「エホバの証人」の2世信者だった小松猛さん(40)が産経新聞の取材に応じ、過酷な実体験を証言した。
小松さんが実名と素顔をさらすのには理由がある。「家族との関係が壊れることを恐れて抜け出せない人もいる。先例を示すことで、いろいろな声が出せるようになってほしい」との願いからだ。
物心がついた頃に母親が入信。信仰に反対する父親とは別居状態となり、教義に即した生活を強制された。学校行事への参加は禁止され、流行していたアニメも見られなかった。
「禁止されたアニメの必殺技をまねした」「参加した集会で落ち着きがなかった」-。さまざまな理由で、ビニール革製のベルトを二重三重に折り重ねた手製のむちで打たれた。痛みで涙を流せば母親の怒りが増していくため、必死で涙をこらえた。
学校行事の時間には1人だけ図書室に向かった。母親に連れて行かれた戸別訪問先が同級生の家だった時には、後でからかわれた。「自分の意思でやるように強制され、母親が望むようにしないとむちが待っている」。次第に母親が求める受け答えが正解だと思い込むようになったという。
中学1年で自身も入信。次第にのめり込み、通信制高校に通いながら学校以外の時間は全て信仰にささげた。月90時間の奉仕が求められ、高校卒業後はアルバイト生活で、月10万円に満たない収入だった。
転機は20歳の時、一般女性との結婚だった。一度脱会し、女性を誘って再入信するつもりだったが、女性から「違う人生も味わってみたら」と言われた。禁止されてきた誕生日やクリスマスを祝うことで「これが自分らしく生きること」と実感し、信仰心は消えた。
脱会で信仰を続ける家族との交流が絶たれることに悩む元信者は少なくない。小松さんも知らぬ間に実家が売りに出されていた。母親からは数年に一度連絡が来るが、再入信を促すだけの内容にとどまる。「普通に送れたはずの人生が奪われた。泣き寝入りしかない現状をどうにかしたい」。小松さんはそう訴えた。

エホバの証人は虐待などの訴えに対し、「児童虐待を容認していません。しつけには子供が悪いことをしたときに矯正することも含まれます。とはいえ、しつけは子供に対する愛に基づいて行われるべきであり、決して虐待したり、冷酷に接したりすべきではありません」とする声明を出している。