コロナ禍の寂しさにつけ込む国際ロマンス詐欺、被害女性「時間かけて気持ち揺さぶる」

SNSで知り合った外国人と恋愛関係になり、金銭をだまし取られる「国際ロマンス詐欺」。
コロナ禍で被害が全国的に増える中で、金銭詐欺に遭うだけでなく、違法薬物の運び役をさせられる事例が起きている。千葉地裁では10月、ロマンス詐欺に遭った末、コカインの密輸に加担させられた女に実刑判決が下された。識者は「SNSでお金を要求されたら詐欺」と注意を促している。(鶴田瑛子)
■プロポーズされ
アメリカ人を名乗る男から結婚を申し込まれ、「ハニー」と呼び合っていた東京都の会社役員の女(59)が10月6日、千葉地裁で懲役6年、罰金200万円の判決を受けた。アラブ首長国連邦(UAE)のドバイから、成田空港にコカイン約2キロ・グラム(末端価格約4000万円)を密輸入した麻薬取締法違反と関税法違反だった。
女が、石油を採掘しているという自称アメリカ人と知り合ったのは昨年6月頃、マッチングアプリを通してだった。数か月間、連絡を取り合い、会ったこともないのにプロポーズされ、承諾。やがて金銭を要求され、計1000万円以上を仮想通貨などで送金した。
結婚の申し込みから半年後、男から会社の用事を頼まれ、渡ったのがドバイだった。現地のホテルで、見知らぬ外国人から分厚い本を手渡される。見た目が不自然だった。「違法薬物に違いない」と直感したが、男にメールで言いくるめられ、成田空港まで運んだ。
女は、約20年前に夫と離婚し、1人娘とも別居。がんを患い、将来への不安を募らせていた。女は公判で涙ながらに語った。「大変なことをしてしまった。残りの人生はきちんと歩みたい」
■贈り物に覚醒剤
SNSで外国人とメッセージを交換するうちに、違法薬物の密輸に携わる事例は、他にも起きている。
捜査関係者によると、関東地方の男性宅に今年、SNSで知り合った外国人女性から、巨大な銅像が贈り物として送られてきた。県警が不審物として捜査すると、銅像の中から出てきたのは、覚醒剤だった。
後に、この家には、外国人が銅像を取りに来た。千葉県警幹部は「中身が違法薬物だという認識があれば罪に問われる可能性もある」と指摘する。
■出会い少なく
ロマンス詐欺は、コロナ禍で増加している。感染拡大で外に自由に出歩けず、出会いは少なくなっている。出会いを求めてネットに依存した人が被害に遭っているとみられる。
国民生活センターによると、ロマンス詐欺に関する相談件数は2019年度、5件だったが、20年度は84件に増加。21年度は192件に上り、コロナ禍前の約40倍に上った。
ロマンス詐欺の被害者支援にあたるジャーナリストの新川てるえさん(58)によると、被害者は恋愛感情を持っているため、家族ら身近な人から詐欺だと言われても、否定してしまうという。新川さんは「詐欺師は、人の寂しさにつけ込むのがうまい。SNSでお金の話が出てきたら詐欺と疑うのが大事だ」と指摘している。
■じっくり揺さぶる
なぜ被害に遭ってしまうのか。これまでに国際ロマンス詐欺に数度遭い、計1500万円をだまし取られたという盛岡市の会社員女性(51)は取材に対し、「詐欺師はじっくり時間をかけて気持ちを揺さぶる」と手口を語る。
女性には今年8月、見知らぬ外国人の男から「あなたの投稿に好感を持った」「友達になりたい」とSNSで連絡が来た。男の投稿には普段の生活ぶりが分かる写真が並び、詐欺師とは疑わなかった。
「おいしいご飯を食べなよ」と5万円が送られ、「一緒に旅行しよう」と誘われた。甘い言葉を立て続けにささやかれて好意を抱いた。2人の旅行や車のためにと投資を誘われ、計約260万円を送金した後、連絡が途絶えた。
女性はこれまでに、ロマンス詐欺に2度遭ったが、「巧妙化していて詐欺とは分からなかった」と振り返る。IT企業に勤める女性は今、「自分と同じような被害者を出したくない」と、AI(人工知能)を使い、詐欺を見抜くアプリの開発を計画している。