初の1万人突破!梅毒感染者が激増「風俗業界の変化がもたらした」性病蔓延の意外な背景

今年、梅毒の新規感染者が1万人を超えたという衝撃的な発表があった。
集計がはじまった1999年以来初めての1万人突破であり、昨年度と比べても1.7倍増。明らかな感染増加が起きているのである。
若い人なら性感染症と聞いて思い浮かぶのは、クラミジア、淋菌感染症、HIVあたりだろう。多くの人にとって梅毒は、昭和以前に主流だった性感染症というイメージでしかないのではないか。ましてや自分が梅毒になるという意識を持っている人はほとんどいないはずだ。
なぜ今になって梅毒が急増しているのか。
巷では様々な意見が飛び交っている。マッチングアプリで不特定多数の人と出会う機会が増えたことに原因を求める人もいれば、外国人から感染拡大しているのではないかと指摘する人もいる。
だが、風俗業界の人たちの意見は異なる。多くの人が次のような意見を述べるのだ。
「これは少し前からの風俗業界の変化を考えれば、誰もがわかることだと思う。みんな予期していたことなんだよ」
一体どういうことなのか。
実は日本で梅毒の感染者数が増えだしたのは2014年頃からだった。
この頃に梅毒が流行した背景には、中国を主とした外国からの売春目的の観光者数の増加が原因だったと指摘されている。中国や東南アジアといった国では、日本に比べて梅毒感染者数が多い。そうした国の人たちが客として日本の風俗店に流れてくることで、日本における感染者が増えたのである。
吉原でソープランド2店を経営する男性は次のように語る。
「中国人や台湾人、それに東南アジアの男たちは、日本に遊びに来たところで、デリヘルなど非本番系の店をあまり利用しない。彼らが遊ぶのはもっぱら本番ありのソープだ。
これはその国の売春の形態によるだろうね。アジアじゃ本番こそが風俗なんだ。それに日本のソープのサービスはアジアですごく受けが良くて、日本の風俗をコピーしたような店がたくさんつくられているくらいだ。だから、彼らが日本に来た時に『本場』のソープを利用しようとするのは当然なんだよ」
実際に中国やタイといった国には、日本のソープランドのサービスをモデルにした風俗店が多数あり、人気を博している。彼らにしてみれば、日本に来て本場のサービスを体験したいという感覚なのだろう。
しかし、それを受け入れる日本の風俗店側としては複雑な思いもあるという。彼はこうつづける。
「女の子は礼儀やルールを知らない外国人を接客することを嫌がるから、無理にやらせると辞めてしまう。だから、外国人には日本人より高い料金を請求し、その分を女の子に上乗せすることで納得してもらう。店によっては日本人の倍くらいの料金を求めているところもあるんだ。
そこまでするのは、やはり外国人客は金になるからだよ。外国人が個人で遊びに来ることは少なくて、コーディネーターにつれてこられることがほとんどだ。売春ツアーを斡旋している外国人がいるんだ。コーディネーターによってまちまちだけど、実力のある奴だと一度に20人以上の外国人客をつれてくることがある。1人あたり5万円落としたとしても100万円。それなりの金になるだろ。今はなかなか日本人客が風俗で遊ばない時代だ。だからこそ、店としては外国人でもってその穴埋めをしようとするんだ」
今の日本の若者の間には、風俗遊びをするような空気はあまりない。その背景には、不況や性に対する無関心など様々な理由があるだろう。ただ、特にソープランドはその傾向が顕著で、主な利用者層は中高年。店によっては60歳以上がメインだということもあるそうだ。
こうなれば、ソープランドが新規の客を開拓しようとすれば、インバウンドの買春ツアー客に狙いを絞るしかない。そのために、コーディネーターに対する手数料を増やしたり、女の子へのマージンを上げたりするのだ。
こうした時代の流れの中で、ソープランドを中心にして梅毒の感染が少しずつ広まっていったとみられる。ソープランドの経営者の間では、このことは自明だったが、いかんせん公表される感染者数が1000人台~2000人台とそこまで多くなかったため、女の子たちが危機感を募らせるまでにはならなかったという。
ただし、客観的に見れば、この数字は決して安心できるものではない。なぜならば、梅毒に感染しても、それが明らかになるまでにタイムラグがあるからだ。
たとえば、淋菌感染症は感染して数日以内に性器から膿が出るなど明らかな症状が出る。痛みや臭いもある。そのため、すぐに病院へ行って検査を受けるし、検査方法も分泌液を採取するだけで済むので発見されやすい。
一方、梅毒は違う。感染して数週間で出る症状は、リンパの腫れやしこりなど、すぐには性感染症と疑いにくいものだ。そして第二期として身体に様々な症状が出るのは数ヵ月から数年を要する。さらにいえば、検査方法は血液検査だ。そうなると、感染してすぐに病院へ行って結果が出るということが淋菌感染症などと比べて少ない。
先の吉原の経営者は次のように語る。
「女の子の多くは、病気だという自覚症状があって初めて検査に行くことがほとんどだよ。意識の高い子は性感染症の定期検査を受けているけど、普通は血液検査までは受けない。検査代が上がってしまうし、血液検査でわかるHIVや梅毒にはなかなか感染しないからな。よほど危機管理がしっかりしている子じゃなければ、数ヵ月に一度、梅毒の検査をするなんてことはない。
そうなると、実際に感染している女の子の数は、実数の何倍、何十倍になる可能性が出てくるよね。経営者はそれをわかっていたから、仲間内では『やばいよな』『これ絶対後でひどくなるよな』って話していたけど、結局女の子に対してできることは限られている。女の子は個人事業主だから、店側にできることは『気をつけろよ』と注意することくらいなんだよ。あんまりビビらせて辞められると困るしね」
歓楽街にあるクリニックでは、HIVと梅毒を一つの血液検査で調べることが多い。ただ、今の若い子にとってHIVはそこまで深刻な病気という意識がないため、自主的な定期健診で血液検査までする人は少ないそうだ。
もしこの経営者の語っていることが事実だとすれば、日本ではソープランド業界を中心にして外国人訪問客の増加とともに感染者数が水面下で拡大していたことになるといえるだろう。
では、なぜ今になって爆発的に増えたのか。その驚くべき理由については、現場の人たちの言葉を参考に【後編:梅毒感染者が激増!ソープランド経営者が語る「外国人の客の影響」】で詳しく述べたい。
取材・文・撮影:石井光太77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。