朽ちた「迷宮のお城」で重傷事故、建築物に該当せず安全基準なし…同様施設が全国40基

■転落事故 6人けが
遊園地などにある「立体迷路」の事故を防ぐため、消費者庁の消費者安全調査委員会(消費者事故調)が実態調査に乗り出した。
全国に約40か所あり、子供も大人も気軽に探検気分を味わえる施設だが、昨秋には兵庫県の遊園地で利用客6人が重軽傷を負う転落事故が発生。法規制がないため、管理が事業者任せになっている側面もあり、専門家は安全対策を強化する必要があると指摘している。(柏原諒輪、石井恭平)
■背中の骨折る
「一瞬の出来事で、何が起きたのか分からなかった」
家族で訪れた兵庫県加東市の遊園地「東条湖おもちゃ王国」で事故に遭った大阪府東大阪市の大工の男性(28)は、当時の状況をそう振り返る。
事故が起きたのは、昨年10月10日の午後2時頃。「カラクリ迷宮のお城」と名付けられた立体迷路の3階部分から、約1メートル四方の床板が2枚抜け落ち、男性を含む男女7人が2・4メートル下の2階に転落した。男性を含む4人は軽傷ですんだが、妻(28)ら2人は背中の骨を折るなどの重傷を負った。
男性によると、妻とともに子供3人の後を追っていたところ、「ガタン」と大きな音がし、気付くと2階に落ちていた。激痛に耐えながら起き上がると、そばには頭から血を流して倒れている妻の姿が。薄暗い周囲からは「痛い」「動かれへん」といったうめき声や泣き声が上がっていた。
先を進んでいた子供3人は無事だったものの、妻は約1か月入院。今も完全には回復しておらず、2歳になった一番下の娘を抱き上げることができない。同じ姿勢で長時間座れなかったり、自転車に乗れなかったりし、生活に支障が出ているという。男性は「子供も利用する施設なので、しっかり安全管理をしてほしい」と訴える。
■国が実態調査
この立体迷路が同園に設置されたのは2013年4月。木造5階建ての外観は名称の通り城のようだが、屋根がないことなどから建築基準法上の「建築物」にはあたらない。同法の規制対象なら、定期検査に基づく自治体への報告が義務付けられるが、立体迷路は行政の目が届かず、兵庫県建築指導課は「チェックする法的権限がなく、園に管理を任せていた」と説明する。
事故の刑事責任については、兵庫県警加東署が業務上過失傷害容疑で捜査中だ。一方、製品や食品など、暮らしに関わる事故の調査にあたる消費者事故調は、立体迷路に法規制や安全基準がない点を問題視し、今年5月、国の所管省庁がない「隙間案件」として調査対象にすることを決めた。
事故調によると、この立体迷路は雨ざらしで床板を支える梁(はり)が腐っていた。事故調は今後、防腐処理や点検が適切に行われていたかなどを詳しく調べていく。
立体迷路では14年9月にも群馬県の遊園地で床の抜ける転落事故が起きており、2人が軽傷を負った。事故調は再発を防ぐため、年内には対策をまとめる方針だ。
消費者事故に詳しい向殿政男・明治大名誉教授(安全学)は「多くの人命を預かる施設側は、専門家の定期点検をしっかり受けるなど安全管理の徹底が不可欠だ。国は行政機関が監督できるよう、法改正なども検討する必要がある」と指摘する。
■施設の自主点検 腐食に気付けず
事故が起きた立体迷路を作ったのは、千葉県浦安市の遊具施工会社「キートス」。同社は2012年以降、九州から北海道まで、各地の遊園地などに約40基を納入している。
同社は遊園地側に対し、木材の腐食やボルトの緩みの有無などを日常的に点検するよう要請。設置後3回は無償点検を担い、その後も専門業者の定期点検を受けるよう求めている。
担当者は「弊社の迷路で事故が起き、大変遺憾。お客様には大変申し訳なく、完治を心より祈念している」と謝罪する一方、「園が業者の定期点検を受け、腐食部を発見できていれば防げた可能性もある」と話す。
東条湖おもちゃ王国は事故の数か月前にキートスの点検を受ける予定だったが、新型コロナ禍での一時休園に伴い中止。その後は点検を受けずに営業を再開していた。
園の支配人は、点検を見送った理由は答えられないとしたものの、「職員には目視や触診などによる日常点検の徹底を指導していたが、腐食に気付けなかった。事故を受け、職員に日常点検の重要性を改めて呼びかけている」と話した。