■[スキャナー]情報提供軽視、「個人犯罪」固執
日本大学がアメリカンフットボール部員の違法薬物所持事件で揺れている。
昨年秋以降、部員が大麻に関わっているとの情報に複数回接していたが、報告・共有体制の不備や危機意識の希薄さが問題を拡大させた。責任を巡り、大学上層部に不協和音が生じる事態となっている。(教育部 宇田和幸、上田詔子、山田睦子)
■機会生かせず
「私たちはいくつかミスをしたんです」。9月4日、日大本部の自室で、林真理子理事長が沢田康広副学長に諭すように訴えた。本紙が入手した録音データに残されていた。
「ミス」とは、アメフト部員(21)(麻薬取締法違反で起訴)の逮捕を受け日大が8月8日に行った記者会見のことだ。林氏や沢田氏が2時間17分にわたって説明したが、「世間の納得が得られなかった」と林氏は語った。
そもそも、事件を巡る最初の「ミス」は2022年秋にさかのぼる。
「部員が寮内で大麻を吸っている」とのうわさが保護者からアメフト部監督にもたらされた。監督が部員に聞き取り調査をしたところ、1人が「ほかの人と一緒に吸ったことがある」と申告。警視庁からも同年12月、部内で大麻が使用されているとの情報が提供された。
だが監督や、日大の運動部を統括する競技スポーツ部長は「立件できるものではない」「真偽不明」と深刻にとらえず、上司にあたる沢田氏ら大学上層部に報告しなかった。
■甘い見通し
その後も日大の対応は甘いものに終始した。
アメフト部監督は、部員から申告のあった大麻使用については昨年11月末、地元の警察署に相談し、「立証困難。厳重注意を」と指導されたという認識だった。しかし実際は、アメフト部関係者が日大OBの警察関係者に話しただけだった。監督や競技スポーツ部長が、警察に正式な相談をしていなかったことを把握したのは“相談”から7か月後の7月7日だった。
警視庁に促される形で沢田氏らが7月6日、寮を調査し、植物片を見つけたが「自首を待ちたい」として警視庁へ連絡したのは発見から12日後。部員120人への聞き取りを続けていた8月3日に寮が捜索され、同5日に部員が逮捕された。
この部員以外の全部員から大麻は使用していないとの「誓約」が得られたとして、日大は8月10日、「部員1人による薬物単独所持という個人犯罪」との見解とともに、わずか5日前に科した無期限活動停止処分解除を発表した。
■11人に疑い浮上
日大上層部が「個人の犯罪」の認識を改めたのは、8月22日、警視庁による寮の再捜索だった。
林氏も出席し、8月25日に開かれた、学内会議の議事録によると、任意で事情聴取された部員のうちの1人からの申告などで、計11人に大麻使用の疑いがあることも浮上。競技スポーツ部長が「(学生から)虚偽の申告をされていた。調査が甘かった」と陳謝した。
日大は「もはや個人の犯罪にとどまらない」として9月1日、アメフト部を再び無期限活動停止とした。
9月の別の会議では事情聴取された部員は9人だと報告された。10月16日、別のアメフト部員(21)が麻薬特例法違反容疑で警視庁に逮捕された。
「世間にしっぽ振る結論」
日大では、アメフト部の選手が対戦チーム選手に危険なタックルをして負傷させた問題(2018年)や、元理事長の脱税事件(21年)といった不祥事が相次いだ。組織立て直しを掲げ昨年7月、卒業生で作家の林氏が経営トップの理事長に就任。教育・研究に責任を負う学長も元日大総長の酒井健夫氏に交代した。理事や副学長も一新し、競技スポーツ担当の副学長に抜てきされたのが元検事で法学部教授の沢田氏だった。
事件は日大のガバナンス(組織統治)にも疑義を突きつけた。文部科学省は8月22日、日大に事件対応を検証して報告するよう指導。国からの私学助成金の3年連続不交付の可能性も出てきている。
日大関係者によると、事件の責任を沢田氏に負わせるべきだとの意見が日大上層部で浮上している。「世間に『ごめんなさい』してしっぽを振るという結論を出している。補助金も欲しいし、たたかれたくない」。9月4日、林氏は、こう述べて沢田氏に辞任を迫った。沢田氏は「(一連の対応は)学長に報告しており、理事長にも伝わっているはず」と反論、「聞いていない」とする林氏との応酬となった。
同志社大の太田肇教授(組織論)は「日大は当初、世間の常識を捉える感覚が不十分で、どれだけ重大な問題かを分かっていなかった。事態が深刻であればなおさら、対立ではなく、関係者の情報共有を徹底する必要がある」と話した。