ウォーキングだけでは「ヨボヨボ老人」になる…「寝たきり老後」を回避する”自宅でできる”3つの運動

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※本稿は、上村理絵『こうして、人は老いていく 衰えていく体との上手なつきあい方』(アスコム)の一部を再編集したものです。
「肉体的な老化」の終着点が寝たきりです。
2020年の介護保険事業状況報告(厚生労働省)によると、施設に入所している寝たきりの方は300万人以上。自宅などで寝たきりになっている人を含めれば、その数はさらに増えるといわれています。
実は、このような国は珍しく、少し昔のデータにはなりますが、介護施設の利用者の80歳以上の寝たきり率は、介護制度が充実している北欧の国スウェーデンに比べ9.7倍、アメリカと比べても6.3倍。非常に高くなっています。
寝たきりになれば、人生を楽しめることが極端に減ってしまいます。
だからこそ、寝たきりになる人を1人でも多く減らすのと同時に、その期間をできるだけ短くしたいという思いを持って、私たちは活動をしています。
では、なぜ、日本では寝たきりの人がこれほど多いのでしょうか。それは寝たきりに対するあきらめの文化が根付いてしまっているからというのが、私の考えです。
「年が年だから、寝たきりになるのも、しようがないよね」
私たちの施設のご利用者やそのご家族ではなく、特にケアマネジャー(介護保険を導入した際、介護プランなどを立ててくれる専門家)から、こんな言葉をよく聞きます。
そこで、私は必ずこう言うのです。
「いや、いや、いや。そんなことはないですよ。90歳の方でも、ある程度の負荷をかけて、ちゃんとトレーニングをすれば、筋力は維持できますから、寝たきりになるとは限りません」
そもそも、寝たきりは病気ではありません。
ケガや病気がきっかけで寝たきりが始まることはあっても、寝たきりそのものは病気ではなく、あくまでも衰弱の1つの形態です。
ケガや病気が快方に向かえば、寝たきりを改善することも、その後に寝たきりを予防することも十分に可能だといえます。しかも、それは、単純に年齢で決まるものでもありません。たとえば、鈴木さん(仮名)という男性は、今年の初め、脳卒中を患いました。
病状が落ち着いてからも体にまひが残り、2月からの3カ月間は歩こうとしても転倒ばかりしていたそうです。
実際、私たちの施設に通い始めた当初は、「こんなんじゃあ、もう俺、歩けないな……」などと、弱音を漏らされることもありました。
しかし、もともとジムで体を動かすことにも慣れており、熱心にトレーニングマシンなどで機能向上訓練を続けた結果、普通に歩くことのできる日がずいぶんと増えたのです。「こんなんじゃあ俺、歩けないな……」と感じていらっしゃったときに、以前と同じように歩けるようになることをあきらめて、機能向上訓練に取り組まず、外出を控えてばかりいたら……。
鈴木さんは、体のバランス感覚を取り戻すことなく、筋力は衰える一方で、今ごろは普通に歩けるどころか、ほとんどの時間をベッドの上で過ごしていたかもしれません。
現在の鈴木さんの姿を見れば、普通に歩けるようになるか、寝たきりに近づくかの分かれ道で、彼が最善の判断を下されたのだとわかります。
寝たきりになるのは、決して「年だから」ではありません。
そればかりでなく、最近では、「年だからといって、必ずしも老化するとは限らない」ということさえ、明らかになりつつあるのです。
「筋肉量を測定してみたら俺、30代並みの筋肉量だって。もう50代なのに、すごくない?」
などと、自分の測定結果に気をよくした経験はありませんか?
あるいは、周囲の人から、「私、まだ30代なのに、血管年齢を測ってみたら、60代って言われたんだけど。ひどくない?」といった言葉を聞かされた経験がある方もいるかもしれません。
一言でいうと、前者は老化が進んでおらず、後者は老化が進んでいるということになります。つまり、老化は「可逆的」、わかりやすくいうと、一定に進むとは限らず、場合によっては後戻りすることができるもので、その人の努力次第で進んだり、進まなかったりする現象なのです。
「でも、実際に、年はとりますよね?」
確かに、人は生まれてから亡くなるまで、一定の方向に年をとっていきます。年をとること、「加齢」は「非可逆的」で、いくら努力しても、1歳でも年が減ることはありません。つまり、まず、「老化」と「加齢」を別物として考える必要があるのです。
「加齢」は避けられない一方で、「老化」は予防したり、進行を遅らせたりすることが可能です。そして、「老化」することを最後まであきらめなければ、回避できる寝たきりもたくさんあると感じています。
では、寝たきりにならないために、「肉体的な老化」を予防、改善するために何をすればいいのでしょうか。
「いつまでも元気な体づくりで何をやっていますか?」という質問をしたときに、真っ先にあがるのがウォーキングです。スポーツ庁が発表した、令和元年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」でも、60代、70代の高齢者が「初めて、もしくは久しぶりに再開した運動」の1位は「ウォーキング」でした。
皆さんのなかでも、「1日8000歩を目標に歩くようにしている」という方は少なくないのではないでしょうか。
しかし、残念なお知らせがあります。タイトルにもあるように、ウォーキングだけをしていても、寝たきりは予防できません。
もちろん、ウォーキングにもメリットはあります。健康長寿のために、ウォーキングをすること、できるだけ電車やタクシー、車などの移動手段を使わないようにしたり、なるべく階段を使ったりすることはとても大切です。
ただ、ウォーキングで鍛えられるものと、寝たきりを予防するために鍛えなくてはならないものが違うのは事実です。
ウォーキングで鍛えられるのは、主に心肺機能です。心肺機能が鍛えられると、身体活動量の増加につながり、血液の循環がよくなることで、結果として生活習慣病の予防に役立つと考えられています。生活習慣病を予防するのはもちろん大切なことですが、極端にいうと寝て起きる動作に心肺機能は、さほど関係ありません。
また、一口に筋肉といっても、種類があります。私たちが一般的にいうところの筋肉は、筋繊維という非常に細かい束が集まり、構成されています。
そして、その筋繊維は、その特性によって、速筋繊維と遅筋繊維の大きく2種類に分かれており、どちらの筋繊維が多いのかは部位や人によって異なります。速筋繊維は、収縮するスピードが速く、大きな力を発揮できる反面、持久力は低いです。
そして、鍛えることで、太くなります。もう1つの遅筋繊維は、速筋繊維に比べて、筋肉の収縮するのが遅く、力が弱い一方、持久性に優れています。
思い浮かべてください。陸上競技の100m走の選手とマラソンの選手、どちらの足が太いでしょうか。100m走の選手ですよね。
それは、前者がスピードを求め、主に速筋繊維をトレーニングで鍛えているのに比べ、後者は持久力を求め、トレーニングで主に遅筋繊維を鍛えているからにほかなりません。
前置きが長くなりましたが、ウォーキングで鍛えられるのは遅筋繊維です。
さて、ベッドから起き上がるときの動作を思い出してください。一瞬で体を起こすには、瞬発的な動きが必要になります。だから、ウォーキングでは、寝たきりは予防できないのです。
また、年齢を重ねるとともにより落ちやすくなるのは速筋繊維といわれています。「肉体的な老化」を予防するという観点からすれば、ウォーキング以外の運動が必要なのは明らかです。
では、「肉体的な老化」を予防するには、どこをどう鍛えればいいのか。それを効果的に行うことを目的にしたのが、私たちの行っているリハビリです。今回、その中から、家で1人でもできる寝たきり予防に役立つリハビリを3つ紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
皆さん想像してみてください。ベッドから起き上がるとき、寝返りをうつように、体を横に向けて、そこから頭を起こして、起き上がります。ですので、首、背中、お腹、そして、お尻の筋肉の衰えを予防することが大切です。具体的には図表1、2、3の3つです。
リハビリで「肉体的な老化」を解消することは、「精神的な老化」の改善にもつながります。「肉体的な老化」は「精神的な老化」を進ませ、「自信の枯渇」を生み出す1つの要因です。
つまり、自分の思い通りに動けなくなったのがきっかけで自信が減っていき、その影響で自己肯定感が低くなったのなら、自分の思い通りに動けるようになれば、人としての自信をもう一度取り戻せます。
ここで注意してほしいのは、「自分の思い通りに動けるようになる」ということが、ケガや病気する以前とまったく同じレベルまで身体機能を改善するという意味に限らないということです。
いきたいときに、自分でいきたいところに移動できる。食べたいときに、人の助けを借りずに食べられる。ものを使いたいときに、多少時間がかかっても、必要なものを自分で手に取れる。
たとえ、体のどこかが十分に動かなくても、体のほかの部位や福祉用具などを使うことで、自ら選択して行動することが可能になるケースは少なくありません。
そして、自ら選択して行動できる、言い換えれば、自立しているという実感が抱ける場合には、人は尊厳を保つことができ、自信を持って生きられるのです。
逆のケースを考えてみると、わかりやすいかもしれません。
たとえば、介護施設に入所して、ベッドで食事をとるようになると、食事の献立、時間はもちろん、食べる順番まで、他人の決定に従わざるを得ないことがあります。施設のスタッフが、お盆の上のおかずやデザートをスプーンで口まで運んでくれる。その際、「次はどれが食べたい?」などと尋ねてくれるスタッフはほとんどいません。
こちらの意思にかかわらず、半ば機械的に食べ物を口のなかに詰め込まれ、食べる順番さえ、自分の思うままにならない……。そんな生活をしていたら、人として自信を持って生きていくのは難しいのではないでしょうか。
これは少々極端な例だとしても、「娘の都合に合わせないと、買い物にいけない」、「自分が用を足したいタイミングでトイレにいけない」など、自分で行動を選択できない悩みや葛藤については、私たちの施設のご利用者からもよく耳にします。
そうしたなかで、機能向上訓練やそのほかの手段によって、自分で行動を選択できるようになると、皆さん、本当に喜ばれます。
それまでとは見違えるように表情がいきいきとして、前向きな発言がぐっと増えてくるのです。それだけ、「やりたいときに、やりたいことをやれる」ことは、人生の幸福の大きな比重を占めているのでしょう。
大切なのは、体を動かせるようになることではなく、やりたいときにやりたいことをやれるようになることです。
それをサポートするのがリハビリの役割だといっても過言ではないのです。
———-上村 理絵(かみむら・りえ)理学療法士リタポンテ株式会社取締役。1974年生まれ。中京女子大学(現・至学館大学)卒業後、関西女子医療技術専門学校理学療法学科(現・関西福祉科学大学)を経て、理学療法士として活動。「理学療法士によるリハビリテーション」「日本で初めて介護保険分野で受けられるサービス」を世に誕生させた誠和医科学(現・ポシブル医科学株式会社)の創業を支援。同社退任後、リタポンテ株式会社の立ち上げに参画。著書に『こうして、人は老いていく 衰えていく体との上手なつきあい方』(アスコム)がある。———-
(理学療法士 上村 理絵)

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