生活音めぐるクレーム→「訴える」に発展 厄介な騒音トラブル、弁護士は「身の危険あれば110番を」

マンションやアパートなど集合住宅で起こる騒音問題。引っ越しを余儀なくされたり、刑事事件に発展したりするなど深刻な問題です。弁護士ドットコムにも多数の相談が寄せられています。
ある相談者は、マンションの階下住人から、日常の生活音を理由に「裁判で訴える」と恫喝されているそうです。「トイレやお風呂の音、話し声、日中の足音がうるさいと怒鳴り込まれた」といいますが、相談者には身に覚えがありません。
指摘されたものは生活音であり、そもそも「日中は、家族全員が外出しているため、私の家の音ではない」と伝えたが、聞き入れてくれないそうです。念のため、騒音対策としてパズル型のマットを部屋や廊下に敷き詰めるなどの対策をとりましたが、相手は納得しません。
度々怒鳴り込まれたり、裁判で訴えるなどと言われたりして「恫喝されて怖いです」(相談者)。このような場合、どのように対処するべきなのでしょうか。不動産トラブルに詳しい山之内桂弁護士に聞きました。
──日常の生活の音も、「騒音」として評価されますか
はい、なり得ます。ポイントは「お互いに我慢すべき限度(受忍限度)」を超えているかどうかです。
日常生活で出る音には、「お互い様」として我慢すべき音と、そうでない音があります。
例えば、以下のように分類できます。
<我慢すべき音(セーフになりやすい)>・トイレやお風呂の水の音・日中の普通の話し声やテレビの音・掃除、洗濯、料理などの家事の音・子どもの足音(日中、常識の範囲内)
<騒音と判断されやすい音(アウトになりやすい)>・深夜や早朝に響き渡る音楽やテレビの大音量・わざと物を叩きつけたり、床を鳴らしたりするような衝撃音
特に日中(朝7時~夜10時頃)の音は、よほどのことがない限り「生活音」として許容されることが多いです。
──本件では、裁判に訴えられた場合、相談者が敗訴する可能性はありますか
きちんと対策や証拠を示せれば、負ける可能性は低いです。
まず、「訴えてやる!」と感情的に言う人ほど、実際には裁判を起こさないことが多いです。裁判に大変な手間とお金がかかることを知らない場合が多いからです。
しかし、万が一、裁判所から「特別送達」という特別な手紙で「訴状」が届いたら、絶対に無視してはいけません。必ず期限までに「答弁書(あなたの言い分を伝える反論書)」を提出しましょう。
裁判所は、音の種類や大きさ、時間帯、あなたの対策などを総合的に見て判断します。今回のケースでは、
・相手がうるさいと言う時間帯、あなたは外出していたこと・防音マットを敷くなど、音への配慮をしていたこと
これらは、あなたにとって有利な事実です。会社のタイムカードやスマホの位置情報ログなど、客観的な証拠で「その時間、家にいなかった」と証明できれば、責任を問われるリスクは低いでしょう。

──相手の行為について法的責任を問うこともできるのでしょうか
相手の行き過ぎた行為は、単なる「文句」では済まない、つまり刑事責任を問われるケースもあるでしょう。
例えば次のようなケースが考えられます。
・「ただじゃおかないぞ」などと脅す → 脅迫罪・無理やり土下座や謝罪をさせる → 強要罪・勝手に家に上がり込み、退去を拒む → 住居侵入罪
犯罪に発展する可能性がある場合には警察に相談する、被害届を提出するなどの対応が必要です。それらの事実があった場合、相手は刑罰を受ける可能性があります。
また、どなり込みなどで精神的な苦痛を受けた場合、その慰謝料を請求できることがあります。
いずれにしろ、大切なのは「証拠」です。身の安全を第一に考えつつ、スマホや防犯カメラの録音・録画機能で記録を残しましょう。インターホンの録画も有力な証拠になります。
もし身に危険を感じたら、ためらわずに110番通報してください。警察官が来てくれたら、その場の危険を回避でき、公的な記録にも残ります。
──本件のようなケースで、相談者が平穏な生活を取り戻すためには、自分が引越しするしかないのでしょうか
隣人トラブルのように一度感情がこじれると、誰かが快刀乱麻の手腕を振るって一件落着!とは、なかなかいかないのが現実です。段階を踏んで解決を目指し、どうしても解決に至らないときは、転居も最終解決の一つです。
まずは、マンションの管理組合や管理会社、役所の相談窓口など、中立な立場の人に間に入ってもらうのが穏便な第一歩です。
裁判よりも簡易で低コストな「民間調停」「民事調停」などの話し合いの場を利用する方法もあります。専門家が間に入ることで、冷静な話し合いが期待できます。
感情的な対立から一度離れて、「建物の音を防ぐ性能」という技術的な問題として捉え直すのも手です。専門家に調査を依頼し、もし建物に原因があれば、管理組合等を巻き込んで対策を考えることができます。
裁判による迷惑行為の差止や損害賠償請求は、時間・お金・心の負担が非常に大きい最後の手段です。
どの方法を選ぶかは、あなた自身がどこまでリスク・コストを許容できるかによります。まずは自分と相手の言動の証拠をしっかり確保して身の安全を図りつつ、負担の少ない方法から試してみてください。
【取材協力弁護士】山之内 桂(やまのうち・かつら)弁護士1969年生まれ。宮崎県出身。早稲田大学法学部卒。司法修習50期、JELF(日本環境法律家連盟)正会員。大阪医療問題研究会会員。医療事故情報センター正会員。事務所名:梅新東法律事務所事務所URL:https://www.uhl.jp