夫の部下に一目ぼれされた26歳美人主婦の不倫 “ほれられやすい女性”は果たして幸せなのか?

歴史上の人物や有名人の人生と自分自身のそれとを重ね合わせてしまう。そんな経験は多くの人におぼえがあるのではないか。数多くの家族問題の相談に乗ってきた東京家族ラボの池内ひろ美さんのもとをこの日訪れた女性もその一人。ロック・レジェンドたちのロマンスと自らの不倫との類似点を語るのだが……。【SNS時代の家族問題/第8回】
【写真を見る】結婚47年で離婚したカップルも! 「熟年離婚」した芸能人たち「不倫」ではなく「恋」という人たち 相談の現場で、コロナ禍となってからの不倫が目立つと以前書きましたが、コロナ騒動とはまったく無縁にさまざまなことが起こっています。

「年下の彼が、私のことを好きだって言ってくれて始まった『恋』だったんです」夫の部下に一目ぼれされた26歳美人主婦(※写真はイメージ) 不倫している女性たちは、それを「不倫」とは呼ばず「恋」と表現することが多いものです。 うつむいている彼女のストレートの黒髪は流れるように美しく、髪の毛をかきあげる細い指先も優雅に美しい。髪の毛の美しさは26歳という若さもありますが、丁寧に手入れされている様子です。 うつむいたまま、彼女は語ります。「彼は、私の夫が経営する小さな会社の社員なんです。コロナ禍で飲食店にたくさんの人数で集まることができなくて、自宅に社員さんたちを招いてホームパーティーを開いた時に独身の彼も来ていました。夫は、彼を含めた数人で趣味のバンドをしていて、パーティーでも3曲くらい演奏したんです。その、年下の彼が私に一目ぼれしたんですよ。素敵でしょ」 途中から顔を上げて笑顔で伝えてくれます。 たしかに彼女は美しい。整った顔立ちに切れ長の涼やかな瞳が印象的です。さらさらの長い黒髪だけでなく、伸びやかな手足も美しく、背も高い。まるで高級婦人誌の読者モデルみたいですね――うかつに私が声にしてしまうと、彼女は少し眉をひそめます。「素人の読者モデルなどではなくて、私は、独身の時はファッションモデルをしていました。事務所に所属してハイブランドのショーモデルを務めたこともありますし、CMに出たこともあります。結婚してからは、夫が、私が仕事をするのを嫌がるため専業主婦になっていますけど」 私は少し彼女のプライドを傷つけたのかもしれません。「素人の読者モデル」とは違う、モデル事務所にスカウトされ所属していたというのは彼女の誇りだったのですね。 少し口を尖らせて話すしぐさも美しく可愛らしい。 26歳という若さだけでなく、結婚していても彼女に一目ぼれする年下男性が現れるのも納得できます。 夫君との出会いはどうだったのでしょう。夫はジョージ・ハリスン「夫も、私に一目ぼれしちゃったんですよね。友人の誕生日パーティーで出会ったんですが、初対面なのに『結婚しよう』って言われて。突然そんなことを言われると笑っちゃいますよね、私が笑っていると、夫は、『結婚してくれないなら、今度食事でも行こうよ』って言って。そこから交際が始まって3カ月くらいで結婚しました」 あらら。そのエピソードは、まるでビートルズのジョージ・ハリスンと、パティ・ボイドの出会いのようですね。話を続けるうちに、ふと若い彼女相手にこんな感想を口にしてしまいました。すると――。「わかっていただけますか! ビートルズに憧れて学生時代にバンドを始めた夫は、その時、ジョージ・ハリスンになった気持ちだったんですって」 なるほど。 シャンプーの宣伝でデビューしたファッションモデルで、ジョージから一目ぼれされたパティと彼女を重ねることはできそうです。となると、夫が経営する会社に勤務している年下の彼は、ジョージより年下の友人エリック・クラプトンというところでしょうか。「それもわかってもらえますか! そうなんです。私は、エリック・クラプトンが恋をしたパティ・ボイドみたいな立場なんです」 それは見事な見立て。ロックもイギリスも大好きな私は彼女たち夫妻が共有しているであろう物語がとてもよくわかります。彼女は知らないかもしれませんが、日本にミニスカート旋風を起こしたツイッギーはパティに憧れてファッションモデルになったほど、パティは影響力の強いモデルでした。 さて、当時ビートルズの中で一番ハンサムだといわれたジョージには、パティに「結婚しないか?」と声をかけ、その言葉に笑ってしまった彼女に「結婚しないなら、今夜食事に行かないか」と言ったというエピソードがたしかに残されています。 結婚後、妻は家にいるべきと考える保守的なジョージの意見に合わせて仕事を減らしたパティは、とにかく男性からほれられやすくて、ミック・ジャガーからも言い寄られ、ジョン・レノンも彼女に引かれていたといった証言が残っているほどです。パティは彼らとは付き合わなかったようですが、後にローリング・ストーンズのメンバーとなるロン・ウッドと不倫したことなどが原因でジョージと離婚することになります。 こうなると、結婚しても男性からモテる女性というのは幸せなのかどうかわからなくなってきます。ずっと女性として見られることは幸せかもしれませんが、妻である自身の目の前の幸せから遠ざかってしまいかねません。 さて。 クラプトンを気取る年下社員男性は、彼女に対してどのように接しているのでしょう。「べつにクラプトンを気取っているわけではありませんけど、年下の彼は夫の趣味バンドのギタリスト兼ボーカルですから、もちろん『いとしのレイラ』を歌ってくれます」「いとしのレイラ」は、クラプトンがパティを想って作った曲ですが、当時、クラプトンはパティの妹と付き合っていました。妹は「いとしのレイラ」を聴いてクラプトンから姉への恋心を察して彼とは別れています。 なんだかもう、失礼を承知で言えば、かなり無茶苦茶ですね。ほれられやすい人の問題 相談来所した26歳の彼女はここまで入り組んだ関係は持っていないと思いますが、不倫はまわりの人たちを巻き込みがちです。 そもそも不倫をする人の特性として「ほれやすい」とともに「ほれられやすい」という場合もありますが、ほれられたから、モテるからと次々関係を持っていくと、どんな結婚をしていても破局を迎えてしまいます。 相談者の彼女の場合はどうでしょうか。「私は結婚して2年、今まで不倫なんてしたこともありません。2歳年下の彼は、彼の側から好き!好き!好き!って、グイグイ積極的に来るものだから、なんだか私も彼のことを好きになっていった感じです」 それは、今の夫と結婚した時と似ている感じでしょうか。「たしかに似ています。というか、私はいつも男性から好きになられて、その『パワー』に負けているのかも……」 それを「パワー」と感じられますか?「とにかく、好き!好き!好き!と言われます。男性がそこまで言うには勇気が必要でしょう? あまりにパワーが強くて、それを受け入れないといけない気持ちになってしまうんです」 結婚した後も夫君のパワーは同じだったでしょうか。「それは違います。結婚前みたいに、好き!好き!好き!とは言ってくれませんし、コロナで会社経営も大変になっているから、仕事に割く時間のほうが長くなっています。でも、だから、年下の彼から、好き!好き!好き!って言われるのもうれしかったんです」不倫の始まりには二種類ある 結婚しても一人の女性として見られるのは喜ばしいことかもしれませんが、ここで一つ苦言を呈さなければなりません。 不倫には二つの始まりかたがあります。 一つには、相手が結婚していることを知らなくて好きになってしまう。 二つ目は、既婚者だと知ったうえで好きになる。 これは、さして違いがないと思われるかもしれませんが、じつは大きな違いがあります。 まず、前者の終わりかたには2通りあります。現在のパートナーから「奪い取りたい」という気持ちになって離婚させる、あるいは離婚するのを待つという終わりかたと、結婚していることを知ったときに身を引く終わりかたです。 もちろん後者のほうが大人として正しいことですが、不倫にかぎらず、恋というのは正論だけで語ることのできないものです。その時は抑え難い恋情に突き動かされることもあるでしょう。好きになった後に障壁があることに気付いてよけい気持ちが燃え上がることもありますし、嫉妬にかられることもあるでしょう。 いずれにしても、押すにせよ引くにせよ渦中にある人は悩み苦しみます。 次に、相手が結婚していることを知っているのに好きになった場合です。 こちらに関する相談に対して、私は明確に「やめてください」と伝えるのが常です。それでやめられるのであればそれで構いませんし、やめてと伝えてもなおこの「恋」は本物だと覚悟を決めて向き合うのであれば、それもまたご本人の判断としか言いようがありません。自ら問題に向き合って判断することを促すためにも明確に伝えます。結婚は契約だと忘れないで 前提として、既婚者に恋をするという意味を考えてみましょう。 結婚という契約をしている相手に横やりを入れることになりますね。当然、それはよろしくありません。日本ではあまり意識されないことですが、結婚は立派な「契約」なのです。 ましてや今回の場合は、まったく知らない男性の妻ではなく、彼にとっては勤務先の経営者の妻です。社長の自宅へ伺って、そこで初めて会った社長の妻に一目ぼれする。一目ぼれしてしまうのはしかたのないことかもしれませんが、そこから彼女に積極的にアプローチするというのは、人として、男性として、社会人としてどうなんでしょう。 あ。 つい、私の考えを熱く語ってしまっていました。彼女は私の「パワー」に圧倒されてしまったようで、少し声が小さくなりましたが、話してくれます。「でも、だって、クラプトンだって、ジョージから奪い取ったじゃありませんか。女性にとって奪われるほど愛されるって素敵なことじゃありませんか」 彼女は、どこか受身なところがあります。26歳と若く、かつてファッションモデルをしていたほどの身長と美しさがありながら、相手のパワーに押されがちなところも見受けられます。 彼女がずっとクラプトンとジョージの例を挙げて話すため、私もそこにチャンネルを合わせて説明していくことにしました。男性に押されてゆっくりと考えてこなかった相談者 クラプトンの自伝(『エリック・クラプトン自叙伝』シンコーミュージック)には、妻パティに恋した経緯も書かれています。 本人は、「パティをどうしても手に入れたいと思った。最高級の車や偉大なキャリア、美しい妻という、僕が欲しいものをすべて手にしている男のものだったから」と振り返っています。さらに続けて、「こういう感情は昔にも覚えたことがある。僕の母親が再婚してカナダから新しい家族が来たとき、異父兄弟が持っていたおもちゃが欲しくてたまらなくなった。僕が持っているおもちゃより、高くていいものに見えたんだ。僕が、ジョージの妻であるパティに恋した一部分は、間違いなくその時の感情と似ている」と書かれています。 自らを「おもちゃ」だと言われたと思ったのか、相談者の彼女は、口を尖らせて言います。「だって、でも、クラプトンは『いとしのレイラ』っていう名曲をパティのために作ってくれているんですよ」 たしかにそうなのですが、それは、クラプトンがパティに恋してハリソンから奪い取る前の曲です。この先を話すと身も蓋もありませんが、クラプトンは稀代の名曲を捧げ、努力して手に入れたパティと結婚した後、じつは不倫しており、別の女性との間に子供をもうけています。これが歴史的事実なのです。 相談者が、大物アーティストたちのロマンスに思いをはせながらご自身の恋を語るのは自由ですが、その恋は不倫です。 不倫には代償がつきものですし、厳しい表現をすれば、相談者の彼女はパティ・ボイドではありませんし、会社経営の夫君はジョージ・ハリスンでもなければ、年下の不倫相手はエリック・クラプトンでもありません。 彼女はまだ26歳です。年下の不倫相手は24歳。 二人ともこれからの長い人生を考えることが大切です。出会って3カ月で結婚した今の夫とのこと、一目ぼれされた年下の不倫相手のこと、いずれも彼女は早く決めすぎてきたかもしれませんし、男性のパワーに押されて流されてきたかもしれません。 大切な自分自身の人生です。ゆっくり時間をかけて考えていく習慣を身に付けていきましょうね。 若い彼女にそれを丁寧に説明したのでした。池内ひろ美(いけうちひろみ)家族問題評論家。一般社団法人ガールパワー(Girl Power)代表理事。家族メンター協会代表理事。内閣府後援女性活躍推進委員会理事。1996年より「東京家族ラボ」を主宰。『とりあえず結婚するという生き方』『妻の浮気』など著書多数。デイリー新潮編集部
相談の現場で、コロナ禍となってからの不倫が目立つと以前書きましたが、コロナ騒動とはまったく無縁にさまざまなことが起こっています。
「年下の彼が、私のことを好きだって言ってくれて始まった『恋』だったんです」
不倫している女性たちは、それを「不倫」とは呼ばず「恋」と表現することが多いものです。
うつむいている彼女のストレートの黒髪は流れるように美しく、髪の毛をかきあげる細い指先も優雅に美しい。髪の毛の美しさは26歳という若さもありますが、丁寧に手入れされている様子です。
うつむいたまま、彼女は語ります。
「彼は、私の夫が経営する小さな会社の社員なんです。コロナ禍で飲食店にたくさんの人数で集まることができなくて、自宅に社員さんたちを招いてホームパーティーを開いた時に独身の彼も来ていました。夫は、彼を含めた数人で趣味のバンドをしていて、パーティーでも3曲くらい演奏したんです。その、年下の彼が私に一目ぼれしたんですよ。素敵でしょ」
途中から顔を上げて笑顔で伝えてくれます。
たしかに彼女は美しい。整った顔立ちに切れ長の涼やかな瞳が印象的です。さらさらの長い黒髪だけでなく、伸びやかな手足も美しく、背も高い。まるで高級婦人誌の読者モデルみたいですね――うかつに私が声にしてしまうと、彼女は少し眉をひそめます。
「素人の読者モデルなどではなくて、私は、独身の時はファッションモデルをしていました。事務所に所属してハイブランドのショーモデルを務めたこともありますし、CMに出たこともあります。結婚してからは、夫が、私が仕事をするのを嫌がるため専業主婦になっていますけど」
私は少し彼女のプライドを傷つけたのかもしれません。「素人の読者モデル」とは違う、モデル事務所にスカウトされ所属していたというのは彼女の誇りだったのですね。
少し口を尖らせて話すしぐさも美しく可愛らしい。
26歳という若さだけでなく、結婚していても彼女に一目ぼれする年下男性が現れるのも納得できます。
夫君との出会いはどうだったのでしょう。
「夫も、私に一目ぼれしちゃったんですよね。友人の誕生日パーティーで出会ったんですが、初対面なのに『結婚しよう』って言われて。突然そんなことを言われると笑っちゃいますよね、私が笑っていると、夫は、『結婚してくれないなら、今度食事でも行こうよ』って言って。そこから交際が始まって3カ月くらいで結婚しました」
あらら。そのエピソードは、まるでビートルズのジョージ・ハリスンと、パティ・ボイドの出会いのようですね。話を続けるうちに、ふと若い彼女相手にこんな感想を口にしてしまいました。すると――。
「わかっていただけますか! ビートルズに憧れて学生時代にバンドを始めた夫は、その時、ジョージ・ハリスンになった気持ちだったんですって」
なるほど。
シャンプーの宣伝でデビューしたファッションモデルで、ジョージから一目ぼれされたパティと彼女を重ねることはできそうです。となると、夫が経営する会社に勤務している年下の彼は、ジョージより年下の友人エリック・クラプトンというところでしょうか。
「それもわかってもらえますか! そうなんです。私は、エリック・クラプトンが恋をしたパティ・ボイドみたいな立場なんです」
それは見事な見立て。ロックもイギリスも大好きな私は彼女たち夫妻が共有しているであろう物語がとてもよくわかります。彼女は知らないかもしれませんが、日本にミニスカート旋風を起こしたツイッギーはパティに憧れてファッションモデルになったほど、パティは影響力の強いモデルでした。
さて、当時ビートルズの中で一番ハンサムだといわれたジョージには、パティに「結婚しないか?」と声をかけ、その言葉に笑ってしまった彼女に「結婚しないなら、今夜食事に行かないか」と言ったというエピソードがたしかに残されています。
結婚後、妻は家にいるべきと考える保守的なジョージの意見に合わせて仕事を減らしたパティは、とにかく男性からほれられやすくて、ミック・ジャガーからも言い寄られ、ジョン・レノンも彼女に引かれていたといった証言が残っているほどです。パティは彼らとは付き合わなかったようですが、後にローリング・ストーンズのメンバーとなるロン・ウッドと不倫したことなどが原因でジョージと離婚することになります。
こうなると、結婚しても男性からモテる女性というのは幸せなのかどうかわからなくなってきます。ずっと女性として見られることは幸せかもしれませんが、妻である自身の目の前の幸せから遠ざかってしまいかねません。
さて。
クラプトンを気取る年下社員男性は、彼女に対してどのように接しているのでしょう。
「べつにクラプトンを気取っているわけではありませんけど、年下の彼は夫の趣味バンドのギタリスト兼ボーカルですから、もちろん『いとしのレイラ』を歌ってくれます」
「いとしのレイラ」は、クラプトンがパティを想って作った曲ですが、当時、クラプトンはパティの妹と付き合っていました。妹は「いとしのレイラ」を聴いてクラプトンから姉への恋心を察して彼とは別れています。
なんだかもう、失礼を承知で言えば、かなり無茶苦茶ですね。
相談来所した26歳の彼女はここまで入り組んだ関係は持っていないと思いますが、不倫はまわりの人たちを巻き込みがちです。
そもそも不倫をする人の特性として「ほれやすい」とともに「ほれられやすい」という場合もありますが、ほれられたから、モテるからと次々関係を持っていくと、どんな結婚をしていても破局を迎えてしまいます。
相談者の彼女の場合はどうでしょうか。
「私は結婚して2年、今まで不倫なんてしたこともありません。2歳年下の彼は、彼の側から好き!好き!好き!って、グイグイ積極的に来るものだから、なんだか私も彼のことを好きになっていった感じです」
それは、今の夫と結婚した時と似ている感じでしょうか。
「たしかに似ています。というか、私はいつも男性から好きになられて、その『パワー』に負けているのかも……」
それを「パワー」と感じられますか?
「とにかく、好き!好き!好き!と言われます。男性がそこまで言うには勇気が必要でしょう? あまりにパワーが強くて、それを受け入れないといけない気持ちになってしまうんです」
結婚した後も夫君のパワーは同じだったでしょうか。
「それは違います。結婚前みたいに、好き!好き!好き!とは言ってくれませんし、コロナで会社経営も大変になっているから、仕事に割く時間のほうが長くなっています。でも、だから、年下の彼から、好き!好き!好き!って言われるのもうれしかったんです」
結婚しても一人の女性として見られるのは喜ばしいことかもしれませんが、ここで一つ苦言を呈さなければなりません。
不倫には二つの始まりかたがあります。
一つには、相手が結婚していることを知らなくて好きになってしまう。
二つ目は、既婚者だと知ったうえで好きになる。
これは、さして違いがないと思われるかもしれませんが、じつは大きな違いがあります。
まず、前者の終わりかたには2通りあります。現在のパートナーから「奪い取りたい」という気持ちになって離婚させる、あるいは離婚するのを待つという終わりかたと、結婚していることを知ったときに身を引く終わりかたです。
もちろん後者のほうが大人として正しいことですが、不倫にかぎらず、恋というのは正論だけで語ることのできないものです。その時は抑え難い恋情に突き動かされることもあるでしょう。好きになった後に障壁があることに気付いてよけい気持ちが燃え上がることもありますし、嫉妬にかられることもあるでしょう。
いずれにしても、押すにせよ引くにせよ渦中にある人は悩み苦しみます。
次に、相手が結婚していることを知っているのに好きになった場合です。
こちらに関する相談に対して、私は明確に「やめてください」と伝えるのが常です。それでやめられるのであればそれで構いませんし、やめてと伝えてもなおこの「恋」は本物だと覚悟を決めて向き合うのであれば、それもまたご本人の判断としか言いようがありません。自ら問題に向き合って判断することを促すためにも明確に伝えます。
前提として、既婚者に恋をするという意味を考えてみましょう。
結婚という契約をしている相手に横やりを入れることになりますね。当然、それはよろしくありません。日本ではあまり意識されないことですが、結婚は立派な「契約」なのです。
ましてや今回の場合は、まったく知らない男性の妻ではなく、彼にとっては勤務先の経営者の妻です。社長の自宅へ伺って、そこで初めて会った社長の妻に一目ぼれする。一目ぼれしてしまうのはしかたのないことかもしれませんが、そこから彼女に積極的にアプローチするというのは、人として、男性として、社会人としてどうなんでしょう。
あ。
つい、私の考えを熱く語ってしまっていました。彼女は私の「パワー」に圧倒されてしまったようで、少し声が小さくなりましたが、話してくれます。
「でも、だって、クラプトンだって、ジョージから奪い取ったじゃありませんか。女性にとって奪われるほど愛されるって素敵なことじゃありませんか」
彼女は、どこか受身なところがあります。26歳と若く、かつてファッションモデルをしていたほどの身長と美しさがありながら、相手のパワーに押されがちなところも見受けられます。
彼女がずっとクラプトンとジョージの例を挙げて話すため、私もそこにチャンネルを合わせて説明していくことにしました。
クラプトンの自伝(『エリック・クラプトン自叙伝』シンコーミュージック)には、妻パティに恋した経緯も書かれています。
本人は、「パティをどうしても手に入れたいと思った。最高級の車や偉大なキャリア、美しい妻という、僕が欲しいものをすべて手にしている男のものだったから」と振り返っています。さらに続けて、「こういう感情は昔にも覚えたことがある。僕の母親が再婚してカナダから新しい家族が来たとき、異父兄弟が持っていたおもちゃが欲しくてたまらなくなった。僕が持っているおもちゃより、高くていいものに見えたんだ。僕が、ジョージの妻であるパティに恋した一部分は、間違いなくその時の感情と似ている」と書かれています。
自らを「おもちゃ」だと言われたと思ったのか、相談者の彼女は、口を尖らせて言います。
「だって、でも、クラプトンは『いとしのレイラ』っていう名曲をパティのために作ってくれているんですよ」
たしかにそうなのですが、それは、クラプトンがパティに恋してハリソンから奪い取る前の曲です。この先を話すと身も蓋もありませんが、クラプトンは稀代の名曲を捧げ、努力して手に入れたパティと結婚した後、じつは不倫しており、別の女性との間に子供をもうけています。これが歴史的事実なのです。
相談者が、大物アーティストたちのロマンスに思いをはせながらご自身の恋を語るのは自由ですが、その恋は不倫です。
不倫には代償がつきものですし、厳しい表現をすれば、相談者の彼女はパティ・ボイドではありませんし、会社経営の夫君はジョージ・ハリスンでもなければ、年下の不倫相手はエリック・クラプトンでもありません。
彼女はまだ26歳です。年下の不倫相手は24歳。
二人ともこれからの長い人生を考えることが大切です。出会って3カ月で結婚した今の夫とのこと、一目ぼれされた年下の不倫相手のこと、いずれも彼女は早く決めすぎてきたかもしれませんし、男性のパワーに押されて流されてきたかもしれません。
大切な自分自身の人生です。ゆっくり時間をかけて考えていく習慣を身に付けていきましょうね。
若い彼女にそれを丁寧に説明したのでした。
池内ひろ美(いけうちひろみ)家族問題評論家。一般社団法人ガールパワー(Girl Power)代表理事。家族メンター協会代表理事。内閣府後援女性活躍推進委員会理事。1996年より「東京家族ラボ」を主宰。『とりあえず結婚するという生き方』『妻の浮気』など著書多数。
デイリー新潮編集部