中国発のアートトイブランド「POP MART(ポップマート)」のキャラクター「LABUBU(ラブブ)」の人気が日本でも日に日に高まっている。
【ヤバすぎ!!】外国人が日本で爆買いする「謎の中国フィギュア」、「ラブブ詐欺」被害者と、詐欺師のMessenger上のやりとりなどを一気に見る
大学生だった中国人起業家の王寧氏が2010年に創業したポップマートは、2016年に青い瞳と唇を尖らせた表情が印象的な「MOLLY」シリーズのヒットで注目を集めると、じわじわと成長を遂げ、今では世界30以上の国と地域で店舗を展開するまでに規模を拡大している。
日本国内でも東京と大阪を中心に10店舗を展開し、5月には越谷レイクタウン、6月末には成田空港第2ターミナルに店舗をオープンするなど、勢いが止まらない。今や時価総額は6兆円を超えるとされ「サンリオ超え」でも話題になった。
一方で、加熱した人気が「転売」などの温床にもなっており、問題化している。
人気の一方、転売などが問題化しているポップマート(POP MART JAPAN公式インスタグラムより引用)
近年、ポップマートの急速な成長をけん引するのは、ウサギのような耳と9つの牙が特徴的なラブブだ。香港出身のイラストレーターである龍家昇氏が生み出したラブブは、エルフの女の子という設定。
『THE MONSTERS』という絵本シリーズのキャラクターで、ラブブの他には、ラブブと似た見た目ながらも尻尾のある「Zimomo(ジモモ)」や、まつ毛が特徴的な「Mokoko(モココ)」なども登場する。
それにしても、ラブブを中心にポップマートはなぜこれほど多くの人々を魅了しているのか。
理由の一つとして、ラブブを始めとする多くの人気アイテムを中身の見えない“ブラインド形式”で販売している点が挙げられる。
日本のカプセルトイに似た販売方式は、ユーザーにとって「何が当たるか分からない」というドキドキ感や好奇心、そしてコレクション意欲を高めることにつながる。商品の中には色違いのシークレットもあり、ただでさえ入手が難しいアイテム群の希少性をさらに高めている。
さらに特筆すべきなのは、ラブブをはじめとする自社保有のIPに加えて『鬼滅の刃』『クレヨンしんちゃん』、さらにディズニーといった日本でも人気の高い他社IPを使って商品を展開している点だ。既に多くのファンを抱えるIPをラインアップに加えることで、収益は安定しやすくなり、かつ接点拡大によって自社IPの認知拡大や魅力に触れてもらう動線作りに成功している。
SNSを使ったマーケティング戦略も、ポップマートの強みだろう。ラブブの火付け役となったBLACKPINKのLISAや、元サッカー選手のデビッド・ベッカムなどのセレブリティが、ポップマートのアイテムを愛用していることを知ったファンが、こぞって買い求めるようになり、人気が加速していった。
かつて「中国製」と聞くと、品質面の不安を感じる人も多かったはず。今でもその国名を聞くだけでアレルギーを示したり、下に見たりする向きも一部に見られるが、ポップマートの製品は細部に至るまで丁寧に作りが施されており、カラフルな色使いも印象的で「中国らしさ」はあまり感じない。数々の人気キャラクターを模倣し、嘲笑されたかつての姿を微塵も感じさせない製品に仕上がっている。
ブームの火付け役でもあるBLACKPINK・LISAの母国タイでは、2024年の春頃から国民的スターに憧れる層を中心にラブブが爆発的な人気となっている。同7月には、ラブブがタイ国政府観光庁(TAT)の「アメージング・タイランド・エクスペリエンス・エクスプローラー」に任命された。この称号が特定のキャラクターに与えられたのは、初である。同時期にタイ限定のラブブ(1000バーツ=約4650円)の発売も決定し、ラブブ人気にあやかって、中国を始めとする海外からの観光客誘致の役割を担っているという。
ラブブが大ブレイクする裏で日に日に深刻化しているのが、転売や品質の劣る模倣品の販売、さらには多発する詐欺被害だ。
例えば、タイでは日本のようなオークションサイトを使った個人間の取引売買が主流ではないため、商品の取引にはFacebookのMessengerを用いることが多い。ただ、もともとが商取引用のプラットフォームではないことから、安心した取引やトラブルが起きた場合の補償を受けられるような仕組みがなく、さまざまな犯罪の温床になっている。
今は日本に住み、埼玉県の企業で働くタイ人女性のSasameさん(仮名)も、Messengerで詐欺被害を受けた一人だ。日本のポップマート店舗でラブブを買おうと列に並んでいたものの、中国人グループに割り込まれて買えなかったことに落ち込み、やむを得ずラブブを譲り受けることに決めたというが…。
「私の探していたラブブを譲ってくれる方をFacebookで見つけたので、その方にメッセージを送ると、すぐに『タイ国内の銀行口座に振り込んで欲しい』という連絡があって、1119バーツ(約4934円)を振り込みました。でも、その後はなかなか連絡がなく…。よくよく調べると、やり取りしていた相手が同じようなことを繰り返している詐欺師だと分かりました」
彼女に限らず、タイ国内ではラブブ人気に便乗した犯罪がかなり横行しているという。平均月収が日本円で10万円ほどとされるタイ人にとって、ラブブは値の張るアイテムだが、熱狂的なファンにとっては「詐欺のリスクを負ってでも欲しい」と思えてしまうほどの愛くるしい存在なのかもしれない。
これまでアジア圏が中心だったラブブ・ポップマートの人気は、欧米にも広がりつつある。ラブブ争奪戦の過激さが増すにつれ、問題も起きている。この5月には、英国ロンドンの店舗でラブブを買い求める顧客による喧嘩が相次ぎ、店頭での販売を停止する事態に発展した。
日本でも2024年末に「Yahoo!検索大賞2024 ネクストブレイク商品部門」にラブブが選出され、春ごろからニュースなどで見る機会も増えてきた。国内でも注目を集める中で懸念されるのが、やはり大量の商品買い占めや、高額転売といったトラブルだ。実は国内でも、2024年ごろからひそかに問題化していた。
新製品の発売日になると、都内の繁華街にある店舗の前には早朝から大きな袋を抱えた人による長蛇の列ができることがほとんど。筆者が訪れた日には、中国や東南アジア系の人が9割以上を占め、さまざまな言語が聞かれるその光景は、まるで海外にいるかのようだ。話を聞くと、日本在住の外国人が自国で買えない家族や友人のために代理で“爆買い”するケースも見られるが、転売の収益を得ようとする者も少なくない。
店側もラブブなどの人気商品を発売する際には、整理券の配布や購入時に身分証の提示を求めるといった対策を行っているが、混雑した店内では、抽選販売のことを知らない外国人が「自分だけが売ってもらえない」と激怒し、店員を激しくまくしたてる場面も見られた。混沌とする店内を見ると、文化の異なる顧客に対し、ルールを訴えることの難しさを感じずにはいられなかった。
ここ数カ月間で、ラブブ人気に乗じて転売を目論む日本人の転売ヤーも増加傾向にある。春先までは穏やかだった、LINE上のポップマートファンのコミュニティも、殺伐とした雰囲気が漂い始めている。中には「欲しけりゃその分努力する! これは当たり前のことだと思っています」「努力できない人間はラブブを愛せない」など、転売を正当化するユーザーも目立つ。外国人の爆買いだけでなく、日本人まで巻き込み始めたポップさのカケラもない“ラブブ狂騒曲”は、どこまで続くのか。
(白鳥 純一)