【 南 和行】ADHDの大人の「中身が散らかったバッグ」に共通していること…「荷物が多い」のに必要なものが見つからない「原因」

バッグの中がごちゃごちゃしている人、あなたの周りにもいませんか?
それとも、自分のバッグがいつもパンパンで、必要な物がすぐに見つからず、イライラした経験はありませんか?
バッグの中が整理できない状態は、実は発達障害の一種であるADHD(注意欠如・多動症)に関連していることがあります。
ADHD専門のカウンセリングルーム「すのわ」代表であり、臨床心理士・公認心理師の南和行さんが、ADHDの方に多く見られる「バッグの中が片付かない」問題の背景と、その具体的な対処法について解説します。
ADHDは、不注意・集中力の持続困難・衝動性などの特性を持つ発達障害です。
この特性が日常の整理整頓やモノの管理に影響を及ぼし、「バッグの中を整える」というごく当たり前の行為さえ、実はとても難しく感じられることがあります。
実際にカウンセリングの現場でも、「バッグの中がごちゃごちゃしていて、探し物ばかりしている」「必要な時に必要なものが見つからない」という悩みは、ADHDの方から非常によく聞かれる問題です。 その中で話される悩みを元に、典型的な架空の事例を紹介し、それに関連するADHDの特性について解説します。その特性に応じた軽減策も紹介します。
~バッグで毎朝つまずいていた 32歳・営業職・一人暮らしの恵さんのケース~
恵さん(32歳)は営業職として働くキャリアウーマン。ADHDの特性を持ちつつも、明るく社交的で、職場の人間関係にも恵まれていました。
けれど、毎朝の「バッグ問題」が、いつも彼女の一日を台無しにしていました。
「行ってきます」と家を出ようとして、ふと足が止まる。
「あれ、今日提出の資料は…?」「リップと鍵も見つからない」
バッグを開けて探そうとするものの、パンパンに詰まった中身からは、目当てのものがなかなか見つかりません。
昨日買ったばかりのリップは行方不明。鍵も見当たらず、バッグをひっかき回してようやく見つけるころには、書類も気持ちもぐちゃぐちゃに。
気づけば時間が過ぎていて、また遅刻――そんな朝を何度も繰り返していました。
恵さんのバッグの中身をのぞいてみると、こんな状態でした。
・経費用のレシート、ガムの包み紙、メモ、名刺が混在
・食べかけのプロテインバー、賞味期限切れのお菓子
・使いかけのリップが3本 、書けないペン含め3本
・いろいろな薬が散らばっている
・残量ゼロのモバイルバッテリーが2つ
・しわくちゃの替えマスク
・イヤホン、充電コードが絡まり合っている
・請求書が奥でぐしゃぐしゃに
ADHD傾向のある恵さんにとって、「バッグを片付ける」という作業は、いつも後回しになりがち。
「とりあえずここに入れておこう」と物を詰め込み、「また今度整理しよう」と思ってそのままにする――その繰り返しでした。
次第に恵さんは、こんなふうに感じるようになります。
「また忘れ物した。私って本当にダメだな…」
「大人なのに整理もできない自分が恥ずかしい…」
バッグの中が混乱しているだけで、自信や自己肯定感がじわじわと削られていく。そんな日々の小さなストレスが、知らないうちに心をすり減らしていたのです。
バッグの中が片付かない背景には、ADHD特有の以下のような特性が関係しています。
?見えないモノは意識から無くなってしまう
ADHDの方は「視覚的な手がかり」に強く影響されやすく、目の前から消えたモノの存在を忘れてしまうことがあります。
?見通しの立てにくさ
一日の予定や行動の見通しが立てづらく、「あれもこれも必要かも」と思ってしまう。その結果、何が本当に必要なのか判断がつかず、「とりあえず全部入れておこう」となってしまう。
?物の配置が固定できない
バッグの中で物の“定位置”が決まらない、決めても面倒で元に戻せない。そのため毎回入れる場所がバラバラになり、どこに何があるのか分からなくなる。
?先延ばしグセ
「あとで整理しよう」と思っても、それが繰り返されてしまい、結局バッグの中が片付かないままになる。
?気が散りやすい
バッグの整理を始めても、途中で他のことに気がそれてしまい、最後まで片付けを終えられないことが多い。
そんな恵さんに転機が訪れたのは、カウンセリングで「バッグの使い方」について見直すことを勧められた時でした。
・見えないモノは意識から消える
・ポケットが少ないと混乱する
・つい詰め込みすぎてしまう
こうした自分の特性を踏まえ、仕切りが多く、ポケットの中身が見えやすく、モノの“定位置”を決めやすいバッグを新たに購入しました
そして「文房具」「化粧品」「ガジェット」「イヤフォン」などカテゴリ別にラベルをポケットに張って整理したことで、探し物のストレスが激減したのです。
「バッグが変わるだけで、朝の準備がこんなにスムーズになるなんて!」
「探す時間が減って、心にも余裕ができました」
今では夜に、物を定位置に戻してバッグの中を“リセット”するのがちょっとした習慣になっています。
バッグの中がごちゃごちゃしていると、頭の中や感情も整理されにくくなるものです。
「あれ、鍵どこ?」
「財布が見つからない、レシートぐちゃぐちゃ」
「大事な書類がすぐ出てこない」
こうした小さなイライラは、自尊心ややる気を削るだけでなく、自己否定感にもつながっていきます。
バッグの中で「物が見つからない」状態は、人生で「選択肢が見えない」状態とどこか似ているのかもしれません。
入れたはずのものがない、必要なものがすぐに取り出せずイライラ…「ADHDの大人」が片付けやすいバッグの「特徴」