〈「10万振り込みます、と言ってくれる人も多い」特殊詐欺リーダーで懲役5年→“私人逮捕系YouTuber”になった男性が明かす収入事情〉から続く
痴漢や盗撮などをしたとみられる一般人を問い詰めたり取り押さえたりする“私人逮捕系YouTuber”。常に賛否両論が付きまとう彼らだが、中には警察から“感謝”されることもあるという。
【変わりすぎ!!】特殊詐欺グループのリーダー→私人逮捕系YouTuberに男性の変化を写真で見る
実際に、横浜駅での活動を通して盗撮事件が減ったことで警察から一目置かれているというYouTubeチャンネル「スーパードミネーターリキ」のメンバーは、盗撮犯にはいくつもの行動パターンがあると話す。肥沼和之氏による新著『炎上系ユーチューバー 過激動画が生み出すカネと信者』から一部抜粋し、お届けする。(全3回の3回目/最初から読む)
私人逮捕系YouTuberが明かす、盗撮犯たちの手口 akiyoko74/イメージマート
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最後に話を聞いたのが、スーパードミネーターのY氏、S氏の2名。撮影を担当するカメラマンも同席した(※2025年6月現在、Y・S両氏は脱退し、チャンネルは「スーパードミネーターリキ」として活動)。彼らは横浜駅を拠点に、主に盗撮犯の私人逮捕を行っており、チャンネル登録者数は15万人を超える。
YouTubeを始めたのは2023年2月。当時、まだ誰もやっていないコンテンツを出していこうと、カメラマンの発案で盗撮犯の私人逮捕を行うことにした。チャンネルの目的は、盗撮の手口や実態を広めると同時に、自分たちの存在が盗撮犯の抑止力となり、少しでも被害者を減らすこと。活動内容として、ばらつきはあるものの、朝から夜まで横浜駅周辺をパトロールしている。
最も多かったときは1日20km、週6日歩きずくめだったという。そして怪しい動きをする人がいたらマークし、女性のスカートにカメラを入れるなど、盗撮の現行犯を確認したら、取り押さえて警察に引き渡している。
活動の目的について、Y氏とS氏はこう説明する。
Y氏「『痴漢や盗撮がどれぐらい起こっているのか?』『どういうやり口なのか』っていうのは、あまり知られていないことだったんです。注意喚起するために、動画投稿したって感じですね。盗撮を撲滅することはできないけど、ゼロに近づけることはできるなっていうのが本音で、活動の目的として念頭に置いていますね」
S氏「動画にすることによって、どの駅は盗撮が多いのかって女の子が気づけます。(盗撮防止のために)エスカレーターに乗るときにスカートを押さえたり、横を向いたりできる、っていうのもありますね」
確かに警察が、「今年はどこで痴漢が何件あった」と数字で発表しても、なかなかピンとこないのが正直なところだろう。実際に、Y氏たちから盗撮に関する話を聞き、筆者は衝撃を受けた。
日本は「盗撮大国」と呼ばれているほど、先進国のなかで盗撮が盛んだという。女の子の下着と顔を撮影したものをセットにしてネット上で販売したり、盗撮マニア同士で交換したりされている。盗撮に使われるカメラは、レンズが針の穴のように小型で高画質なものもあり、ネットショップで数千円で売られている。こういった実態を聞き、一気に盗撮という行為に対するおぞましさが湧きあがってきた。
そういえば、女性が入浴する露天風呂を遠方から盗撮していた一味や、客のふりをした女性が洗面用具にカメラを隠し、女風呂を盗撮していたニュースがあったことを思い出した。
スポーツ大会に出場する女性アスリートや、チアリーダーなどを撮影する人たちも問題になっていた。Y氏たちから詳しく話を聞いたことで、盗撮問題を対岸の火事としてではなく、現実的に起こっている性犯罪だと実感できたのは紛れもない事実だ。
フナイム氏は犯罪撲滅や人の役に立つことが第一で、目先の収益のことは意識していないと話していたが、スーパードミネーターも同じスタンスだという。
Y氏「演者として表に出ている以上、有名になりたいっていうのは正直あります。けれどお金に関しては、一山当てたいとかはない。この活動で稼げているのはギリギリ生活費ぐらいなんですよ。
見合っていないっていうのが正直な感想で。でも、何があっても止めないって言ってるんですよ。収益がゼロでも、ボランティアだろうが何だろうが、ほかで頑張って稼ぎます」
ただ、ギリギリとはいえ、YouTubeの広告収入のみで何とか生活費を捻出できているからこそ、活動に打ち込めている。彼らにとってはそれが最も重要だという。あくまで盗撮撲滅が第一。お金持ちになりたい、贅沢をしたい、などという気持ちはさらさらないという。
けれど、やはり疑問は残る。なぜわざわざ、そこまでして活動に打ち込むのか?
私人逮捕には「ケガをする」「ケガをさせる」「冤罪で逮捕してしまう」などのリスクのほか、同業者が相次いで逮捕されていることもあり、世間からの逆風もある。なぜ、あえてこの活動を続けるのだろうか。
その背景には、「世直し」「正義」などの強い感情があるのだろうか? 尋ねると、Y氏もS氏も笑って否定した。
Y氏「僕はないんですよ。自分が楽しくて、世のなかも良くなるのだったらそれがいいよね、っていうところを突き詰めていった結果、これになっているってだけなので」
S氏「ないっす。普通に盗撮犯が嫌いなだけなんで、ひとりでも多く捕まえてって感じですね。(盗撮犯は)卑怯な手口で撮るわけじゃないですか? 気持ち悪いんで。それが嫌いっす」
でも、それでいいと思っている、とY氏は続ける。なぜなら、YouTubeはかつて、キャッチコピーで「好きなことで、生きていく」と掲げ、自己実現したユーチューバーたちを紹介していた。スーパードミネーターも、正義うんぬんではなく、自分たちが面白いと思うこと、したいことを全力で動画にしているだけなのだ。
思いは理解できた。ただ、盗撮撲滅という目的に対し、パトロールをして現場を見つけたら私人逮捕をするというやり方だと、さまざまなリスクが生じる。違う方法、例えば「盗撮をするな」「人生を棒に振るぞ」と書いたプラカードを持って、駅構内を徘徊するなどのほうが平和的ではないのだろうか。
聞くと、Y氏は即座に首を振った。
Y氏「その場での抑止にはなるかもしれないんですけど、盗撮犯は駅を変えて、時間を変えてやるんですよ。だからこそ、スーパードミネーターが横浜駅で盗撮犯を捕まえているのを動画にすることによって、少なくとも横浜では起こらないんですよ」
盗撮をした人が捕まる場面を見せるのが大事だと思っている、とY氏は続ける。自分たちのような見回り役がいるとわかれば、横浜駅に盗撮犯は来なくなる。ゆくゆくはメンバーをもっと増やし、ほかの駅でも展開していくことで、最終的に盗撮そのものを減らしたいのだという。
実際に、横浜駅の前に活動拠点にしていた駅では、スーパードミネーターの存在が抑止力になったそうで、管轄の警察署の刑事から「盗撮がめちゃくちゃ減っている」「(盗撮犯が減って)もう全然捕まえられなくなっている」と言われたのだそう。警察からすると、公式に「ありがとう」「助かっている」などとは立場的に言えないだろうが、舞台裏では確かにこのようなやり取りがあるのだと彼らは明かした。
(肥沼 和之/Webオリジナル(外部転載))