「国家、国民に尽くす思いで、この先臨みたい」
7月28日、参院選大敗を受けた自民党の両院議員懇談会では、石破茂首相に対する退陣要求が噴出した。だが、首相は日米関税交渉への対応などを念頭に、政治空白を生まないためとして、冒頭のように続投の意思を強く示した。
一方、森山裕幹事長は、8月中にもまとめる参院選の総括を踏まえ、「幹事長としての責任を明らかにする」と引責辞任する意向を示唆した。首相の右腕といわれる幹事長が辞任するとしたら、それは石破政権を根底から揺るがす事態にもなる。
「森山さんが辞めるってことは、石破政権が終わるということですよ」。こう語るのは、元朝日新聞政治部デスクの鮫島浩氏だ。
「石破政権は、森山幹事長に支えられてきました。野党に強いパイプを持つ森山幹事長あってこそ、この少数与党国会は回ってきたんです。だから森山氏は“影の総理”といわれるくらい、力があったわけですよ。その森山幹事長が辞めたら、石破政権は『ジ・エンド』。森山氏が辞めたら、たとえ石破政権が続いたとしても、その後の幹事長候補なんか党内に見当たりません」(以下、「」内は鮫島氏)
一部報道では、石破首相の続投を前提に、森山氏の後任として小泉進次郎農相の名が急浮上しているという。だが、鮫島氏はこれを言下に否定する。
「それはありえません。この少数与党国会を切り回せる人なんて、自民党のなかにはいないんですよ。進次郎氏にしても、野党に人脈があるわけではないし、森山氏のように、あの手この手を使って野党と交渉する老練さもないですからね。それに今後、石破首相と一緒に“沈没”していく役割は誰も受けたがらないでしょう。進次郎氏も同じです」
そもそも、森山幹事長は本当に辞任するのか。そして石破首相は総理の座に居座り続けられるのか。「もう勝負はついている」と鮫島氏は言う。
「森山氏は28日の懇談会に先立ち、首相経験者の麻生太郎、菅義偉、岸田文雄各氏にそれぞれ面会していますが、ここで参院選敗北の責任を取って辞めると伝えたはずです。森山氏が辞任するということは石破首相も事実上、退任するということだから、麻生氏らもそれで納得して、その後は石破おろしの動きを控えるようになりました。もちろん、石破首相も、8月末の総括委員会の報告書が出たら辞任することで納得しています。9月に総裁選を前倒しして実施し、石破首相は不出馬という形で退陣することになるでしょう」
石破首相が続投にこだわるのは、8月15日までは総理の座にいたいという強い思いがあるからだという。
「石破首相の悲願は『戦後80年談話』の発表と言われています。70年談話は安倍晋三元首相が出しましたが、戦後を総括し、謝罪外交に終止符を打つという内容でした。安倍氏との対立で知られた石破首相としては、70年談話を覆すような80年談話を発表するのではないか、と見られている。つまり、終戦記念日の8月15日まで首相でいれば、この談話を発表できますから、石破首相としてはこの日までは続投したいところでしょう」
7月31日、自民党は参院選敗北を分析する「総括委員会」の初会合を開き、8月中に報告書をまとめる方針を確認した。委員長は森山幹事長だ。
「森山幹事長が『8月中』としたのは、要するに『総括委員会の報告書提出をもって、責任を取って幹事長を辞めます』ということでしょう。逆に言えば、それまでは石破政権を存続させたいということであり、石破首相悲願の80年談話の発表までは政権をもたせたいということなのでしょう」
旧安倍派としては、安倍元首相が出した70年談話を守りたいところだが、石破首相は80年談話を出したい――。双方の思惑の攻防を“石破勝利”で終わらせるため、森山幹事長が一役買ったということなのかもしれない。だが、仮に“勝利”を収めたとしても、その後には総理の座を失う運命が待っている。