「忘れられたら利恵ちゃんが二度死ぬ」 闇サイト殺人、母の15年

名古屋市千種区の派遣社員、磯谷(いそがい)利恵さん(当時31歳)が2007年、携帯電話の闇サイトを通じて集まり強盗を計画した男3人に殺害された事件は、24日で発生から15年となる。「親孝行で、優しく強かった娘のことを、どうか忘れないで」。母富美子さん(71)はそんな思いから、今も各地で講演し、事件について語り続けている。
【未解決20年…息子はなぜ殺されたのか】 事件翌日、旅行先の長野県で知らせを受けた。電車に飛び乗り、愛知県警千種署に駆けつけると、変わり果てた利恵さんの姿があった。遺体はブルーシートに包まれ、頭だけが出ていた。大きく膨れ上がった顔には複数のあざがあり、髪には血のりがべっとり付いていた。後に知ることになるが、利恵さんは頭をハンマーで何度も殴られるなどして殺害された。「もうお母さんがいるから大丈夫。安心して、もう怖くないからね」。娘にそう語りかけながら、体をさすった。

直後から3人の極刑を求める署名活動を始め、5年間で33万2806人分を集めた。「彼らを死刑にすることだけを考えて走ってきた」。3人のうち1人が死刑、2人は無期懲役が確定した(うち1人は後に別の強盗殺人事件で死刑が確定)。「無期懲役は納得はできないが、裁判も終わり、今は事件に関わらなくていいのでほっとしている」 今も全国を講演して回る。事件を伝えるとともに、被害者支援制度の充実も訴える。自らの経験から、支援が十分でないと感じるからだ。当時、警察から長時間にわたって事情を聴かれ、時には心ない態度を見せる警察官もいた。自宅に記者が押し寄せ、親族宅に身を寄せざるを得なかった。「なぜ被害者遺族ばかりがつらい思いをしなければならないのか。2次被害だと思った」と振り返る。 犯罪被害者らを支援する団体にたどり着いたのは、事件から随分たった後だ。「支援員の方に話を聞いてもらったり、さまざまな制度を紹介してもらったりして気持ちが軽くなった」 犯罪被害者や遺族を支援する条例を制定する自治体は増えている。ただ、条例があっても、見舞金の有無など支援内容にばらつきがあるのが実態だ。「国が主導し、どこに住んでいても同じ支援が受けられるようにしてほしい」と望む。 ネットを通じて集まった、見ず知らずの男たちが起こした凶悪事件。「犯罪を誘発するサイトを運営する管理人を取り締まる法律が必要では。利用者も安易に使わないで」と訴える。 「事件が忘れられたら、利恵ちゃんが二度死ぬことになる」。そんな思いを胸に、これからも講演活動を続けるつもりだ。一方で、趣味のゴルフや絵画も楽しもうと考えている。「以前のように、いっぱい笑おう。私が笑顔で暮らしていれば、娘も安心してくれると思うから」【森田采花】闇サイト殺人事件 2007年8月、名古屋市千種区の路上で、携帯電話の闇サイトで知り合った男3人が帰宅途中の磯谷利恵さん(当時31歳)を拉致。現金約6万円などを奪った上、ハンマーで頭を数十回殴り、ロープで首を絞めて殺害した。1人は死刑が確定し15年6月に執行。ほかの2人は無期懲役となったが、うち1人は別の強盗殺人事件で死刑が確定した。
事件翌日、旅行先の長野県で知らせを受けた。電車に飛び乗り、愛知県警千種署に駆けつけると、変わり果てた利恵さんの姿があった。遺体はブルーシートに包まれ、頭だけが出ていた。大きく膨れ上がった顔には複数のあざがあり、髪には血のりがべっとり付いていた。後に知ることになるが、利恵さんは頭をハンマーで何度も殴られるなどして殺害された。「もうお母さんがいるから大丈夫。安心して、もう怖くないからね」。娘にそう語りかけながら、体をさすった。
直後から3人の極刑を求める署名活動を始め、5年間で33万2806人分を集めた。「彼らを死刑にすることだけを考えて走ってきた」。3人のうち1人が死刑、2人は無期懲役が確定した(うち1人は後に別の強盗殺人事件で死刑が確定)。「無期懲役は納得はできないが、裁判も終わり、今は事件に関わらなくていいのでほっとしている」
今も全国を講演して回る。事件を伝えるとともに、被害者支援制度の充実も訴える。自らの経験から、支援が十分でないと感じるからだ。当時、警察から長時間にわたって事情を聴かれ、時には心ない態度を見せる警察官もいた。自宅に記者が押し寄せ、親族宅に身を寄せざるを得なかった。「なぜ被害者遺族ばかりがつらい思いをしなければならないのか。2次被害だと思った」と振り返る。
犯罪被害者らを支援する団体にたどり着いたのは、事件から随分たった後だ。「支援員の方に話を聞いてもらったり、さまざまな制度を紹介してもらったりして気持ちが軽くなった」
犯罪被害者や遺族を支援する条例を制定する自治体は増えている。ただ、条例があっても、見舞金の有無など支援内容にばらつきがあるのが実態だ。「国が主導し、どこに住んでいても同じ支援が受けられるようにしてほしい」と望む。
ネットを通じて集まった、見ず知らずの男たちが起こした凶悪事件。「犯罪を誘発するサイトを運営する管理人を取り締まる法律が必要では。利用者も安易に使わないで」と訴える。
「事件が忘れられたら、利恵ちゃんが二度死ぬことになる」。そんな思いを胸に、これからも講演活動を続けるつもりだ。一方で、趣味のゴルフや絵画も楽しもうと考えている。「以前のように、いっぱい笑おう。私が笑顔で暮らしていれば、娘も安心してくれると思うから」【森田采花】
闇サイト殺人事件
2007年8月、名古屋市千種区の路上で、携帯電話の闇サイトで知り合った男3人が帰宅途中の磯谷利恵さん(当時31歳)を拉致。現金約6万円などを奪った上、ハンマーで頭を数十回殴り、ロープで首を絞めて殺害した。1人は死刑が確定し15年6月に執行。ほかの2人は無期懲役となったが、うち1人は別の強盗殺人事件で死刑が確定した。