「車で引きずられた女性は、ここに倒れていたんです。ひざから出血していました。事件を目撃した男性が車で犯人を追いかけましたが、途中で見失ってしまったようで……」 と、現場近くに住む女性は振り返る。
雄鶏の飼育で意見が対立
事件があったのは9月24日、午後2時12分ごろのこと。栃木県宇都宮市で不動産賃貸会社を経営する木田稔信(きだ・としのぶ)容疑者(45)は、市内の路上で被害女性Aさん(30)が運転席の窓に手をかけているのに車を発進させ、その場を立ち去った。
県警宇都宮中央署は同日夜、Aさんを約5メートル引きずって転倒させ、全治4週間のケガを負わせたとして木田容疑者を傷害の疑いで逮捕した。
「ケガの内容は右肩脱きゅう骨折と右ひじ・右ひざの擦過傷(さっかしょう)、右ひざの打撲。逮捕当時は“(Aさんが)自分で転んだんだ”などと容疑を否認している。事件前に口論をしており、ニワトリの処分をめぐる話も出ていたようだが、それが事件の引き金かどうかは、背景も含めてこれから詳しく調べる」(捜査関係者)
集合住宅の管理者が「ペットのニワトリ」について女性住人と言い争う――。
ということは、この集合住宅はペットNGなのだろうと思いきや、「いいえ。ここはペットOKなんですよ」と男性住人は話す。
「室内で小型犬を飼っている住人もいるし、Aさんが今夏ごろからヒヨコを育てているのも知っています。事件はニュースで『ニワトリの処分をめぐるトラブル』と報じられましたが、まだ成長途中のヒヨコです。朝っぱらから鳴いたりしません」
つまり、飼育禁止ではなく、鳴き声がうるさかったわけでもないということ。ならば、なぜ口論になったのか。
木田容疑者と親しい不動産関係者は「いずれ鳴くようになる雄鶏(おんどり)の飼育で意見が対立したんです」と事情を打ち明ける。
「そもそもは、とある経緯で木田社長がニワトリを飼うことになったのが始まり。その中にヒヨコもいて、それを知ったAさんが“私の部屋でヒヨコを飼いたい!”と言い出したんです。
Aさんは精神的に不安定なところがあり、面倒見のいい木田社長は“ヒヨコの飼育で心が安らぐならばいいよ”としばらく預けることにしました」(同・関係者)
集合住宅の住人らによると、木田容疑者は近くに飼育小屋をつくってニワトリ3羽を飼い、Aさんは自室でヒヨコ2羽を育て始めた。
Aさんはヒヨコを抱いて散歩に出かけたり、自転車のカゴに入れて遠出したり、無人スペースで放し飼いにして見守るなど一生懸命に世話をしたという。
「ひとり暮らしのAさんは、まるでお母さんになったようにヒヨコの面倒をみていました。体調が悪いため仕事はしていませんでしたが、“病院や買い物から帰ると、ヒヨコがピヨピヨ鳴いて、ひざや肩に乗って甘えてくるの”とうれしそうに話していました。 ヒヨコのほうもAさんをお母さんみたいに思っていたんじゃないかしら」(女性住人)
Aさんの飼育熱は増すばかりだった。木田容疑者がつくったニワトリ小屋にも顔を出し、地面に砂を敷いてあげるなど世話を焼いた。
「自分で砂を買ってきて、ふるいにかけて小石などを取り除いた後、小屋に敷いてあげていました。夏は砂が熱くなるから水をまいて。もともとAさんは、高齢者のゴミ出しを手伝ってあげるなど人間的にはよくできた人です。誰からも好かれるタイプですからね」(前出・女性住人)
ヒヨコの成長はとても早い。ふ化してすぐ歩くことができ、毎週70~80グラムずつ体重が増えていく。
約4~5か月で成鳥になると、“ピヨピヨ”という鳴き声は変わり、トサカの大きくなった雄鶏は夜明け約2時間前に“コケコッコー”と大声で鳴くようになる。
事件の発端となった、ふたりの会話
Aさんが育てているヒヨコはずいぶん大きくなり、そろそろ鳴き声が変わってもおかしくない頃合いだった。
「事件のあった日、木田社長は“雄鶏は朝早く鳴いて周囲に迷惑をかけるからこのまま預けられないよ”と諭したが、Aさんは言うことを聞かなかった。“屋外に防音機能を備えた飼育小屋を作って育てるから、家賃は待ってほしい”などと言い出し、話し合いは終わらず約2時間、足止めを食らったあとの出来事だったようです」
と前出・不動産関係者。
木田容疑者はほかの業務に差し障りが出るため話を一方的に打ち切り、
「もう、行くからね」
と車のハンドルを握ったところ、怒ったAさんは車体にしがみつくようにして、
「じゃあ、ヒヨコを買い取るから」
と車の中にお金を投げ込んできたという。
そして、そのまま車に引きずられるかたちに……。
「ケガをさせたのはよくなかった。その場から立ち去ったのもよくなかったが、まずいと思って引き返したと聞いています。親切心でヒヨコを預けたのに、こんなことになって気の毒。
Aさんとは以前から何回かトラブルがあり、事務所の窓ガラスを割られたこともあったが、情け深い木田社長は“かわいそうだから”と被害届を出さなかった。私だったら、こんなことになったらクサっちゃいますね」(前出・不動産関係者)
木田容疑者はトイレが詰まったと聞けば自ら駆けつけて便器に手を突っ込み、建物のペンキ塗りも自分でこなす。
スーツを着るのは銀行に行くときぐらいで、ふだんはペンキで汚れた服を着ているという。
「留置場でも、自分のことよりも周囲の心配ばかりしていますよ」(前出・関係者)
容疑者の妻に聞く、Aさんと旦那の関係
ひとつ、気になる点がある。一部報道でAさんについて、木田容疑者の「元交際相手」などと報じられたことだ。
かねてAさんは周囲に対し、木田容疑者を「元ダンナ」「彼氏」などと紹介することがあったらしい。
しかし、木田容疑者には同居する妻子がいる。
同容疑者宅を訪ねて妻に話を聞くと、
「結婚してもう10年になるんです。私からは詳しく話せませんが、Aさんは、交際相手でも元交際相手でも元妻でもありません」
ときっぱり言う。
当事者のAさんは右肩の手術で入院中のため、確認は取れなかった。
Aさんの知人はこう話す。
「交際相手がいたかどうかはわかりません。ただ、車に引きずられたその夜は“痛くて眠れなかった”そうです。利き腕にギプスをしているので自炊できず、買ってきたお弁当やパンを食べたって。
逃げた運転手はいまさら“本人に謝りたい”と言っているみたいですが、そのときに逃げずに謝って病院に連れていけばよかったんです」
今後の生活で肩が不自由になるリスクを避けるため、Aさんは医者から手術をすすめられていたが渋っていたらしい。
ようやく手術を受けることを決心し、「ヒヨコのためにも頑張る」と話していたという。