高級住宅街に突如現れる激安コンビニ、ポツンと立っている飲食店……。「なぜ、こんなところにお店を構えているのか?」、不思議に思ったことはないだろうか? 実はその立地に、「隠れたニーズ」があるかもしれない。では、誰のニーズなのか? 3万件の調査実績をもつ店舗開発のプロフェッショナルで、『図解 すごい立地戦略』(植井陽大氏との共著)を出版した榎本篤史氏が解説する。
突然ですが、クイズです。
高級飲食店やセレクトショップが並ぶ恵比寿に、安さが売りのローソンストア100があります。なぜ恵比寿への出店を決めたのでしょうか?
東京・恵比寿といいますと、みなさんどのようなイメージをおもちでしょうか?
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オシャレなお店がたくさんあって、芸能人も住んでいるような高級住宅地、「住みたい街」などのランキング上位にいつも入っている……だいたいそんなイメージでしょう。
確かに、恵比寿の駅には流行を捉えたショッピングビルがあり、大勢の人が行き交って、話題の飲食店も軒を連ねています。
南の目黒方面へ向かうと、サッポロビール工場跡地に建てられた複合施設「恵比寿ガーデンプレイス」があり、国内だけでなく海外からのお客様が訪れているのも見られます。
西の代官山方面の路地に入れば、隠れ家のような雰囲気の高級飲食店やセレクトショップがひっそりとたたずんでいます。
そんな恵比寿に、安さが売りのローソンストア100がオープンしました。
ローソンストア100は、水色に牛乳瓶の看板でおなじみのローソンと異なり、緑色の看板に目玉デザインの「100」が目立つロゴで展開されている、100円の価格帯の商品を扱う生鮮コンビニです(現在は100円以上の商品も増やし、「献立応援コンビニへ。」というコンセプトにリニューアル)。
野菜や果物といった生鮮食品をはじめ、惣菜や日用品を扱い、安さと使い切りサイズの商品ゆえに、単身者や高齢者に人気があります。
オシャレで高級なイメージの恵比寿に、手頃な価格帯の生鮮コンビニ……。ちょっと不釣り合いな気がしますよね。
「そんなところに出店しても、儲からないのでは?」と思うのではないでしょうか。
ところが、この店舗が、なんと出店後まもなくから大変な売上を上げたのです。
このローソンストア100が出店したのは、恵比寿駅から東の方面、広尾駅とのちょうど中間あたりです。
駅からは結構距離があります。なぜ、こんなところでトップクラスの業績が上がったのでしょうか。
駅の喧騒から離れたこの地域は、古い一軒家が建ち並び、都会的な駅前とは明らかに雰囲気が異なります。
実は、かつてそのあたりはネジ屋や鉄工所といった小さな工場が建ち並んでいた工業地帯で、今は準工業地域に指定されています。
人が集まるような商業施設は、恵比寿の駅前にしか建てられない決まりになっているのです。
ここまで来れば、だんだんわかってこられたのではないでしょうか。
そう、ローソンストア100がここに店を出した理由は、「この地域に住む人のための安いスーパーマーケットが近隣になかったから」でした。
駅ビルには高級志向のスーパーマーケット「ザ・ガーデン」が入っていますが、昔から一軒家に住んでいるような方たちにとっては家からも遠いし、商品も高いので、身近にできた100円生鮮コンビニのほうにニーズがあったというわけです。
値段の高いキャベツは確かに美味しいかもしれませんが、普段自分が食べる分には100円で買えるキャベツで十分と考える人が、恵比寿にも大勢住んでいたわけです。
これは消費者感覚として大いにうなずけますよね。
この恵比寿の事例は極端ですが、意外と駅周辺の商業地域の様子や、そこにやって来る人たちの層や雰囲気、賑わいなどといったものと、実際にその地に長年暮らしている人たちや地域の様子には、ギャップがある場合が珍しくありません。
駅前から少し離れると、まったく印象が変わる街というのは全国各地にあるでしょう。イメージ先行で考える前に、しっかり現地の街の様子を見て、本当にそこに、その街に自分が出したい店のニーズがあるのか、見極めることが大切です。
さて、続けてもう一問いきたいと思います。
ローソンストア100は、主婦層をターゲットにして立ち上げた事業でした。ところが、実際のメインの客層は違いました。さて、メインの客層とは誰でしょう?
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スーパーマーケットは、時代の変遷と業界の関係を学ぶうえでもよい事例といえます。
今、スーパーマーケットは、コロナ特需があったとはいえ、業界全体が縮小傾向になりつつあります。
いくつか原因は考えられるのですが、まずひとつは店舗数が多くなりすぎてしまったことがあるでしょう。店舗数が多すぎると、買い物をする人は分散されます。ひとつの駅にいくつもあるようだと、それぞれが奪い合ってあまり集客できず、売上も上がりません。そして、スーパーに行く人の数自体が減っていることも原因です。
今、独身者が増えていて、男性の独身者の場合、多くが食事を外食やコンビニなどで済ませてしまいます。スーパーで食材を買って料理をする人が減っているのです。
もちろん、女性の独身者も同じく増えていることも一因です。仕事をしている女性が増え、結婚年齢が上がっています。独身の女性でも、毎日食事をつくっている人はそんなに多くないのではないでしょうか。
生鮮食品も扱う「ローソンストア100」で、以前アンケートをしたことがあります。30店舗ほどで実施したのですが、そこで面白い結果が出てきました。
そもそもローソンストア100は、スーパーに行く主婦層をターゲットにして立ち上げた事業でした。
ところが、いざ事業が動き始め店舗が増えていくと、実際に店舗に訪れるメインの客層は高齢者だったのです。
そこで、高齢者のお客様を集めて、「なぜスーパーマーケットではなくローソンストア100を利用するのですか?」とアンケートを採りました。高齢者は、コンビニの商品は添加物が多そうで、値段のわりによくないのでスーパーのほうが好ましいと考えていそうなイメージがあります。
年代的にも近年進化してきているコンビニよりは、昔からあるスーパーのほうがなじみがあって通いやすいといえば、納得してしまいそうです。
ところがフタを開ければ、「スーパーはほしいものを探すのに、歩き回って疲れる」という回答が多く寄せられたのです。
コンビニは40坪程度の広さで、ぐるりと一回りすればほしいものを集められます。スーパーはだいたい200~300坪ほどの店舗が多いです。広々とした店内を端から端まで移動するとなると、確かに結構な距離です。
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また高齢者は、食べる量も少な目です。スーパーはファミリー層向けの商品が多いため、食材ひとつの量が多すぎるのです。
今は、小分けパックや4分の1サイズの野菜など、さまざまな商品が販売されていますが、小分け商品ではコンビニのほうが、品揃えが豊富なことも珍しくありません。小さな店舗で少量を買えればいい、そんな考えの高齢者が増えている。だから、生鮮食品を扱うコンビニも増えています。
スーパーも市街地への小型店の出店を加速させています。イオン系列の「まいばすけっと」や、同じくイオンに統合された「マルエツプチ」などがその代表で、こうした店舗が全国に2000店舗ほどあります。
さらに、若い世代で使われているのが、ネットショッピングです。こだわりの食材を宅配してくれる「オイシックス」や「らでぃっしゅぼーや」などは都心部を中心に売上を伸ばしています。
各スーパーはネット通販にも力を入れていて、ネットで注文すればすぐに届いて買い物に行く手間が省けると、共働き世帯に人気が出始めています。
さまざまな代替案が増えたことで、毎日スーパーで食材を買い、料理をしなくても暮らしていけるようになりました。独身者の増加、晩婚化により、若い世代がスーパーに行かなくなる。さらに、高齢者もスーパーに行かなくなる。
そうなると、いったい誰がスーパーに行くのか?
このように、日本の家族構成の変化が、ファミリー層が中心顧客のスーパーには大きく影響を与えているのです。
日本人の生き方や働き方、そういったものが変化すると、求められるものも当然変わってきます。その受け皿である飲食店や小売店は、供給の仕方も変わってくるし、ニーズも大きく変わってくるものです。
大型店舗をつくり、大量の品を揃えていればよかった時代は終わりました。世の中の変化に敏感になり、求められるかたちに柔軟に対応していくことが、スーパーマーケットという業態そのものが生き残るための大きなカギとなるでしょう。
なお、小学校・中学校とスーパーマーケットは、親和性が非常に高いものです。学校に通う子どもがいるということは、家族で住んでいる世帯が周辺に暮らしているということ。
昼間人口は増えますが夜間人口は減少するオフィス街などよりも、小中学校がある地域にスーパーが多いのは当然ですし、単身世帯ばかりの地域と比べると一世帯あたりの人数が多いので、売上も高いでしょう。