フリーライターのたかなし亜妖と申します。WEBコラムや映画・漫画レビュー、時にシナリオなどジャンル問わず文章を書く日々です。2016年に「ほかにやることがなかったから」という理由でセクシー女優デビュー。なんとなく入った業界で気づけば2年半が経過したところで、引退を決意しました。
その後は何事もなかったかのようにシレッと昼の世界へ出戻り。ライターになり早4年が経とうとしています。
以前、自身の転職記で転職エージェントについて軽く触れましたが、当時の記事には書ききれなかった裏話があるので、番外編と称してエージェントとの出来事を話していこうと思います。
◆転職エージェントに紹介された会社は「たったの2件」
セクシー女優を引退後、自分の足で転職活動をする傍らでこんなエピソードがあった。
セクシー女優という経験を隠していたこともあって、学歴なし、職歴ほぼなし、何もなし。無し無し続きの私に紹介できる会社などあるわけがなく、担当者のA氏は経歴書と睨めっこしながら顔をしかめていた。
実務経験ゼロでも応募可能な会社は2件。勝算はなく、どう考えても負け試合に等しいだろう。しかし挑戦してみないことには何も始まらないと考えたため「応募はできますか?」とダメもとで尋ねた。
するとA氏は「応募は可能だが難しいと思う」とばっさり斬った。嘘をついてGoサインを出されてから玉砕するよりマシだったが、当時の不安な心にはハイダメージだったのである。
今考えるともう少しスペックを上げ、きちんと挑める状態で面談すればよかったのかもしれない。甘い考えを持つ私はエージェントを使えばどうにかなると思っていた部分があったからこそ、現実とのギャップを余計に感じてしまったのだ。
当たり前に「難しいと思う」予言はドンピシャで当たるのだが。豆腐メンタルの世間知らずにもう少し優しくしてくれてもいいんじゃないか。勝手ながらそんなことを考えてしまうのだった。
◆転職後、エージェントからの猛プッシュが…
某ゲーム会社に勤めて数か月が経った頃、見知らぬ番号から着信があった。恐る恐る電話に出るとA氏の声が聞こえる。
そう、私は一社落ちた時点ですぐさま方向転換をしたため「自分で会社を探してみます」と担当者へ伝えていたのだった。
早々にエージェント経由の選択肢を捨てていたが「いや、あなたのところはもう使いませんよ」とはハッキリ言えない。Noを思い切り突き付けられぬ、日本人特有の悪い癖である。
A氏は今の状況や転職に対する意向を確認したかったようだが、すでに働き始めている。こんなオワコンを拾ってくれる会社などまずないため、しばらくは腰を据える旨を伝えると、彼は人が変わったかのように転職を猛プッシュし始めた。
「今のところ、現在の会社にどのくらいお勤めされる予定ですか? 目処立ってます? 実務経験を積めばもう一つ大きなところで働けますよ。シナリオライターさんって基本足りていませんし、たかなしさんの書かれたお話でしたら……」
あまりの勢いに少々驚いてしまったが、ハイハイと話を右から左へと流しながら私は過去の世界を思い出していた。セクシー業界でも夜職専門のスカウトマンから、ある日突然「プロダクションを変えませんか?」なんて連絡があることを……。
◆セクシー業界にもある「スカウトバック」とは
きっとA氏も同じ状態を強いられているのかもしれない、と思ったがそれとこれとでは話が別なので毅然とした態度で断った。それ以来着信が来ることはなく、時折“ご案内メール”が来る程度だったのだが……。
◆忘れたころに魔の着信が……
私の悪い癖なのだが、相当付き合いが深くない限り電話番号を登録しない傾向にある。今となっては気を付けるようになったものの、当時は本当にマメではなかったのだ。
フリーランスになって少し経った頃、見覚えのない番号から着信。この前面談したクライアントの採用通知かもしれない! と嬉々として電話を取ると、まさかのA氏だった。名乗られた瞬間嫌な考えが頭をよぎり、残念な予想は見事に的中してしまう。
今後も着信があると困るため案内は不要と伝えるのだが、今回ばかりは一向に引き下がらない。
「業務委託で会社に勤務するといった形がありまして……ご存じです? 今募集している会社様がいくつかあるんですよ~。たかなしさんの書かれたお話でしたら……」
もし自分が営業マンだったら彼の根性は見習いたいものがある。あのしかめっ面を浮かべていたA氏は一体どこへ行ったのだろう。スマホを握りしめる手に力が加わっていたが、頭の片隅で「何かに激しく食らいつく姿勢は時に大事な行為なのかもしれない」と冷静に分析していた。
◆新米フリーランスが学ぶべきこと
かつての人生、私は何もかも中途半端で全力で物事を追い求めた経験がなかったため、この熱心さは今の自分に足りないものかもしれないと。
簡単な言葉で片づけてしまえば単にしつこいだけだが、見方を変えればある種一つの営業テクニックと言えるだろう。フリーランスになったばかりの私にとって、彼の存在は色々な意味でいい刺激になった。
こんなポンコツに学びを与えてくれてありがとう、と感謝の気持ちを込めながら「もう電話しないでください。転職しないんで」と返し、退会手続きを進めたのは言うまでもない。
◆転職エージェントとの関わりは学びがあった
初めて登録した転職エージェントは数年間にわたり、さまざまな発見を私に与えてくれた。
担当者とはたった一度しか顔を合わせたことはなかったが、自分の中でたいへん色濃い思い出となっている。
ただひたすらに悪口を並べているように見えるかもしれないが、決してそうでないことを伝えたい。また他社を知らないため、全ての会社が同じとは限らないだろう。
あくまでこの話は一例として捉えてもらいたいのだが、似たようなエピソードを持っている人がいればこっそりと私に教えてほしいものだ。
文/たかなし亜妖
―[元セクシー女優の昼職転職記]―