後も系列会社で70歳まで月収15万円で働く予定があり、「年金受給額を少しでも増やす方法はないか、また70歳まで働いたら受給額はどのくらい変わるか知りたい」と筆者のところに相談にみえました。
Iさん夫婦の年金加入履歴は[図表1]、年金受給開始年齢と受給される年金内容は[図表2]の通りです。
[図表1]Iさん夫婦の年金加入履歴
[図表2]Iさん夫婦の年金受給開始年齢と受給される年金の内容
[図表2]に記したように、Iさんが65歳から受給する月14万円は、「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」を合算した額です。個人事業主や専業主婦など厚生年金に加入したことのない人の場合、「老齢基礎年金」のみの受給となります※。
※ 老齢厚生年金、老齢厚生年金、特別支給の老齢厚生年金 老齢年金ガイド令和4年度版(https://www.nenkin.go.jp/service/pamphlet/kyufu.files/LK03.pdf)
なお、Iさんには、Iさんが65歳から老齢厚生年金を受給し、奥さんが65歳になり老齢厚生年金を受給するまで、加給年金「38万8,900円」が加算されます。奥さんが65歳になると加給年金は停止され、奥さんの老齢基礎年金に「振替加算」が年「1万4,995円」加算されます※。
※ 加給年金と振替加算の詳細https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/kakyu-hurikae/20150401.html
Iさんは、このように年金受給の「ターニングポイント」を迎えるタイミングで相談に訪れたのでした。
Iさんの年金受給額を増やす方法Iさん夫婦の年齢から年金受給額を増やすには、次の2つの方法があります。1.年金の受給開始を繰下げる2.65歳以降も会社で働き、収入と厚生年金の受給額を増やすこの2点とのちほど詳述する「家計支出見直し」で、お金の心配のない老後を過ごすことができるでしょう。以下で各項目について詳しくみていきます。年金の受給開始時期を繰下げる老齢基礎年金と老齢厚生年金は、本年(令和4年)4月から、受給開始時期を60歳から75歳まで選べるようになりました。ここでは、Iさんが、本来受給を開始する65歳から「繰下げ加算」して受給するケースをみていきます。【Iさんが繰下げ加算された年金を受給するときのポイント5つ】1. 繰下げる基準年齢は65歳2. 1ヵ月ごとに繰下げ0.7%ずつ受給額が加算される3. 繰下げ加算した年金を受給できるのは66歳から。65歳から1年間は受給できない4. 「老齢厚生年金」と「老齢基礎年金」は、同時にまたは別々に繰下げ受給できる5. 繰下げ期間中に、一括して65歳からの年金を受給できる上記の5ポイントのうち、3~5について詳しくみていきます。繰下げ加算した年金の受給開始は66歳から。65歳から1年間は受給できない[図表3]のように、Iさんが月14万円の年金を、70歳0ヵ月から繰下げ加算して受給すると、14万円×42.0%=19万8,800円となります。繰下げ受給をすれば、この金額で生涯受給できます。75歳まで繰下げれば84.0%加算されますが、Iさんの場合には現実的ではありません。[図表3]繰下げ加算して受給するその歳ごとの0ヵ月の増額率老齢厚生年金と老齢基礎年金を、同時にまたは別々に繰下げ受給できる加給年金や振替加算は増額の対象になりませんので注意が必要です。また、老齢厚生年金の繰下げ待機期間中(年金を受け取っていない期間)は受け取ることができません。Iさんの場合、奥さんと3歳離れているので、加給年金は3年間で116万6,700円(38万8,900円×3)受給することができますが、70歳まで老齢厚生年金を繰下げて受給しようとすると加給年金は受給できないということになります。老齢基礎年金だけ繰下げて、老齢厚生年金は65歳から受給するということであれば、加給年金も受給できます。繰下げ期間中に、一括して65歳からの年金を受給できるIさんが70歳まで繰下げ加算の申請をした場合、待機期間の69歳に急にまとまったお金が必要になったら、65歳からその歳までの年金を一括して受給することができます。そうした場合、その後の年金受給額は65歳の受給額になります。ただし一括して受給する場合、その年の納税面で注意が必要な場合があります。詳しくは、所轄の税務署や市区町村役場におたずねください。そのほか、厚生年金基金や企業年金連合会からの企業年金も、老齢厚生年金を繰下げすればともに繰下げ増額となり手続きが必要です。また、特別支給の老齢厚生年金には「繰下げ制度」はありませんので、受給できる年齢の誕生日が来たら年金事務所で申請し受給することになります※。※ 年金の繰下げ受給(日本年金機構HP)https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/kuriage-kurisage/20140421-02.html65歳以降も働き、収入と厚生年金の受給額を増やすIさんが65歳から70歳までの5年間、厚生年金保険料を納めながら、月収15万円(ボーナスなし)で会社に勤めれば、納税額などは考慮せずに年間180万円、5年間で900万円家計の収入が増えます。この場合、老齢厚生年金の受給額は、[前掲図表2]のように報酬比例部分と経過的加算、加給年金額で計算します。Iさんが65歳からも5年間会社勤めした時、70歳以降の年金受給額はいくら増加するのでしょうか(この試算には、繰下げて受給する効果は加味していません※)。※ 令和4年4月から、65歳以上の人が在職中、毎年8月までの加入期間に応じて、毎年10月分から老齢厚生年金額が増加されます。しかし今回のケースでは、Iさんが70歳まで働いたときの年金受給額を明確にするため、従来通り70歳で退職した場合の年金額を試算することにしました。まず、報酬比例部分について試算すると、65歳で受給するより5万1,924円増加します。次に経過的加算ですが、Iさんの場合は増額されません。なぜなら、経過的加算の計算では、厚生年金の加入月数が最大480ヵ月と定められています。Iさんは[前掲図表2]のように65歳までにすでに上限に達し、65歳以降受給する月14万円の年金のなかに、月約7,315円含まれているからです。加給年金も、前頁ポイント4(老齢厚生年金と老齢基礎年金を、同時にまたは別々に繰下げ受給できる)で述べたように70歳からの受給はありません。したがってIさんの場合、70歳からの老齢厚生年金は、報酬比例部分の5万1,924円、月額4,327円増やすことができます※。※ 経過的加算とは 老齢年金ガイド令和4年度版(日本年金機構PDF)https://www.nenkin.go.jp/service/pamphlet/kyufu.files/LK03.pdf健康寿命を念頭に「年金受給」と「家計支出」を見直す誰の手助けもなく自立して健康に過ごせる「健康寿命」は、男性が約73歳、女性は約75歳です(厚生労働省2019年発表)。Iさんは、年配の親類や会社の先輩の最近の様子から、自分の人生に残された時間を実感しているそうです。Iさんは、少しでも健康寿命を延ばそうと70歳までは働くことにしました。肝心の年金受給年齢は、家計面で、60代後半以降少しでも生活費に余裕を持たせたいと考え、65歳から勤める会社の給与を念頭に、当面、「老齢基礎年金」は繰下げて70歳から受給し、「老齢厚生年金」は65歳から受給して「加給年金」も受給することにしました。こうすることで奥さんは、Iさんが68歳になったタイミングで老齢厚生年金を受給します。もしそのときまでに生活の余裕ができれば、奥さんの年金受給開始時期も繰下げる予定です。そして、Iさんが70歳を過ぎたら、奥さんの繰下げた年金から受給を始め、Iさんの老齢基礎年金はさらに加算するために繰下げます。ここは机上だけの計画で終わらないようにしたいところです。また、IさんはこれからNISA(ニーサ:少額投資非課税制度※)で、投資信託を運用しようと思っていましたが、長期的に分散投資をするには年齢的にむずかしいと断念しました。しかし奥さんは、少額で運用を試みるそうです。※ NISAとはhttps://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/about/index.htmlIさん夫婦は、相談したことによって今後の収入や年金受給額の目安がつき、家計支出の見直しや削減が容易になったとのことです。牧野 寿和牧野FP事務所合同会社代表社員
Iさん夫婦の年齢から年金受給額を増やすには、次の2つの方法があります。
1.年金の受給開始を繰下げる2.65歳以降も会社で働き、収入と厚生年金の受給額を増やす
この2点とのちほど詳述する「家計支出見直し」で、お金の心配のない老後を過ごすことができるでしょう。以下で各項目について詳しくみていきます。
老齢基礎年金と老齢厚生年金は、本年(令和4年)4月から、受給開始時期を60歳から75歳まで選べるようになりました。ここでは、Iさんが、本来受給を開始する65歳から「繰下げ加算」して受給するケースをみていきます。
【Iさんが繰下げ加算された年金を受給するときのポイント5つ】1. 繰下げる基準年齢は65歳2. 1ヵ月ごとに繰下げ0.7%ずつ受給額が加算される3. 繰下げ加算した年金を受給できるのは66歳から。65歳から1年間は受給できない4. 「老齢厚生年金」と「老齢基礎年金」は、同時にまたは別々に繰下げ受給できる5. 繰下げ期間中に、一括して65歳からの年金を受給できる上記の5ポイントのうち、3~5について詳しくみていきます。繰下げ加算した年金の受給開始は66歳から。65歳から1年間は受給できない[図表3]のように、Iさんが月14万円の年金を、70歳0ヵ月から繰下げ加算して受給すると、14万円×42.0%=19万8,800円となります。繰下げ受給をすれば、この金額で生涯受給できます。75歳まで繰下げれば84.0%加算されますが、Iさんの場合には現実的ではありません。[図表3]繰下げ加算して受給するその歳ごとの0ヵ月の増額率老齢厚生年金と老齢基礎年金を、同時にまたは別々に繰下げ受給できる加給年金や振替加算は増額の対象になりませんので注意が必要です。また、老齢厚生年金の繰下げ待機期間中(年金を受け取っていない期間)は受け取ることができません。Iさんの場合、奥さんと3歳離れているので、加給年金は3年間で116万6,700円(38万8,900円×3)受給することができますが、70歳まで老齢厚生年金を繰下げて受給しようとすると加給年金は受給できないということになります。老齢基礎年金だけ繰下げて、老齢厚生年金は65歳から受給するということであれば、加給年金も受給できます。繰下げ期間中に、一括して65歳からの年金を受給できるIさんが70歳まで繰下げ加算の申請をした場合、待機期間の69歳に急にまとまったお金が必要になったら、65歳からその歳までの年金を一括して受給することができます。そうした場合、その後の年金受給額は65歳の受給額になります。ただし一括して受給する場合、その年の納税面で注意が必要な場合があります。詳しくは、所轄の税務署や市区町村役場におたずねください。そのほか、厚生年金基金や企業年金連合会からの企業年金も、老齢厚生年金を繰下げすればともに繰下げ増額となり手続きが必要です。また、特別支給の老齢厚生年金には「繰下げ制度」はありませんので、受給できる年齢の誕生日が来たら年金事務所で申請し受給することになります※。※ 年金の繰下げ受給(日本年金機構HP)https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/kuriage-kurisage/20140421-02.html65歳以降も働き、収入と厚生年金の受給額を増やすIさんが65歳から70歳までの5年間、厚生年金保険料を納めながら、月収15万円(ボーナスなし)で会社に勤めれば、納税額などは考慮せずに年間180万円、5年間で900万円家計の収入が増えます。この場合、老齢厚生年金の受給額は、[前掲図表2]のように報酬比例部分と経過的加算、加給年金額で計算します。Iさんが65歳からも5年間会社勤めした時、70歳以降の年金受給額はいくら増加するのでしょうか(この試算には、繰下げて受給する効果は加味していません※)。※ 令和4年4月から、65歳以上の人が在職中、毎年8月までの加入期間に応じて、毎年10月分から老齢厚生年金額が増加されます。しかし今回のケースでは、Iさんが70歳まで働いたときの年金受給額を明確にするため、従来通り70歳で退職した場合の年金額を試算することにしました。まず、報酬比例部分について試算すると、65歳で受給するより5万1,924円増加します。次に経過的加算ですが、Iさんの場合は増額されません。なぜなら、経過的加算の計算では、厚生年金の加入月数が最大480ヵ月と定められています。Iさんは[前掲図表2]のように65歳までにすでに上限に達し、65歳以降受給する月14万円の年金のなかに、月約7,315円含まれているからです。加給年金も、前頁ポイント4(老齢厚生年金と老齢基礎年金を、同時にまたは別々に繰下げ受給できる)で述べたように70歳からの受給はありません。したがってIさんの場合、70歳からの老齢厚生年金は、報酬比例部分の5万1,924円、月額4,327円増やすことができます※。※ 経過的加算とは 老齢年金ガイド令和4年度版(日本年金機構PDF)https://www.nenkin.go.jp/service/pamphlet/kyufu.files/LK03.pdf健康寿命を念頭に「年金受給」と「家計支出」を見直す誰の手助けもなく自立して健康に過ごせる「健康寿命」は、男性が約73歳、女性は約75歳です(厚生労働省2019年発表)。Iさんは、年配の親類や会社の先輩の最近の様子から、自分の人生に残された時間を実感しているそうです。Iさんは、少しでも健康寿命を延ばそうと70歳までは働くことにしました。肝心の年金受給年齢は、家計面で、60代後半以降少しでも生活費に余裕を持たせたいと考え、65歳から勤める会社の給与を念頭に、当面、「老齢基礎年金」は繰下げて70歳から受給し、「老齢厚生年金」は65歳から受給して「加給年金」も受給することにしました。こうすることで奥さんは、Iさんが68歳になったタイミングで老齢厚生年金を受給します。もしそのときまでに生活の余裕ができれば、奥さんの年金受給開始時期も繰下げる予定です。そして、Iさんが70歳を過ぎたら、奥さんの繰下げた年金から受給を始め、Iさんの老齢基礎年金はさらに加算するために繰下げます。ここは机上だけの計画で終わらないようにしたいところです。また、IさんはこれからNISA(ニーサ:少額投資非課税制度※)で、投資信託を運用しようと思っていましたが、長期的に分散投資をするには年齢的にむずかしいと断念しました。しかし奥さんは、少額で運用を試みるそうです。※ NISAとはhttps://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/about/index.htmlIさん夫婦は、相談したことによって今後の収入や年金受給額の目安がつき、家計支出の見直しや削減が容易になったとのことです。牧野 寿和牧野FP事務所合同会社代表社員
【Iさんが繰下げ加算された年金を受給するときのポイント5つ】
1. 繰下げる基準年齢は65歳2. 1ヵ月ごとに繰下げ0.7%ずつ受給額が加算される3. 繰下げ加算した年金を受給できるのは66歳から。65歳から1年間は受給できない4. 「老齢厚生年金」と「老齢基礎年金」は、同時にまたは別々に繰下げ受給できる5. 繰下げ期間中に、一括して65歳からの年金を受給できる
上記の5ポイントのうち、3~5について詳しくみていきます。
[図表3]のように、Iさんが月14万円の年金を、70歳0ヵ月から繰下げ加算して受給すると、14万円×42.0%=19万8,800円となります。繰下げ受給をすれば、この金額で生涯受給できます。75歳まで繰下げれば84.0%加算されますが、Iさんの場合には現実的ではありません。
[図表3]繰下げ加算して受給するその歳ごとの0ヵ月の増額率
加給年金や振替加算は増額の対象になりませんので注意が必要です。また、老齢厚生年金の繰下げ待機期間中(年金を受け取っていない期間)は受け取ることができません。
Iさんの場合、奥さんと3歳離れているので、加給年金は3年間で116万6,700円(38万8,900円×3)受給することができますが、70歳まで老齢厚生年金を繰下げて受給しようとすると加給年金は受給できないということになります。老齢基礎年金だけ繰下げて、老齢厚生年金は65歳から受給するということであれば、加給年金も受給できます。
Iさんが70歳まで繰下げ加算の申請をした場合、待機期間の69歳に急にまとまったお金が必要になったら、65歳からその歳までの年金を一括して受給することができます。そうした場合、その後の年金受給額は65歳の受給額になります。
ただし一括して受給する場合、その年の納税面で注意が必要な場合があります。詳しくは、所轄の税務署や市区町村役場におたずねください。
そのほか、厚生年金基金や企業年金連合会からの企業年金も、老齢厚生年金を繰下げすればともに繰下げ増額となり手続きが必要です。
また、特別支給の老齢厚生年金には「繰下げ制度」はありませんので、受給できる年齢の誕生日が来たら年金事務所で申請し受給することになります※。※ 年金の繰下げ受給(日本年金機構HP)https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/kuriage-kurisage/20140421-02.html
65歳以降も働き、収入と厚生年金の受給額を増やすIさんが65歳から70歳までの5年間、厚生年金保険料を納めながら、月収15万円(ボーナスなし)で会社に勤めれば、納税額などは考慮せずに年間180万円、5年間で900万円家計の収入が増えます。この場合、老齢厚生年金の受給額は、[前掲図表2]のように報酬比例部分と経過的加算、加給年金額で計算します。Iさんが65歳からも5年間会社勤めした時、70歳以降の年金受給額はいくら増加するのでしょうか(この試算には、繰下げて受給する効果は加味していません※)。※ 令和4年4月から、65歳以上の人が在職中、毎年8月までの加入期間に応じて、毎年10月分から老齢厚生年金額が増加されます。しかし今回のケースでは、Iさんが70歳まで働いたときの年金受給額を明確にするため、従来通り70歳で退職した場合の年金額を試算することにしました。まず、報酬比例部分について試算すると、65歳で受給するより5万1,924円増加します。次に経過的加算ですが、Iさんの場合は増額されません。なぜなら、経過的加算の計算では、厚生年金の加入月数が最大480ヵ月と定められています。Iさんは[前掲図表2]のように65歳までにすでに上限に達し、65歳以降受給する月14万円の年金のなかに、月約7,315円含まれているからです。加給年金も、前頁ポイント4(老齢厚生年金と老齢基礎年金を、同時にまたは別々に繰下げ受給できる)で述べたように70歳からの受給はありません。したがってIさんの場合、70歳からの老齢厚生年金は、報酬比例部分の5万1,924円、月額4,327円増やすことができます※。※ 経過的加算とは 老齢年金ガイド令和4年度版(日本年金機構PDF)https://www.nenkin.go.jp/service/pamphlet/kyufu.files/LK03.pdf健康寿命を念頭に「年金受給」と「家計支出」を見直す誰の手助けもなく自立して健康に過ごせる「健康寿命」は、男性が約73歳、女性は約75歳です(厚生労働省2019年発表)。Iさんは、年配の親類や会社の先輩の最近の様子から、自分の人生に残された時間を実感しているそうです。Iさんは、少しでも健康寿命を延ばそうと70歳までは働くことにしました。肝心の年金受給年齢は、家計面で、60代後半以降少しでも生活費に余裕を持たせたいと考え、65歳から勤める会社の給与を念頭に、当面、「老齢基礎年金」は繰下げて70歳から受給し、「老齢厚生年金」は65歳から受給して「加給年金」も受給することにしました。こうすることで奥さんは、Iさんが68歳になったタイミングで老齢厚生年金を受給します。もしそのときまでに生活の余裕ができれば、奥さんの年金受給開始時期も繰下げる予定です。そして、Iさんが70歳を過ぎたら、奥さんの繰下げた年金から受給を始め、Iさんの老齢基礎年金はさらに加算するために繰下げます。ここは机上だけの計画で終わらないようにしたいところです。また、IさんはこれからNISA(ニーサ:少額投資非課税制度※)で、投資信託を運用しようと思っていましたが、長期的に分散投資をするには年齢的にむずかしいと断念しました。しかし奥さんは、少額で運用を試みるそうです。※ NISAとはhttps://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/about/index.htmlIさん夫婦は、相談したことによって今後の収入や年金受給額の目安がつき、家計支出の見直しや削減が容易になったとのことです。牧野 寿和牧野FP事務所合同会社代表社員
Iさんが65歳から70歳までの5年間、厚生年金保険料を納めながら、月収15万円(ボーナスなし)で会社に勤めれば、納税額などは考慮せずに年間180万円、5年間で900万円家計の収入が増えます。
この場合、老齢厚生年金の受給額は、[前掲図表2]のように報酬比例部分と経過的加算、加給年金額で計算します。Iさんが65歳からも5年間会社勤めした時、70歳以降の年金受給額はいくら増加するのでしょうか(この試算には、繰下げて受給する効果は加味していません※)。
※ 令和4年4月から、65歳以上の人が在職中、毎年8月までの加入期間に応じて、毎年10月分から老齢厚生年金額が増加されます。しかし今回のケースでは、Iさんが70歳まで働いたときの年金受給額を明確にするため、従来通り70歳で退職した場合の年金額を試算することにしました。
まず、報酬比例部分について試算すると、65歳で受給するより5万1,924円増加します。
次に経過的加算ですが、Iさんの場合は増額されません。なぜなら、経過的加算の計算では、厚生年金の加入月数が最大480ヵ月と定められています。Iさんは[前掲図表2]のように65歳までにすでに上限に達し、65歳以降受給する月14万円の年金のなかに、月約7,315円含まれているからです。
加給年金も、前頁ポイント4(老齢厚生年金と老齢基礎年金を、同時にまたは別々に繰下げ受給できる)で述べたように70歳からの受給はありません。
したがってIさんの場合、70歳からの老齢厚生年金は、報酬比例部分の5万1,924円、月額4,327円増やすことができます※。
※ 経過的加算とは 老齢年金ガイド令和4年度版(日本年金機構PDF)https://www.nenkin.go.jp/service/pamphlet/kyufu.files/LK03.pdf
誰の手助けもなく自立して健康に過ごせる「健康寿命」は、男性が約73歳、女性は約75歳です(厚生労働省2019年発表)。Iさんは、年配の親類や会社の先輩の最近の様子から、自分の人生に残された時間を実感しているそうです。
Iさんは、少しでも健康寿命を延ばそうと70歳までは働くことにしました。
肝心の年金受給年齢は、家計面で、60代後半以降少しでも生活費に余裕を持たせたいと考え、65歳から勤める会社の給与を念頭に、当面、「老齢基礎年金」は繰下げて70歳から受給し、「老齢厚生年金」は65歳から受給して「加給年金」も受給することにしました。
こうすることで奥さんは、Iさんが68歳になったタイミングで老齢厚生年金を受給します。
もしそのときまでに生活の余裕ができれば、奥さんの年金受給開始時期も繰下げる予定です。そして、Iさんが70歳を過ぎたら、奥さんの繰下げた年金から受給を始め、Iさんの老齢基礎年金はさらに加算するために繰下げます。ここは机上だけの計画で終わらないようにしたいところです。
また、IさんはこれからNISA(ニーサ:少額投資非課税制度※)で、投資信託を運用しようと思っていましたが、長期的に分散投資をするには年齢的にむずかしいと断念しました。しかし奥さんは、少額で運用を試みるそうです。
※ NISAとはhttps://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/about/index.html
Iさん夫婦は、相談したことによって今後の収入や年金受給額の目安がつき、家計支出の見直しや削減が容易になったとのことです。
牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員